100年以上経営理念が存在しなかった中小企業で社員と一緒にイチからMVVを作った話
今回はMVV策定についての話です。
弊社では今回、約1年という長い時間をかけてMission Vision Value(以下「MVV」という)を策定しました。最近ではパーパスだったりフィロソフィーだったり志だったり、会社によって色んな言い方があると思いますが、つまりは経営理念や行動指針に該当するものです。
今回はMVVをなぜ策定しようと思ったか、そしてどうやって策定したか、について書いていきたいと思います。手前味噌ですが、弊社のメンバーが本気で頑張ってくれたおかげで、可能な限り外部に依存せず、自分達の言葉を積み上げて全員が腹落ちするMVVが出来たなと自負していますし、それは社員への浸透度合いが何よりもその質の証左だと思っています。
※2022年7月7日追記
完成したMVV SOBAJIMA BOOK
理念も社是もなかった弊社
2020年4月に親の経営する会社に入社して、まず何よりも驚いたのが「経営理念の不存在」でした。弊社は創業115年の老舗製缶メーカーですが、調べる限りではどうもこれまで一度も「理念」どころか「社是」のようなものすら作っていなかったようです。弊社には40年以上勤続してくれているメンバーも何人かいますが(最高65年!)、誰に聞いても口をそろえて「そんなもの聞いたことない」「とにかく早くたくさん作れ以外言われたことがない」という反応でした。
自分の前職は日本政策公庫でしたが、そこでは明確な基本理念と経営方針がありました。民業圧迫等を日々突きつけられ、その存在意義を常に迫られていたという事情もありますが、「政策金融の的確な実施」という力強い理念を基準に、中期経営計画や個別計画が作られていたこともあり、自分も末端社員として理念を羅針盤にしながら働いていた記憶がありました。
「経営理念ないのにどうやって経営判断できるの?」
というのが僕の率直な感想でした。
写真も記録も残っていない創業経緯
理念がないことに加え、もう一つモヤモヤしていることがありました。それは、誰も弊社の創業の歴史やどんな事業をやってきたかを知らないということでした。そもそも弊社の名前がなぜ「側島」となっているのか?創業当初どんな事業をやっていたのか?どんな変遷を経て現在に至るのか、それを知っている人は社員には誰もおらず、今社員が知ってるのは、基本的には昔は良い時代だったこと、そして目の前につくっている缶と、今の取引先だけ。
ここは弊社の紆余曲折とした歴史に起因するものでした。
元々弊社は側島氏が創業し、その後2代目(僕の祖祖父)が事業を継いで以降石川家がやっているのですが、その後3代目になる予定だった僕の祖父が夭折で早くに亡くなってしまったという歴史があったことがまず一つ。
そしてもう一つは、戦争で工場が焼失してしまったり、高度経済成長期に工場の移転があり、その際に創業当時の資料や記録を全て廃棄してしまったというものでした。
その企業がなぜ存在するのか、本来は歴史からひも解いていくべきものですが、その歴史すら不確実なものしかないというのが弊社の状態でした。
とりあえず作ってみたMVV
入社して9カ月くらい経った頃、弊社の過去の歴史やメンバーが考えている事が徐々に見えてきたところで、改めて弊社の歴史ややってきたことを調べ直しました。会社内に辛うじて残っていた資料・写真や、長年働いている社員からのヒアリング、そして地元図書館での文献探し等を経て、ようやく理念のようなものを創ることに着手し始めました。
とはいえ、自分自身、理念なんてものは与えられたことしかなく、どうやって作ればいいかすらわかっていませんでした。そんなとき、名古屋市のデザイン会社であるSKword社が企画したデザイン経営に関するセミナーに参加し、そこで世の中にはMission Vision Valueという経営理念的なものを体系的にまとめた理論があることを初めて知りました。
調べてみると、これらはP.Fドラッカーが提唱したものを起点に色んな企業が取り入れていて、どうやら経営理念を少しブレイクダウンしたものらしいという理解をします(実際は微妙に違いますが)。
というわけで、色んな企業のMVVを参考にしながら、どんな言葉ならそれっぽいか、そして社内でアンケートを採ったりしながら自分なりに四苦八苦してまとめたものがこちら。
今見てみると、よくこんなショボいものを全世界に向けて発信出来たなと思います笑 でも、当時の僕は「良いモノができた!」と興奮しきりで、このまま全社に向けて発表する勢いでした。今思えばダニングクルーガー効果の優越の錯覚そのものですね。
救世主のごとく現れたベンチャー企業CEOとの出会い
さて、先ほど載せた超絶シャビ―なMVVですが、当時の自分は意気揚々、「凄いものをつくった!」と、社員みんなに見てもらおうと早速年明けに全社会議を企画してしまっていました。ちょうどその時期、弊社のカラフルな缶のツイートがバズったこともあり、色んな方がお声掛けくださったのですが、その中でMatouというベンチャー企業のCEOをされている長岡さいこさんとお話する機会がありました。
