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【真相?】映画『マミー』が描く和歌山毒物カレー事件・林眞須美の冤罪の可能性。超面白い!

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和歌山毒物カレー事件で死刑が確定した林眞須美の冤罪の可能性を追うドキュメンタリー映画『マミー』は、実に説得力があり、メチャクチャ面白かった

もの凄く面白い作品だった。もちろん、事件をリアルタイムに経験していない世代が本作を観てどう感じるかは分からない。ただ、私は当時の報道の苛烈さを何となく覚えているし、そしてその報道による”刷り込み”から「林眞須美が犯人で間違いないだろう」みたいに考えていた。恐らく、リアルタイムで事件を追っていた多くの人が同じ感覚を持っているだろうと思う。だから「林眞須美に冤罪の可能性がある」という取り上げられ方に驚かされたのだ。さらに、検証はかなり緻密に行われている印象で、映画を観れば「なるほど、その可能性もあり得るな」と感じる人も多いんじゃないかと思う。そういう意味で、実に興味深い作品だと言っていいだろう。

ちなみに、私は公開直後に観に行ったのだが、その時点で、東京での唯一の公開館だったシアター・イメージフォーラムは満員だった。私が観たのは劇場のサービスデーだったのだが、そのこととは関係なく、どうやら連日満員だったようだ。東京で1館しか公開していないのだからそうなるのも当然かもしれないが、それにしても、注目度の高さが窺えるのではないかと思う。

それでは、まずは「和歌山毒物カレー事件」の概要をおさらいするところから始めていくことにしよう。

「和歌山毒物カレー事件」の概要と、「冤罪の可能性を示唆する」という本作『マミー』の目的について

事件は1998年7月25日、和歌山市園部で起こった。この日は地域のお祭りが開かれており、その一環として振る舞われていたカレーを食べた者たちが「食中毒」として次々と病院に搬送されたのだ。事件発生直後は体調不良を誘発する原因が分からなかったのだが、後の捜査で「カレー鍋にヒ素(亜ヒ酸)が混入されていたこと」が判明した。そうして最終的に、小学生を含む4名が死亡、67名が搬送されるという未曾有の事態に発展したのである。

全国的にも非常に注目度が高かったこともあり、警察も大規模な捜査を行っていたのだが、しばらくの間目立った進展はなかった。しかし事件からちょうど1ヶ月後の同年8月25日、朝日新聞朝刊があるスクープを報じる。事件以前に、園部のとある民家でヒ素中毒になった者が2名もいたというのだ。そしてその民家こそ、林眞須美宅だったのである。

さらに「林眞須美が保険金殺人を企てた」という続報が出たことで、一気に林眞須美を疑う論調が固まっていった。そして10月4日、彼女は「和歌山毒物カレー事件」の容疑者として逮捕されたのだ。その後2009年5月19日に死刑が確定、今も拘置所で死刑執行を待つ身である。

色んな事件がその時々のマスコミを騒がせるが、「和歌山毒物カレー事件」が起こった時は報道はこれ一辺倒だったと思う。昔のことはあまり覚えていないが、「連日この話題でもちきり」みたいな感じだったはずだ。また、本作中でも使われていたが、林眞須美が報道陣にホースで水をかけるシーンも凄く印象的だった。あの映像は多くの人に、「こんなことをする奴はきっと犯人に違いない」という印象を与えたんじゃないだろうか。

そんなわけで私も、そして恐らく多くの人も、「林眞須美がどのような理屈で有罪と判断されたのか」を知らないまま、「林眞須美が犯人で間違いないはずだ」と考えているのだと思う。本作の冒頭では、園部の住民に林眞須美や事件のことについて聞いた際のやり取りの音声が流れるのだが、やはり住民としても、「林眞須美が犯人で間違いないだろうから、事件のことなんかもう考えたくもない」みたいな感覚を持っているのだろうなという感じだった。

そんな中で本作は、「林眞須美の冤罪を示す」という明確なスタンスを持って作られている。もちろん、「住民が事件をどう感じているのかの取材」や「林眞須美の長男の今」など様々な要素が含まれる作品なのだが、全体の方向としては「冤罪を示すこと」が目的になっているというわけだ。

そして本作ではその「冤罪の証明」のために、「目撃証言」と「ヒ素の鑑定」に着目している。この記事でも、主にこの2点について書いていくつもりだ。

ちなみに、作中でも触れられていたが、「和歌山毒物カレー事件」においては最後まで、「林眞須美の犯行であることを示す直接的な証拠」は見つからなかった。これはつまり、「『林眞須美がカレー鍋にヒ素を入れた』という事実は立証されていない」ことを示している。そして様々な状況証拠から「林眞須美の犯行」と断定されたというわけだ。

