『推し、燃ゆ』
今更ながら、読んだ。
宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』
“推し”なんて言葉を使うようになったのは最近だけど、ずっと好きなアーティストが居て、音楽を心の支えにして生きてきたから、“推し”が居てこそ自分の人生を生きてるような主人公の感覚がスゴくわかる。
オタク気質なクセに、オタク文化とかそういうものに疎い私。冒頭の友達との会話部分をを立ち読みして、もしかすると文章が苦手かもしれない、と思いながら読み進めた。
そしたら、全然。
今そこにある景色の細かい描写とか、なんともオバサンをも唸らせる…さすが芥川賞受賞作だけある。なんとも偉そうな言い方だけれども、語彙力がないだけなので許して欲しい。
そして、スゴいなぁと思うのは、推し活だとかSNSだとか、今の若い子の感覚だとか、言い難い感情とか、そういうのと、全体に漂う純文学かのような空気というか…その表現力が、ともすれば軽く見られがちな「想い」を深く見せてくれてる気がする。
私は今まさに、推しと呼べる人が居て、その2人を好きなだけじゃない、その向こうにさらに繋がる世界があって、2人のお陰で日々があるので、物語に入り込むのは容易かった。
もちろん、推しが炎上した話なので、明るい物語ではない。
文章中の荒れたコメント欄とか本当に泣きそうになる。
それでも、推しと切り離してはうまくまわっていかない日常を、そういう生き方をしてる人もいるのだということを、肯定してくれているような、そんな気持ちになれる作品だった。
ちなみに、私が一番泣いたのは、推しが炎上したとこでも、結末でもない。
推しの愛おしさを書いてあるところだった。
「輝かしいけど、人間らしさもある。」に続く推しの愛おしいところを読んでいてなぜだか涙が溢れてどうしようもなかった。
私の推しは王子様ではないけれど、心から人を喜ばせることが好きで、真面目にお笑いに向き合っていて、変なストイックさがあって、ちょっとポンコツで、正反対の2人組だけどお互いに認めあってて、仲良しで…
そんな2人が可愛くて愛おしくて、たくさん笑顔にしてくれる。
きっと、推しがアイドルの方はもちろん、そうでない人にも共感の出来る部分はたくさんあると思う。
推しがいる方にはわかりみが強い作品だし、そうでなくても、きっと、読み応えのある物語なのではないかなぁと思う。
そして、きっと、私はこれからも、彼と交わした会話を、テレビとは違い人見知りな彼らしい物静かで温もりのある声を、舞台上のキラキラ笑顔の2人を、反芻しながらこれからも生きていくんだろうなぁと思う。