【読書感想文】 完全教祖マニュアル
まず、何と言っても笑えます。といっても完全に茶化しているわけではなく、そもそも宗教ってこういう側面があるものなのです。
この本では教祖になり、教義を作り、布教をして信者を増やし、教団を作り、はては国教化までを目指す恐ろしい内容となっております。
教義について
新しい宗教を作るにあたり、普通に考えるとここが最も難しいところのはずですが、この本では
「とりあえず神を存在を宣言して、既存の宗教を焼き直しましょう」
と大胆な提言をしています。まあこれは歴史を紐解くとそうなっており、キリスト教はユダヤ教の派生、イスラム教もユダヤ教/キリスト教の派生となっています。もちろん既存宗教に対するアンチテーゼ(キリスト教なら、ユダヤ教の戒律主義に対する批判、イスラム教であれば当時アラブ世界で幅を利かせていた偶像崇拝)はあるのですが、この3つの宗教は唯一神(創造主)を信じる点では同じであり、イスラム教はユダヤ教/キリスト教を「啓典の民」と定義づけていました。
キリスト教の中でも分派の動きが歴史上たくさんあるのは御存知の通りです。アタナシウス派/アリウス派/ネストリウス派、三位一体を信奉するアタナシウス派が正統ということになりますが、その後もローマ・カトリックと東方正教会、宗教改革によって、プロテスタントが生まれました。
仏教も、いまの日本では大乗仏教、天台宗から派生した念仏宗、禅宗、日蓮宗が多数派です。簡単にいうと、これらは鎌倉時代に天台宗(延暦寺)から枝分かれしたものです。やはり既存の焼き直しなんですね。
つまり世の中にある既存の宗教の殆どは既存の焼き直しなのです。どうも宗教というものは長く続けていると形式化、形骸化し、それに対して批判する分派が新たな宗教をつくる、ということの繰り返しのようで、あながちこの本の主張も間違ってはいないのでしょう。
布教活動について
弱い人を狙えと言っています。ただこれも、宗教の目的は「救済」、つまり不幸な人を幸せにすることなのですから、そして不幸な人というのは往々にして弱い立場の人です。イエス・キリストも病人や女性を対象としていましたが、当時「弱い人間をたぶらかしておる」と批判を受けたそうです。対象としては道義的にも間違っていません。
ただ弱い人だけでは、教団を組織するためのお金が貯まりません。そこで、金持ちも狙えと言っています。秦の始皇帝しかり、権力者(特にのし上がってくる段階で多くの人を排除したような人間)は死んだ後のことを不安に思っています。そして自分より権威のあるものが無いので、不安を取り除くことが困難です。そこを突いて入信させるのです。
よく新興宗教では信者からお金を巻き上げるという批判がありますが、これは「お金で幸せになる現世の考えからの脱却」と考えればよいのです。即ち「お金で幸せになる、と考えているからいつまでも不幸なのである(仏教はそういってますね、それが出家) であるから財産は捨てるべきなのである」 ことを納得させれば、そもそも財産を捨てて幸せになるのですから、本来問題ないはずなのです。これは資本主義社会において、個々人の幸せとは何なのかという倫理的哲学的問題ですね。
教団について
自分たちが特別な集団である、外部の人間とは異なるのであると思わせることが信仰心を高めるために重要です。そのために
宗教建築(教会・聖堂)
信者だけのコミュニティ、食事会(講、座談会など)
で信者間の繋がりを深めることが大事です。
また、外部から批判を受けたり迫害を受けたりしたときは、教団結束のチャンスと捉えようと書いてあります。これを見事に行ったのが日蓮宗です。日蓮宗といえば法華経を唯一無二の聖典とし、他の経典や修行を全て排撃することで有名ですが、この法華経の中に、この教えを広めるものは法難に遭うと書いてあるのです。
つまり、「正しい教えを伝える→非難される→非難されるのは正しい教えを広めている結果であると法華経に書いてある→さらに布教に熱が入る」という無限ループが組み込まれているのです。何と巧妙な仕掛けでしょう。
まとめ
本書は色々面白くかいてありますが、日本の仏教各宗派、世界の3大宗教についてその教祖や歴史の特徴を上手く伝えてあります。とかく宗教に無関心な日本人は、これくらい軽い読み物で、まず世界の宗教について基礎知識をつけたら良いのではと思います(全部真に受けないでくださいよ)
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