ちょうどカラフルな缶のマーケティングの話だったりアドバイスをくださっていたところ、自分がMVV策定中というツイートについてもご意見を下さって、「これは一度是非お会いして、今の自分の状況を話してアドバイスをもらいたい!」と頼み込んで、師走も終わりの12月28日に東京に突撃してお話させていただきました。お忙しい中時間を割いて、懇切丁寧にお話してくださった彼女には感謝してもしきれないと改めて思います。
当日、「MVVはこんなのを考えている」「ロゴも変えてみた」など色々話をしていると、話せば話すほど自分の言葉であまり深く説明できていないことに気付きます。それもそうです。MVVの上っ面のことしかわかっておらず、作ったMVVも本当に表面的な事しか書かれていなかったからです。
長岡さんはそんな僕を優しく窘めつつも、一般的にMVV策定は優秀な経営者でも半年ほどかけるほどプロセスが重要なものであるという一般的な認識や、改めてMVVを作り直すことのアドバイス、そしてそのために必要な知識やノウハウを授けてくださいました。
といいつつ前述したとおり、年明けの会議は既に企画してしまい、この時点で僕は完全に憔悴しきってました。「年明け、何話そう…」と、年末の新宿駅で途方に暮れていたわけです。
想いを伝えることに全振りした年初の全社会議
さて、年末に自分の現在地を知り、絶望の淵に立たされていた石川ですが、そうはいっても全社会議を企画してしまっている以上、どうにかしないといけない。というわけで、年末年始返上で何をすべきなのか死に物狂いで考えつづけました。「長岡さんにああは言われたけど、実はそんなに悪くないんじゃないか?」という邪念がムクムク湧いたりもしましたが、やはり自分の口で説明できないもので会社のメンバーを振り回すわけにはいかない、ということで、ブラッシュアップし続けました。
しかし、やはりMVVは一朝一夕で作れるものではなく、結局当日までには仮のものしかできませんでした。途中、前職の先輩方にもアドバイスをもらい
「とりあえず(仮)で出しておいて、こういうのをこれから決めますって回にしたら?」
ということで、MVVを示すことに主軸を置くのではなく、なぜそもそもそういったものが必要なのか、自分達の現在の状況はどうなっているのか、今後どうすべきなのか、という腹を割って話すことをメインにし、MVVは仮にしてみんなと一緒に考える会にシフトチェンジしました。
当日の資料がこちら(抜粋)
今見返してみると結構過激なことが書いてあるなあと思います。会社のメンバーも、入社して1年も経っていない僕に年始早々こんなこと言われて面食らったと思いますが、みんなしっかり耳を傾けてはくれて、ちゃんと最後まで参加してくれました。
とはいえ、結局この時点でできたのは、自分達の現在地を知る、という一過性のものにすぎず、この会議だけでメンバーの行動変容を期待するには無理がありました。やはり、会社の絶対的な指針となる理念やMVVを定めなければ何も始められないし誰も自律自走できない、という認識の下、改めてMVV策定についてイチから学ぶことにしました。
自分の無力さと不勉強を痛感
年末に長岡さんにアドバイス頂き、そして年始に全社会議をやって、ようやく気付いたのが、
「自分は今までMVV策定はおろか、言葉のデザインも、プロジェクトマネージャーすらやったことがなく、あらゆる面で素人である」
という事実でした。気付くの遅くない?というツッコミが飛んできそうですが笑 政府系金融機関や中央省庁で働いていたんだったら、割と何でもできるんじゃないの?というイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、金融マンと言うのは意外と器用貧乏なのです。金融知識は当然のことながら身に着けてはいるものの、自ら経営するわけでも商品開発するわけでも、ましてやマーケティングするわけでもなく。経営というマクロな観点から物事を見るノウハウには長けていますが、実務的な専門知識というものについては殆どないのが実態です(自分が不勉強なのもあり、そして気付くのが遅すぎるのもあり)。
というわけで、ここで改めて原点に立ち返り、イチから学びなおすことにしました。長岡さんからオススメいただいたものも含め、大変勉強になったものを以下の通り列挙しておきます。
まずベンチャーキャピタリストの田所雅之さんが運営するオンラインサロン。「起業の科学」という本で有名な方ですね。オンラインサロンには動画コンテンツもたくさんあり、特にベンチャー企業のMVV策定のノウハウにかかる動画は本当に勉強になりました。
