エンド オブ スカイ
雪野紗衣 2019年4月22日発売予定 講談社
普通であること。正常であること。
それは、現代の日本において、必要以上に重視されている価値観のように思う。
過剰に縛られているのではないかとすら、思う。
もはや、呪いのように。
『エンド オブ スカイ』は雪野紗衣さんが書いたということで、読ませていただきたいと思った。
あの『彩雲国物語』とは、テイストが違うと思う人もいるかもしれない。特に序盤は私も文章の中の雪野さんらしさを探したほど、イメージが違う。
だが、中盤あたりから、ぐいぐいと力強く、主人公ヒナの背中を押してくる。
この力強さは、まぎれもなく、雪野さんのフレーバーを感じた。
それは不在の母親との母子葛藤であり、苦境を笑い飛ばしながらたくましく生き抜く人物像だったり、思わず噴き出してしまうほど愉快で優秀なだめな人物像だったり……。
未来を舞台にして、だれもが遺伝子レベルで設計された正常さを持ち得るようになった世界で、主人公ヒナは周りからどこか浮いており、常に自分は正常であるのだろうかと問い続けている。
彼女が出会った少年との物語は、近未来SFであり、不思議なロマンスになっている。
途中で似ていると思ったのは名作『夏への扉』だったが、読み終えてから思うのは、「天女の羽衣」であり、「浦島太郎」であり、トヨタマヒメの物語であり。
結ばれてはならない二人が結ばれる、古い古い神話やおとぎ話が思い出されてならなかった。
SFのなかに異類婚姻譚が生き返り、その形式を踏襲しながら、人とは何かをもう一度問いかけてくる物語なのだ。
人が違って見えるのは普通だが、それを「普通じゃない」と思うことは変なのだ。
作者は舞台を未来にしているが、こめられたメッセージは現在を生きる人に向けてのものに相違ない。
普通ってなに。正常ってなに。人間ってなに。幸福ってなに。
持って生まれた性別や民族で区別し、差別することの愚かさを指摘し、考えるようにうながす。
問題ってなに。障害ってなに。「障害がある」ってなに。
障害があることを人の優劣と勘違いするような犯罪が起きることもあるが、すべての人は「必要があって今ここにいる」。
人は違っていないといけない。多様性という生存戦略をとっくの昔に選んだ生き物なのだから。そういう観点から、人と違うことを堂々と肯定してみせるくだりは胸が熱くなった。
そして、人はいつか死ななくてはいけない。
死ぬことの意味まで見通しながら、生きることの意味を手繰り寄せる。
様々なヘイトに対する凛とした反論であると同時に、ありとあらゆる生を肯定し、今を生きのびようと力強く応援する物語。
もしかしたら、あの物語の仙人たちの物語であり、解答ではないのだろうか。
まぎれもなく、これは雪野紗衣さんらしい物語だと思った。
われらに生まれた理由などありはしない。ちゃんと死んで次と交代すれば、どんな風に生きたって遺伝子は気にしないのさ。子孫を残しても残さなくても、次に自分と違う存在が歩いてりゃ、それで世はこともなしだ。