では、まずは「目撃証言」から触れていくことにしよう。

目撃証言の曖昧さ

裁判では、ある目撃証言が証拠として採用されている。カレーを作っていた場所(つまり犯行現場)は林眞須美の自宅ではなく、近隣にある敷地なのだが、その敷地の向かいに住んでいた高校生の証言だ。彼女は自宅の窓越しに林眞須美を目撃したそうで、「林眞須美が1人で鍋の近くにいた」「林眞須美が周りをきょろきょろしながら鍋の蓋を開けた」と証言したという。そして本作では、まずこの目撃証言について徹底した検証が行われる。

最初に重要になるのは「見通しが悪かった」という点だ。確かに、高校生が住む自宅から林眞須美がカレーを作っていた場所を見ることは可能である。ただ、視界はかなり狭い。間に様々な障害物が存在するため、林眞須美がいた場所のほんの一部しか見ることが叶わないのである。つまり、「その敷地の状況全体を見渡した上で『林眞須美が1人でいた』と判断したのではない」というわけだ。

また、これは「目撃証言の信憑性」に関わる問題だが、高校生の証言は実は後に変更されたのである。当初は「1階の窓越しに見ていた」という話だったのだが、後に「2階の自室の窓から見た」という証言に変わったのだ。もちろん、「単なる勘違いだった」という可能性もあるだろう。しかし私は、様々なノンフィクションやドキュメンタリー映画に触れる中で、「警察がいかにえげつないやり方をしてくるか」を知っているつもりである。つまり、「もしかしたら警察から何か誘導があり、無理やり証言を変えさせられたのかもしれない」みたいに考えてしまうのだ。まあそれは私の勝手な憶測にすぎないが、本作でも「何かしらの意図があって、高校生の意思とは関係なく証言が変更されたのではないか」と受け取れるような示唆がなされている。その真偽はともかく、なんとなく「不自然さ」を感じさせるポイントだとは言えるだろう。

そして本作ではさらに、「林眞須美の長男の記憶」との整合性についても検証がなされていく。長男は「林浩次」という仮名で本作に登場するのだが、彼は事件当日、自転車で遊びに出かける際に、母親が次女と一緒にカレーを作っている姿を目撃しているのだ。この時の記憶については、後に次女と何度も話す機会があったそうだが、お互いの記憶に相違はなかったそうである。もちろん、「長男が見た時に次女と一緒にいた」というだけでは、「林眞須美が一人きりになる瞬間がなかった」という証明にはならない。しかし、高校生の証言には次女に関する話が一切出てこないので、その点はやはり不自然と考えて良いのではないかと思う。

ちなみに、長男による「母親は1人ではなく次女と一緒にいた」という証言は、「身内によるもの」として裁判では認められなかった。それは、次女による「母親と一緒にいた」という証言も同様である。まあ、裁判の仕組みとしてこの点は仕方ないとは思うが、長男や次女のこれらの証言を踏まえた上で、警察がもっと目撃証言を拾うべきだったのではないかとは感じた。

さて、さらに言えば、次女はもっと興味深い証言をしている。これは林眞須美の証言とも一致するのだが、「次女が鍋の蓋を開けた」そうなのだ。次女はカレーの味見がしてみたくなり、母親の制止を振り切って鍋の蓋を開け、指を突っ込んで味見したという。つまり、「きょろきょろしながら鍋の蓋を開けた」という高校生の証言は、この次女の行動を目にしたのではないかと考えられるのだ。

しかしこの仮説が成り立つためには、林眞須美と次女を見間違う必要があるが、そんなことあり得るだろうか? この点に関して、実に興味深いエピソードが提示されていた。写真週刊誌の「フライデー」が当時、「室内にいる林眞須美」を捉えた写真を誌面に載せたのだが、実はその写真は次女のものだと発売後に判明し、回収騒ぎに発展したというのだ。つまり、現場で取材をしていたカメラマンでさえ見間違うぐらい、2人は見た目が似ていたのである。だとすれば、高校生が次女の行動を林眞須美のものと証言したとしてもおかしくはないだろう。

さらに高校生は当初、「蓋を開けた際、林眞須美の髪の毛が鍋に入りそうだった」と証言したそうなのだが、これもおかしな話である。というのも、林眞須美は事件当時短髪で、髪が長いのは次女の方だったからだ。この証言などは明らかに、「高校生が目撃したのは次女である」ことを示しているように私には感じられる。