言葉のデザインも自力で何とかしなければいけないということもあり、コピーライティングのオンラインサロンに入会しました。宣伝会議賞の金銀銅を総ナメした竹島靖さんから直々に講義を受けることができます。どちらかというと商品のキャッチコピーなどのためにご参加されている方が多い印象ですが、一行力と言うのがMVV策定のところと非常に親和性が高いと思ってます。
また、おすすめの本としては以下の通りです。
他にもまだまだたくさんありますが割愛。あとは何と言っても、色んな人に壁打ちしてもらうのが良いと思っています。相手はお友達だけでなく、自分よりずっと優秀な人にお願いするのがおすすめです。雲上人みたいな人でも、意外と想いを伝えると時間を割いて会ってくださったりするものです。
逆に、オススメできないこととしては、他企業の言葉に頼ることです。自分もそうでしたが、自分にコピーライティング能力が皆無でゼロから言語化を進めていく作業の中で、手っ取り早く他の企業の美辞麗句を参考にしようとする心情が働きがちですが、それは絶対にやめたほうがいいと思っています。自分の言葉になりませんし、そんなインスタントで作るMVVには何の価値もありません。
世の中の企業がどんなMVVを策定しているのか、参考程度に見るだけならビジョンガイドが網羅性視認性が高く、業種別で絞り込めたりして良いです。が、あくまでも本当に参考程度に。はっきり断言しても良いと思いますが、世の中の大企業のカッコいい言葉を切り貼りして言葉を組み立てても、自分達の言葉は生まれません。そんなものに価値はないです。
約半年間、あらゆる手を尽くして考え続けた果てに
さて、年始に全社会議をした後は、全く別件で重要ポストの採用が始まり、自分自身初めての本格的な採用活動ということもあり、こちらもまたイチから学ばなければならず、MVVの話は頭の片隅にありながらも一旦はプロフェッショナル人材の採用へとリソースの大半をシフトすることになりました。
こちらの件は、別記事でも書いてますが、とにかく毎日早朝から深夜まで採用の勉強と面談に励んで何とか採用まで漕ぎつけたのですが、この時もずっと
「会社に確固たるビジョンがあれば、もっと理論的に熱く勧誘できるのに」
と強い閉塞感を覚えていました(以下採用記事)
そして、採用活動と並行しながらも、日々ユニコーンファームのアーカイブ配信で講義を受け、一行力サロンに参加し、本を読み漁り、友人に頼んで何時間も壁打ちをしてもらい、ということをとにかく続けていました。また、このタイミングではJAFCOの投資先全社のホームページからMVVを調べ、気になった会社については社長が出版している書籍を購入して、その会社の歴史、どのような想いでどうやってMVVを作ってきたか、について調べていました。
それでもやはり、どうやってMVVを作っていけばよいのか、どんな言葉をセットすればいいのか、心から自信を持ってこれだと言えるものが出来ませんでした。MVV策定については教科書のようなものはなく、とにかく自分なりにどうすべきか考え、最終的には決めの世界で答えを出さなければいけないのですが、どれだけ文字を組み上げても腹をくくることが出来ません。
その背景には、やはり社員への想いがありました。日々会社に来て一生懸命真面目に働いてくれているメンバーに対して、心から自信を持って伝えられるモノが出来たと言えるか、一抹の不安が残っていました。
いくら理論や他社事例などを学んだとは言えせいぜい1年弱、自分は元々組織開発からコピーライティングまでズブの素人であり、自分がここで定めたMVVの内容が乏しい物であればそれだけで社員に迷惑をかけてしまう、もっと言えば社員の人生を壊して不幸にしてしまう、そう思うとどうしても覚悟を決めることが出来ませんでした。
そんなことを考え続けてるうちに月日は経ってしまい、気付けば5月。
言葉がある程度形になった段階で最後はリトマス試験紙的にもプロの目を入れたいと思い、外部に頼ることにしました。
プロにお願いするのは最低限の補助
今回MVV策定の協力をお願いしたのは、冒頭にも出てきた名古屋のデザイン会社であるSKword社です。
先方に主にお願いしたのは、
①MVV策定プロジェクトのアドバイス&一部ファシリテート
②コピーライターのチェック
の2点でした。
一般的に、MVV策定を外部協力のフルセットで頼むと相場的にはなかなか高額になり予算的にも厳しいというのがありましたが、なによりもやはり自分達の言葉は自分達で可能な限り作りたいという想いもあり、今回は無理を言ってかなり部分的な支援をお願いしました。正直割に合わない依頼だったと思うのですが、嫌な顔一つせず御快諾頂き、そしてプロジェクトの最初から最後まで一貫して弊社の意見を尊重しながら伴走してくださったSKwordの江口さんとコピーライターの村田さんには感謝してもしきれません。この場を借りて改めて心からお礼申し上げます。
プロジェクト型にする、ということで、策定の流れとしては以下の通り実施することとなりました。
先述の通りいつまでも腹がくくれない自分の愚鈍さに終止符を打つべく、プロジェクト開始時期を決めて退路を完全に断ちました。
