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【実話】暗号機エニグマ解読のドラマと悲劇を映画化。天才チューリングはなぜ不遇の死を遂げたのか:『イミテーションゲーム』
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天才アラン・チューリングは、無数の人間の命を救った。しかしその事実はあまりに知られていない
アラン・チューリングは史上まれに見る天才で、とんでもない業績を残した人物だ。しかし歴史に翻弄されてしまう。「1400万人以上の命を救った」とされるその最大の功績が世に知られることなく、偏見に苦悩して41歳という若さで自殺した。
この映画では、そんな彼の凄まじい生涯が描かれていく。「現代社会の基盤」とも言えるものを生み出し、多数の人命を救った”英雄”の存在を、我々は忘れるべきではないだろう。
「コンピューター」を生み出した天才
コンピューターの存在しない世界など、もはや想像もできないだろう。それは「パソコン」が存在しないだけではない。当然「スマホ」だって生まれなかっただろうし、機械で製作しているもの、機械で制御しているもののほとんどが実現しなかったはずだ。当然、「インターネット」だって存在するはずがない。そんな世界、もはや想像もできないだろう。
では、そんな「コンピューター」を生み出したのは一体誰なのか? スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツを想像する人もいるかもしれないが、彼らは「コンピューター」を個人でも使いやすいものに作り変えた人たちだ。もちろんそれも素晴らしい功績だが、彼らが「コンピューター」を生み出したのではない。
それは、アラン・チューリングという天才数学者が発想したのだ。
時として、誰も想像しないような人物が、想像も出来ないような偉業を成し遂げる。
彼は「コンピューターの父」と呼ばれ、まだそんな発想が微塵もなかった時代に「思考する機械」のアイデアを生み出した。「SF作家が想像で生み出す」のとは違い、彼は「どうすれば数学的に『思考する機械』が実現可能か」という、現在のコンピューターの核となる部分を考えだしたのだ。
あなたが普通じゃないから、世界はこんなに素晴らしい。
「チューリング」という単語を耳にする機会は実は結構ある。特に、人工知能が注目される現代では。人工知能のレベルを測る指標の1つとして、「チューリング・テスト」と呼ばれる判定方法が知られている。やり方はシンプルだ。人間と人工知能それぞれに同じ質問をする。質問者はどちらの姿も見えない。そしてその返答が「より人間らしい」のはどちらかを判定する、というものだ。
マシンは人間のように考えはしない。マシンは人間とは違う風に考える。
しかし面白い問いだな。人間のように考えていないとしたら、それは考えていることになるのか?
チューリングが「思考する機械」のアイデアを出すと、「機械は人間のように思考するか?」という議論が巻き起こった。しかし闇雲に議論しても仕方ない。そこでチューリングがこの「チューリング・テスト」を発表し、「このテストをクリアすれば、『人間のように思考している』と判断していいのではないか」と提案したのだ。この「チューリング・テスト」にも、「中国語の部屋」として知られる思考実験を始め、様々な批判は存在する。しかし「議論を開始するためのスタートラインを提示した」という意味では非常に重要ではないかと感じる。
チューリングが存在しなければコンピューターが生まれなかったのかは分からない。別の誰かが同じようなアイデアを出したかもしれないだろう。しかし1つ確実に言えることは、コンピューターというアイデアが生まれるのが遅ければ遅いほど、その後の社会の進化も遅くなる、ということだ。今私たちが「便利な社会」に生きられているのはチューリングのお陰だと言っていいだろう。
チューリングはいかにして1400万人以上の人命を救ったのか
コンピューターの原型となるアイデアを生み出しただけでも、1人の人間の功績としては大きすぎるほどだろう。しかし彼が成したことはそれだけではない。彼は数多くの人の命を救っているのだ。
今朝私は、消滅したかもしれない街で電車に乗ったわ。
あなたが救った街よ。
比類なき功績であり、2013年にエリザベス女王はチューリングの功績に対して異例の”恩赦”を与えた。
しかしそもそも「恩赦」とは、「刑を消滅させる、あるいは軽減させること」であり、チューリングに恩赦が与えられたということは、彼が何らかの罪に問われていたことを意味する。彼はその状態のまま自殺した(とされている)のだが、死後に恩赦が与えられたことで彼の名誉が回復した、ということだ。彼がどんな罪に問われていたかは後で触れるが、”世紀の英雄”が犯罪とは言えない罪で逮捕され、そしてそのことが原因で自殺してしまったことはあまりに悲劇と言えるだろう。
ちなみに、チューリングに対する恩赦は、通常の手続きとは異なる形で与えられたため”異例”と受け取られている。本来は、「実際には無実だったことが証明されること」「遺族のような名誉回復がなされることに大きな利害のある関係者からの要求であること」が必須とされているが、チューリングはそのどちらにも当てはまらない、例外的なものだったというわけだ。この点からも、「チューリングの功績を正しく評価しよう」という動きがいかに強かったかが理解できるだろう。
話を戻す。彼が大勢の命を救ったという話だ。では彼はどのようにそれを成し遂げたのだろうか?
それは、第二次世界大戦で活躍したドイツ軍最強の暗号機「エニグマ」を解読したことによってである。
クロスワードパズルで、ナチスを打ち破ったぞ!
暗号機の解読がどのように人命を救うことに繋がったのかイメージしにくいかもしれないが、エニグマの解読によって戦争終結が2年以上も早まったとされているのだ。つまり、その2年間に亡くなっていたかもしれないすべての人の命を救ったのである。彼1人の功績ではないとはいえ、1人の人間の多大な功績が戦争という巨大な存在を打倒したという事実はあまりに凄まじい。
そんな、エニグマの解読はどれほど困難なものだったのだろうか。
英国軍はそもそも、ポーランド軍が入手したエニグマの実物を保有していた。また、エニグマによって暗号化された通信は、AM受信機があれば誰でも受信できる。しかし、その受信した内容だけでは、暗号化される前の平文を知ることはできない。なぜならエニグマには「設定」が存在し、その「設定」を入力しなければ解読できないからだ。
エニグマに存在し得る「設定」の数は159×(10の18乗)パターン。まったくイメージできないが、1つの設定を1分で試し、24時間365日休みなくフル稼働でチェックしたとしても2000万年掛かるのだという。まず解読など不可能に思えるだろう。
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