【愛】ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の“衝撃の出世作”である映画『灼熱の魂』の凄さ。何も語りたくない
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フィクションの映画にこれほど圧倒されるのは久しぶり。「とんでもない映画を観てしまった」という感覚が凄まじい『灼熱の魂』
久々に、ぶっ飛ぶような映画鑑賞体験だった。凄すぎる。とんでもなかった。
もしこの映画をまだ観ておらず、観ようかどうしようか迷っているとすれば、私の文章など読まず、今すぐ映画館に向かってほしい。なんの前情報も入れずに観るのがオススメだ。この記事では、ネタバレをせずにあれこれ書くつもりなので、私の文章を読んでも内容や展開など分からないと思う。しかし、どうせなら、何も知らずに観てほしい。
ただ、もしかしたら鑑賞前に知っておく方がいいかもしれないと思う情報だけ書いておこう。それは、映画の舞台設定だ。
物語は、カナダから始まり、「母親の故郷」である中東のどこかの国に舞台が移る。映画を観ながら、「これは中東のどの国なのだろう?」と思っていたのだが、公式HPを見ると、舞台となる国を明確に定めているわけではないそうだ。「中東のどこか」という設定なのである。映画では、宗教的な対立や国内の紛争などが描かれるのだが、それらは「架空の国」の出来事なので、歴史の知識を持っていなくても問題ない。この点だけは、あらかじめ諒解しておいてもいいかもしれない。
それでは、観るかどうか悩んでいる人は、ここで文章を読むのを止めることをオススメする。
私はいつも、映画館で映画を観ており、しかも、観る映画について事前にほとんど何も調べない。チラシや予告程度の情報で観るかどうかを決め、なるべく具体的な情報を知らないまま観るのが好きだ。
だから、映画を観終えてから、『灼熱の魂』が、有名映画監督の出世作であることを知って驚いた。『DUNE/デューン 砂の惑星』『メッセージ』『ブレードランナー 2049』『ボーダーライン』などを監督しているドゥニ・ヴィルヌーヴなのだ。
2010年に製作され、2011年に日本で公開された『灼熱の魂』が、どうして2022年にデジタル・リマスター版が制作されたのかは分からない。しかしそのお陰で私はこの映画に触れることができたので、とても喜ばしい。これまで、一度観た映画を再び観たケースは数えるほどしかないが、『灼熱の魂』はもう一度観てもいいかもしれないと思うほど、久々にガツンとやられた映画だった。
ネタバレなしで内容紹介を
ジャンヌとシモンは、カナダに住む双子の姉弟。彼らは、公証人・ジャンに呼び出された。母・ナワルはジャンの秘書を長年務めたのだが、その母の遺言状を預かっているのだという。
母が遺した遺言状は、実に奇妙な内容だった。
冒頭こそ、財産分与や葬儀・墓についてなど事務的な内容が続くが、最後に2つの”指示”が与えられる。姉ジャンヌには「父親を探すこと」、そして弟シモンには「兄を探すこと」と書かれていたのだ。母は父・兄(ナワルにとっては夫・息子)に対してそれぞれ手紙を書いており、「2人を探し出し、無事手紙が渡ったことをジャンが確認し次第、ジャンヌとシモンにさらなる手紙を渡す」のだという。
この内容に姉弟は困惑した。父親は内戦で死んだと聞かされていたし、兄の話などこれまで一度も聞いたことがないからだ。弟のシモンは、母の遺言を無視するように提案する。実は母ナワルは、姉弟にとってかなり奇妙な存在であり、気持ちが通じ合ったと感じる経験をほとんどしたことがない。だからシモンは、「母親がまた頭のおかしなことを言っているだけだ」と相手にせず、普通に埋葬しようと考えたのだ。しかし、生真面目な姉ジャンヌは、母の遺言に従って、父親探しを始める。
ナワルは中東で生まれた。軍が絶えず視界に入り、内戦がいつまでも続く国の南部に位置する村の出身だ。
その日ナワルは、婚約者と共に実家に向かっていた。しかし、険しい山を登る途中で2人の兄に見つかり、銃を向けられる。ナワルの婚約者の存在が許しがたいようだ。そしてなんと、婚約者はそのまま射殺されてしまう。泣き崩れるナワル。祖母はそんな彼女を、「お前は一族の名誉を傷つけた」と大声でなじる。ナワルは泣き続けるしかない。祖母は、ナワルが妊娠していると知ると、こんな提案をする。出産までここで過ごし、子どもを産んだら街にいる叔父の元へ行き、大学に通いなさい、と。生まれた子どもはそのまま孤児院に預けられた。ナワルは祖母に言われた通り叔父を頼り、大学生になる。
情勢が不安定な中、ある日社会民族党が大学を閉鎖した。叔父一家は、「状況が落ち着くまで山に避難する」と言って準備を始める。しかしナワルは、この機にある決断をした。叔父に嘘をついて家を出たナワルは、そのまま紛争が続く南部へと向かったのだ。かつて手放した息子を探し出すためである。
大学の数学講師であるジャンヌは、母の祖国に足を踏み入れた。教授から、母が通っていた大学で数学を教えていた人物を紹介してもらったので尋ねてみたのだが、まったく当てが外れてしまう。母の古い写真を手にそのまま大学で話を聞いていると、「その写真は南部で撮られたものだ」と断言する人物に出会った。どうしてそんなことが分かったのか。それは、写真の中でナワルが背にしている壁が、よく知られた監獄のものだったからだ。南部クファリアットに作られた、悪名高き監獄である。
そう、ナワルは15年という長い年月をその監獄で過ごした。「歌う女」という呼び名で知られた人物だったのだ。
「ラストに明かされる真実の衝撃」だけの物語では決してない
上述の内容紹介では、映画のかなり冒頭の部分までしか触れていない。ほとんど何も書いていないに等しいだろう。そして、物語の展開上これはネタバレに当たらないと思うが、姉弟は無事に父と兄を見つけ出す。しかし、「父と兄が見つかる」という事実が、この映画における最大の衝撃をもたらすことになるのであり、まずはその「ラストに明かされる真実」がもたらす驚きが凄まじい。
しかしこの映画の驚くべきは、「『ラストの衝撃』だけの作品ではない」という点にある。「ラストの衝撃」だけに頼る作品は、物語中盤の展開がダルくなってしまうことも多いだろう。しかし『灼熱の魂』は、ラストに至る過程もずっと驚きの連続なのだ。
これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます
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