最後の最後まで磨き続けて生まれた言葉
さて、この時点で5月初旬。どれだけ遅くとも6月にはプロジェクトをキックオフできるようにということが決まりました。残り1か月程度。
ここからは、これまで習得した知識をフル稼働してアウトプットすることに重点を置きました。とにかく、書きまくってみて、行き詰まったら運動しながら考えて、思いついたことをまた帰ってきたら書きまくって、そして、信頼できる友人や尊敬する先達らに連絡し、暇を見つけて壁打ちする、ということを毎日毎日続けました。この時期、何人かの友人には本当に迷惑をかけたなと思っていまして、
・夜中の1時に叩き起こして朝までZoomでブレスト
・休日に朝から家へ押しかけて夜暗くなるまで12時間近くぶっ通し壁打ち
・繁忙期で忙殺されているところに文案を鬼LINEしまくる
などなど、書いていて自己嫌悪で頭痛くなるレベルの不躾さですが笑、本当に色んな人が快く相談に乗って助けてくれて、感謝してもしきれないなと深く思っています。
そして、そうこうしているうちに6月になり、いよいよSKword社の江口さんとの打ち合わせの日が近づいてきました。約半年間、考えた案は10,000以上、言葉を作っては壊しを繰り返すこと数百回、遂に自分自身が100%腹落ちしたものが出来上がりました(内容は後掲)。
MVV策定プロジェクトメンバー募集で予想外の反応
さて、SKWord社と打ち合わせをしている間に、いよいよ社内にてキックオフの調整です。今回のプロジェクトについては社内で少し根回しもしつつも基本有志でメンバーを集うことにしました。
とはいえ、前回の会議を行ったのが約半年前、日々会社のあるべき姿を都度語ったりはしていたものの、正直メンバーが集まるかどうか不安でいっぱいでした。ここでメンバーが集まらず、プロジェクトをやったけど結局一部の人が頑張ってるだけでメンバー以外は他人事、という構図は何としても避けたいところではありましたが、やらされ仕事では絶対に良いモノはできないという想いの下、ここは社員を信じて有志でプロジェクトメンバーを集うことにしました(一部のコアメンバーを除く)。
するとなんと、上の写真を掲示板に張り出した日から
と続々とメンバーが集まり、気付けば全部門から役職者全員を含む12人が参加することに。自分や社長の人数を省けば全社員の約半数です。あまりに少なかったらこちらから声かけて無理やり参加募るしかないかな…と思っていたところ、本当に嬉しい誤算でした。
参加表明してくれたメンバーになぜ参加を決意してくれたのか聞いてみると
といったコメントが。
年初会議は、当初の予定と大幅に方向性が変わったこともあり、個人的には成功とは言えず反省も多かったですが、こうして周りも潜在的に巻き込みながら今回のプロジェクトに繋がったというのは、本当に嬉しい事でした。不完全でもかっこ悪くても、できる理由だけを見つめて挑戦し続けたことが結実したのだと思いますし、MVVがなんたるかを漠然としか理解していないながらも会社を良くしたいという想いをもって勇気ある一歩を踏み出してくれたメンバーのことは心から誇りに思います。
いよいよ会議のキックオフ。その反応は…
プロジェクトのスタートはキックオフと称し、お題目は
年始にMVVなんたるやというところは説明していたとはいえ、当時の自分の知識は乏しく、十分に理解を得られるような内容ではなかった反省を踏まえて、改めてイチから説明しました。
そして、資料の内容は二部構成、前半部分はMVV策定の意義、後半部分が作ったMVのお披露目、としました。
前半部分は割愛しますが、後半部分の内容はこちら(抜粋)。
MissionとVisionでたったの2行。
しかし、ここにたどり着くまでには半年間に及ぶ艱難辛苦の日々がありました。悩みに悩み続けた果てには死屍累々の言葉の山があり、その中から絞り出し、磨き上げ続けた言葉です。
「他人の人生を預かるに値する言葉か」
それが僕の最終的な判断基準でした。
さて、こうして約1時間、じっくり語ってMVVのキックオフを終えました。
今風な言葉を使えば、このキックオフでどれだけエンゲージメントを高められるかがカギなので、本来であればMVのお披露目のところはPV的なものを作ってドラマチックにしたかったのですが、動画作成など十分なスキルがなく(反省)、結局はパワポでつくり、あとは自分の口で熱く語りました。
プロジェクトメンバーも当初は不安そうな表情で聞いている様子でしたが、話を進めるにあたって徐々に目線を上げるようになり、最後は気分が高揚してくれていた人もいたようで、アンケートの結果はこちら。
会議の終わりに、みんなの目に火がついていたように感じたのは間違っていませんでした。長い長い道のりでしたが、ようやくこれで組織改革のスタートラインに立てたことを確信し、喜びに浸るとともに、プロジェクトメンバーや協力してくれた友人知人に対して感謝の気持ちで一杯でした。
Valueづくりのベンチマーク