また、林眞須美と次女はカレー鍋を2つ準備していたのだが、高校生の自宅から見える鍋はその内の一方だけだった。そして高校生は、「自宅から見える方の鍋の蓋を林眞須美が開けた」と主張しているわけだが、実はヒ素が入っていたのはもう一方の鍋の方で、林眞須美が開けたとされる鍋にヒ素は入っていなかったのである。もちろんこの話にしても「林眞須美の犯行ではない」ことの証明にはならないが、少なくとも「高校生の目撃証言の信頼性」を揺るがすことは確かだろうと思う。

このような事実を丁寧に掘り起こしていくことで、「カレーを作っていた敷地に2人いたことに気づかなかった高校生が目撃したのは、林眞須美ではなく次女だったのではないか」という可能性が浮上してくるのである。なかなか興味深い検証ではないだろうか。

しかし私は、これらの検証は「林眞須美の冤罪証明には弱い」と考えていた。確かに、「高校生の目撃証言の信頼性」を崩すことには成功していると言えるだろう。この検証を踏まえれば、裁判で証拠として採用されたらしいこの目撃証言の証拠能力が低いことは明白だと思う。しかしだからと言って「林眞須美が冤罪である」と示されたわけではない。単に「警察が用意したストーリーが成り立たなくなった」というだけのことであり、仮にこの高校生の目撃証言が完全に排除されたところで、「林眞須美が犯人である可能性」が消えるわけではないはずだ。だから、この時点ではまだ証明には弱いと考えていたのである。

しかし、次で紹介する「ヒ素の鑑定」に関しては、冤罪を示すかなり決定的な事実を提示しているように私には感じられた。

最新の研究施設で行われたヒ素の鑑定

以前私は、『すごい実験』(多田将/中央公論新社)という本を読んだことがある。素粒子物理学の研究者である著者が、最新の物理学についてかなり平易に紹介してくれる作品だ。そしてその中で、素粒子物理学の実験で使われる「SPring-8」という実験施設が紹介されていた。兵庫県にある、直径約500m(ちなみに東京ドームの直径は約200m)もの巨大な円形状の施設である。そしてさらに、「SPring-8で和歌山毒物カレー事件のヒ素の鑑定が行われた」というエピソードにも触れられていたのだ。

だから本作にSPring-8が出てきてちょっと驚いてしまった。そこで鑑定が行われたことは知っていたわけだが、「まさか物理学で使われる実験施設にまで取材に行っているとは」と感じたのである。

SPring-8は、1997年10月から運用が開始されたそうだ。「和歌山毒物カレー事件」が起こる直前である。そしてそんな最新施設で「ヒ素の鑑定」が行われたことで、マスコミにとってのニュースバリューが生まれることにもなった。そんなこともあって、「これで林眞須美の犯行であることが決定的」であるかのようなイメージがついたのである。

では、そんな「ヒ素の鑑定」について、本作でどのような検証がなされているのか見ていくことにしよう。

そもそもSPring-8は、「高速で加速した物質にX線を照射することで、物質の組成が細かく分析できる」という代物である。これによって、「2つの試料が同一のものかどうか」が判定できるというわけだ。そして当時、この「ヒ素の鑑定」を担当したのが、東京理科大学の中井泉である。本作にも登場し、証言を行っていた。事件で実際に使われたヒ素は、まず別の方法で鑑定が行われたのだが、そこで「ビスマス」という成分が検出されたのだという。そしてそのことを知った中井泉は、「だったらSPring-8での分析が最適だ」と判断したそうだ。「ビスマス」は重い元素であり、SPring-8はそんな重い元素の分析に向いているからである。

さてそもそもだが、この鑑定によって「林眞須美の犯行である」という裏付けを得るためには、「林眞須美が使用可能だったヒ素」と「事件で実際に使われたヒ素」という2つの試料が必要だ。というわけでまずは、これらをどのように手に入れたのかについて書いていくことにしよう。

「林眞須美が使用可能だったヒ素」に関してはかなり徹底した調査が行われている。そもそも林眞須美の夫がシロアリ駆除の仕事をしていたこともあり、林眞須美の自宅にヒ素があった。そしてそれだけではなく、なんと「林眞須美の友人・兄弟宅」にあったヒ素も押収し分析にかけたのである。そのいずれかが「事件で実際に使われたヒ素」と一致すれば、林眞須美の犯行である可能性が高まるというわけだ。

では、「事件で実際に使われたヒ素」はどのように入手したのだろうか? 「カレー鍋から採取した」と想像している人もいるかもしれないが、そうではない。作中では特に言及されていなかったが、普通に考えて、カレー鍋からヒ素だけを単離するのは不可能だろう。もちろん、被害者の体内からも取り出せはしないと思う。実際には、カレー鍋近くのゴミ袋から紙コップが見つかり、その紙コップにヒ素が付着していたのである。そしてこの紙コップが「『事件で実際に使われたヒ素』が入っていた容器」と認定されたようなのだ。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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