Valueは価値観に当たるものですが、会社によってその書きぶりは大幅に違います。よくあるのはキーワードを並べたもので
・チームワーク
・挑戦
・成長
・プロフェッショナル
・スピード
・リスペクト
補足が付いていたりステートメントがあったり英語だったりと差異はあるものの、多くの企業で採用されているパターンです。
もちろん、こうしたValueは端的で覚えやすく汎用性も高くて良いと思うのですが、弊社ではこういった単語+αのような言葉は馴染まないかなと思っていました。理念等に馴染みがない人にとっては余白が大きすぎて具体的な行動に結び付きにくいと感じたからです。余白が大きいながらももっとメッセージ性が強く、内から熱量があふれ出てくるような言葉を据えるべきだと思っていました。
また、長い文章でたくさんのValueを設定している会社もありますが、何よりも大切なのは社員が自分の言葉として語れることなので、こちらも同様に理念にそもそも馴染みがない弊社のような会社では、短いフレーズで数が少ないことはとても重要と思い可能な限り短いセンテンスにすることを心掛けました。特に自分の場合は、長くなってしまうと言いたいことが色々詰まって説教っぽくなってしまいがちで、短く前向きなのが良いと感じました。
そこでベンチマークとしたのは新進気鋭のベンチャー企業のValueで、その中でも自分が実際にサービスを使ったり中の人と触れ合う中で理念の浸透レベルが高いと感じた企業のものに注目しました。
Visional
MoneyForward
Mercari
とくに、「価値あることを正しくやろう」「Go Bold(大胆にやろう)」「User Focus」等は素晴らしいValueだと思っていて、シャープな言葉でありながら力強く、内側から熱量が湧き出てくるようなところがとても素敵だなと感じます。決して模倣するわけではありませんが、浸透のことも見据えて、こうした言葉を目指していこうとディレクションしていきました。
メンバー全員でValuesづくり
さて、こうしたディレクションもしつつ、キックオフが終わったところでいよいよValuesづくりをスタートしました。弊社は製造業で工場が動いている間はなかなか時間が取り辛く、基本夕方スタートです。
第一回は、SKword社の江口さんにお越しいただき、Valuesづくりの第一歩ということで全員でブレスト&キーワード抽出をゴールとしました。方法としては自分自身が普段大切にしてることや、今後会社を良くしていくために必要だと思うことを、Mission Visionに沿って書き出し共有する、というものでした。
第一回のValuesづくりで出てきた言葉がこちら
粒度もカテゴリーも多種多様な意見が出てきましたが、それを分類して以下8つのキーワードに絞り込みました。
第二回はこの8つのキーワードに基づいて、各キーワードごとに文案のアイディア出しをしました。ここは非常に難易度が高いので、各チームに分かれてブレストし、個人案チーム案を全て回収して材料としました。ここまでくると、プロジェクトメンバーの中には意識が大幅に変わってオーナーシップを発揮する人も出現し、内容的には難しいながらも会議は活況な状態が続きます。
そして、文案が収集できたところでいよいよ選定作業に入ります。
プロジェクトのメンバーが一生懸命考えてくれた言葉を預かってまとめるというこの作業は正に”宝物を託される人”になれるかどうかであり、まずは自分が率先垂範してそれを体現するという大きなミッションでした。
そしてここはまた、Mission Visionと同じく、生みの苦しみを味わうフェーズとなりました。プロジェクトに参加してくれているメンバーが一生懸命考え抜いてくれた言葉をベースに、彼らの想いが要素として込められている文章を考え続けました。
また、現時点では8つのキーワードで8つの文案、という構成でしたが、さすがにValueが8つもあるとそもそも覚えられないので、キーワード要素の分解と再構築も意識しながら取り組みました。
ここでも前回同様、自分で暫定案を作った後に友人知人らに頼み込んで壁打ち相手になってもらい、言葉を磨き上げていきました。ちょうどこの時自分の子供が生まれるイベントもありましたが、妻の陣痛を心配しながらも、頭の片隅ではずっとValueの文章をどうするかということを考え続けていました。
発散と収束そして分解と再構築を繰り返し、
最終的に出来上がったValueがこちら。
もともとステートメントを付す予定はありませんでしたが、認識の齟齬を防ぐことや、理念の浸透や行動集作成も見据えて、メッセージ性の強い文章を添えました。ここでは特に、メンバーが一生懸命考えてくれた想いを一つも漏らすことのないようにメッセージに載せることを心がけました。
出来上がったこのValueは最後にネガチェック的にプロジェクトメンバーに披露&意見出しをしてもらいましたが、てにをはを除いての修正意見はなく、無事全員100%納得のValueが出来上がりました。
そして、仕上げにSKword社の江口さんとコピーライターの方に見て頂き、表現調整の提案や英語のネイティブチェックをしてもらい、完成となりました。
プロジェクト進行中ながら早速Valueを実践
さて、こうしてValueが完成したわけですが、この後は各Valueに紐づく行動集を作っていくことになります。以下工程です。
元々の予定では、自分がプロジェクトに参加してないメンバーに対して説明しようと思っていましたが、せっかくなのでみんなで決めたValueを早速実践してみることに。
「自分の言葉で熱く語ろう」
というわけで、合計5グループに分けて、プロジェクト参加メンバーから参加してないメンバーに対して説明会を開いてもらうことにしました。これまでの経緯をまとめた資料は自分が作って渡して、それを実際にみんなの口から伝えてほしい、と。
「えっ、説明なんてやったことないんだけど」
「(やりたくないなあ…)」
と言った感じでハレーションが起きるかな?と思っていたんですが、伝えてみるとどうもみんなやる気になってくれている様子で…。
「自分達が作ったものなんだから、自分達が説明すべきだ」
この意識がプロジェクトメンバー全体に浸透している時点で、ここまでにつくりあげた言葉がただの張りぼてではなく、メンバーの想いが込められた価値あるものになっているんだということを確信した瞬間でした。
そして、その後は各グループで説明会を実施。
一部の社員からは「難しいこと言われても俺たちにはわからん」「ふーん、なんか意味あるの?」と意見が出る場面もありましたが、それに対しても彼らは、自分達の言葉でMVV策定の意義を語って理解してもらえるように努め、「みんなで一緒にいい会社を作りましょう」と周りを巻き込みながら説明者としての責務を全うしてくれていました。
このころになると、日常業務の中でも大幅な変化が生まれていたように感じます。今までは目を合わせずに空気に挨拶していたような人が大きな声で顔をみて挨拶してくれるようになったり、感情的になるとすぐ下を向いてしまっていた人が一歩踏み留まって相手の言葉に耳を傾けるようになったりと、元々年初の全社会議以降雰囲気は少しずつ良くなってはいましたが、MVVプロジェクト策定以降は更にそれが大幅に加速していった印象です。
歴史がある中小企業でMVVを作る意義
さて、本当はここからさらに行動集作成→MVVツール導入と工程は残っているのですが、記事も長くなってきたのでいったんここからはまとめに入っていきます。
MVVと言うとどちらかというとベンチャー企業が作るものというイメージが強いですが、タイトルは山口周さんが言う通り何だっていいと思っています。さっさと作って浸透させることが大事なので。
と言いつつ一つ考えなければいけないのは、それぞれの会社によってリテラシーのレベルや組織の規模等も違うため、パーパス、志、ミッション、ビジョン、バリュー、ステートメント、アイデンティティ、コンセプト、スローガン等、色んな言い方がありますが、どの言葉を使うのか、いくつ使うのか、どう組み合わせるのか、ということを一考する価値はあると思っています。どれだけかっこいいタイトルと内容で設計しても、結局実際に現場で使う人達、つまりは会社のメンバーが腹落ちするものでなければ意味がないので、その辺りの浸透の最大化を前提に議論するべきだとは思っています。
それを踏まえた上で中小企業で理念的なものを作る(変える)意義は、幸福の最大化の追求にあると思っています。
既に正しい理念的なものがあり、十分に浸透しており、その理念が社員や社会を正しい方向へ導くものであれば、全く変える必要はないと思っていますし、変えるべきではありません。
しかし、少しでも時代が求めているものとズレていたり、正しいディレクションが出来ていないということがあるならば、やはり見直しは必要だと思います。企業の羅針盤は、そこに属する人を100%正しい方向に導き、その努力が最大限報われるようにすべきだからです。正しくない方向付けをしたまま社員に仕事をさせていては力が分散するだけでなく、各社員同士間、経営陣と社員間で、求められていることとやっていることにギャップが生じ、軋轢も生まれやすくなります。社員のポテンシャルを最大限発揮させるのが経営者の使命である以上、思考や行動に無駄が出るようなものを会社の看板に掲げておくのは不合理です。
繰り返しになりますが、ここで気を付けなければいけないのは
MVVは組織改革の道具ではない
ということです。
全ては「なぜ」から
今回のMVV作りでとにかく意識し続けたのは、「なぜやるのか」を明確にすることでした。ゴールデンサークル理論が語られて以来、Whyから始めることの大切さは散々語られてますが、改めてその重要性を今回のプロジェクトをやっている中で認識しました。
みんなが働きやすくなるから
給料が上がるから
チームワークが良くなるから
いい会社になるから
こういったhow whatの理由では、誰にも刺さらないんだろうなと思っています。特に、歴史がある中小企業ではそれぞれ独自の文化や習慣があり、それを変えていくためにはその歴史を振り返り、その今に至るまでの理由を把握し、今正に働いている人たちの潜在的な想いを掘り起こし、それを踏まえた上で理念やMVVを作る(変える)意義を語らなければいけません。何となく現状に不満があるから、悪いところを改革したいから、というパッチワークでは良いMVVは作れませんし、作れたとしても浸透できません。MVVは経営者の思うように会社を都合よく変えるための手段ではなく、その企業に関わる人たちのすべての幸福を最大化できるようなものでなければいけないと思っています。商品開発を金儲けのための手段と考えた瞬間に熱が引いて白けてしまうのと同じように、組織改革のためにMVVを策定しても仏作って魂入れずで機能しないと思います。
「なぜやるのか」をとことん追求し、そしてそれを言語化する作業は、MVV策定において避けて通れない道です。それを外注丸投げするのではなく、限界まで自分たちの力で考えるその過程にこそ意義があると思っています。
まずはトップが熱く語ろう
MoneyForwardの辻さんは、初めてMVV的なものを作った時に部下に任せきりになってしまい、いざ出来上がった後に全社員に対して説明するときに言葉が出てこず「これ、どういう事なんだっけ?」と壇上で発言して完全に白けさせてしまった、という失敗談を著書「失敗を語ろう。」で書いてくださっています。
ここは僕も完全に同意で、トップが理解していない、自分の言葉で熱く語れない理念は、どれだけ綺麗でかっこいい言葉であったとしても絶対に浸透しません。
今の時代、理念経営の設計がパッケージ商品化されているので、会社側の負担を最小限に抑える形でプロのコピーライターがヒアリングを行い、理念的なものの雛形も全てデザインしてもらい、プロジェクトの進行もやってもらい、というやり方もあると思いますが、個人的には可能な限り内製化してやるべきだと思っています。もちろん、組織の規模や企業のフェーズによっては外注丸投げが最適解になることもあるかもしれませんが、他人に作ってもらったものに対して自分が心底腹落ちし、120%理解して熱く語るというのは相当に難しいですし、経営者が細部まで理解して熱く語れない理念は形骸化すると思っています。。外部に協力を依頼するにしても、可能な限り自分”達”でやれることはやる、というスタンスがベストではないでしょうか。
そもそも、このMVVを提唱したドラッカー先生も、著書ネクストソサイエティの中で
と言っていたわけで、つまりはMVVこそ企業そのものである、ということですね。それを、自ら考えるのではなく、外部に丸投げするのは理に適ってはいないです。
もちろん、外部に協力を仰ぐことが悪だと言っているわけではなく、弊社も他社にお力添えいただいているのでそれを否定するわけでも全くありませんが、デザインや商品開発と同様に、いくらお金払えばやってもらえるからと言っても発注者側が丸投げ依存型でやるのは良くないよね、ということです。
社員を心の底から信じて任せる過程に意義がある
今回のプロジェクトで自分がとにかく意識していたのが
「メンバーを信じて任せること」
でした。
理念的なものは、社内の価値観や行動を決めるものになるため、経営者側としては何としても会社を良くしていくためにいい言葉を作らなければ、という力学が働きがちで、どうしても経営者側本位な言葉を作りがちです。
僕自身も正直、当初は会社があるべき姿や、現状とのギャップ、という切り口で言葉を積み上げていき、案を作っていました。
しかし、その考えに基づいて設計されたMVVは、どこか説教臭く、社員に対して暗示的に命令しているようなものになっていったところで考えを改めました。先述した通り、MVVは組織改革の道具ではありません。そこで働くすべての人達の幸福を最大化することに一義的な価値があることからすると、まずは彼らがどんな想いを持っていて、それが会社が目指す方向とどのように合致するのか、ということを突き詰めていくべきだと感じます。
「変な意見が挙がって意味のわからない標語が出来たらどうしよう」
「知識もなくMVVが何か調べてもいない人たちに任せても無駄だ」
「社員にとって都合のいい言葉ばかり並んでしまったら困る」
こう心配に思う気持ちもわかります。
しかし、こうした不安を乗り越えて、社員にその権利を託すことは、彼らに「”働く意義”や”幸せになる方法”を自分の意志で考えても良いんだ」という自覚をもってもらうことに繋がり、その結果としてオーナーシップが醸成されるものだと思っています。だから、アウトプットが少しシャビ―でも不格好でも、彼らが生き生きと考えて発信できることを目指すべきです。彼らが自分の言葉で熱く語ることに勝る浸透方法はありません。
そして、ここでもう一つ考えておかなければいけないのが、この過程にこそ意義があるということです。MVVを作るフレームや全体的な方向性と言うのはある程度トップダウンで進めていけばよいと思いますが、何でも決めたものを渡してしまうのではなく、伴走支援をしながらもメンバーに一定の権限を委譲してやってもらう、というのはとても大切で、その過程にこそ価値があると思っています。
大改革の起点はMVVから
これはあくまでも一つの意見ではありますが、組織の大改革を行う際は可能な限り早い段階で理念的なものに手を入れるのが良いと思っています。
自分自身、親の会社に帰ってきてインフラ整備を進めていく中で、どうしても行き詰まる場面が多くありました。Slackやグループウェアの導入等、便利なツールはその効果が実感しやすいところなので草の根運動的に地道に遂行していくのが良いと思うのですが、就労規則や評価制度、賃金体系といった社員の人生にも大きく関わってくるようなところは、やはり理念無くしては価値あるものは設計できないと思っています。
例えば弊社の就労規則ですが、平成半ば以降更新された気配がなく、未だに育休をとれるのは女子に限っていたり、みなし残業と謳っているのに明確にその相当時間が書いていなかったりと、ツッコミどころ満載の状態でした。もちろん、そこをただ一つ一つ是正していけば、「法律的に問題のない就労規則」と言うのが出来上がるのですが、それ以上のものにはなりませんし、変えたところで社員の大半が興味を持たず、結局形骸化してしまいます。
が、手前味噌ですが、弊社のValueには「まっすぐやろう」というものがあるので、例えば法律に抵触するようなものは是正して然るべき!という理由が出来ますし、「高め合うために、分かち合おう」というValueに基づいて自己研鑽費用の補助制度をつくったらどうか、と言った感じで、理由が腹落ちする納得感のある規則制定ができるのではないかと思っています。
組織改革における方法論は様々あり、そのどれも手段としては有効だと思いますが、howだけで突き進めていてはただのパッチワークに終始してしまい、納得感はあまり得られず、フレームだけ改良されてエンゲージメントの低い組織になってしまう懸念があります。ここでもやはり、「なぜやるのか」は忘れてはいけないところです。
MVVは世界との約束
さて、ここまで長きにわたってご笑覧くださいまして、本当にありがとうございました。上から順を追って読んでいただけ方には心よりお礼申し上げます。
これを書いている時点ではMVVが完成し、最後に行動規範集をまとめているところです。運用はこれからなので弊社も偉そうなことをこうして言える立場ではないのですが、一旦の記録として書いてみました。
僕がMVVという言葉を知ったのは、たったの10ヶ月前です。正直、未だプロマネとしては素人でコピーのセンスもなく、ここまでの道のりは本当につらく苦しいもので、またかっこ悪くてダサく顔から火が出るほど恥ずかしいこともたくさんありました。
しかし、それでも、会社に関わる全ての人に幸せになってほしいという想いだけは、いつも一点の曇りもなく持ち続けていました。すべての原動力と理解の本質は、そこにあると思っています。
本気で会社を変えたいと思うなら、まずは目の前の大切な人たちが幸せになることから始める、というのが僕の持論です。どれだけ立派なフレームワークも美辞麗句も、想いに勝るものはありません。まずは自分がMVVを作ることに本気になり、率先垂範しながらその意義を語り掛け続けましょう。そして、あらゆる手段を使って人を巻き込み、大事な人たちと一緒に作り上げていくことが肝要です。
MVVが決まれば、やることは一つ。セットした羅針盤を信じて、とにかく突き進んでいくだけです。ホームページや名刺等、あらゆる場所でMVVを表明して世界と約束し、その内容にふさわしい姿を追い求め続けていこうとおもっています。弊社も、歴史を超える価値を作り、人の笑顔に全力でコミットして、ただの下請け缶屋ではなく、「あの会社にこそ託したい」とあらゆる人に思っていただける会社を目指していきたいと思います。
そして、この記事が”世界にcanを”の第一歩になることを願って、結びとさせていただきます。ありがとうございました。
★Special Thanks★
弊社のみんな(特にプロジェクトメンバー)
さいこさん
江口さん
村田さん
比留間さん
伊藤さん
和田くん
白石さん
大上さん
島田さん
丹羽さん
堀さん
増田さん
梅本さん
関根さん
福井さん
こうさん
安永さん
辻本さん
小池さん
だいすけさん
田所さん
竹島さん
片岡さん
糸川さん
元岡さん
2022年5月追記
MVV策定の支援をしてくださったSKwordさんと共催でセミナーを開催しました。アーカイブ動画作っていただいたのでご覧いただけたら嬉しいです。MVVのプロジェクトに参加していた弊社のスタッフも登場し、実際MVV作ってどうだったかというところを話してもらってます。スタッフの生の声というのも貴重と思いますので、ぜひ!