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【映画】『キャスティング・ディレクター』の歴史を作り、ハリウッド映画俳優の運命を変えた女性の奮闘

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「配役」の歴史を一変させた女性の奮闘を描く映画『キャスティング・ディレクター』。ハリウッド映画は彼女が変革した

とても面白い映画である。まさか、「配役」という仕事によってハリウッドを一変させた女性がいたなんて、私はまったく知らなかった。

恐らくだが、「キャスティング・ディレクター」という職種のことを私は、本作によって初めて知ったと思う。私はそれぐらい、映画に詳しくない。「キャスティング・ディレクター」とはその名の通り、「配役を考え、差配する人」だ。そして本作で描かれるのは、「キャスティングの仕事を一変させた」と評価されているマリオン・ドハティという女性である。正直私は、「キャスティング・ディレクター」がそこまで重要な仕事だとは認識出来ておらず、彼女の来歴や成果を知り、認識を大いに改めさせられた。

「配役」に対して私があらかじめ抱いていた印象と、その実際

さて、本作の内容に触れる前にまず、「配役」「キャスティング」という仕事に対して私がどんな印象を抱いていたのかについて書いておくことにしよう。

映画制作は基本的に分業制であるだ。脚本・音楽・美術・衣装・VFXなどの様々な専門家が関わり、1つの作品としてまとめ上げられる。そして、その全体を指揮・統括するのが監督というわけだ。映画制作について詳しいわけではないが、この認識で間違っていないだろうと思う。

さてその上で私は、「映画制作において、『配役』は非常に重要だ」と考えている。もちろん、他のどんな要素も必要不可欠なわけだが、脚本や美術や音楽が揃っていたところで、役者がいなければ映画は撮れない。なので私は、「映画制作において最も重要な要素」だと考えているのだ。脚本も同程度に重要なのだろうが、脚本の場合は、「映画を撮る」と決まった時点であらかた手配が済んでいるものではないだろうか。監督自身が脚本を書くこともあるだろうし、プロデューサーが誰かに頼んだりもするだろうが、「脚本があるから映画制作が始まる」と言えるように思うので、実際の制作においてはやはり、「配役」が最も重要になるのではないかと私は考えている。

そしてだからこそ私は、「配役は監督の仕事だ」とずっと思い込んでいたのである。出演する役者全員を監督が差配するのは恐らく難しいだろう。しかし、作中の重要な役柄については、役者への依頼等の実務は別の人がやるにしても、「どの役者に頼むのか決める」のは「監督の仕事」だと考えていたのだ。

しかし本作『キャスティング・ディレクター』を観て、そうではないことを知った。そのことを最も印象的に語っていたのが、映画監督のウディ・アレンだ。彼は作中ではっきりと、「キャスティングは嫌い」と明言していたのである。彼曰く、「そもそも人見知りだし、スター俳優がオーディションに来ると緊張しちゃうし、同じくらい有能な役者から1人だけを選ぶのも気が引ける」のだそうだ。もちろん、すべての映画監督がウディ・アレンのようなタイプではないと思うが、「配役を決めるのは得意じゃない」と考えている映画監督は実際には多いのだという。

正直なところ、私にはそもそもこの点がとても意外だった。そしてだからこそ、「キャスティング・ディレクター」という職種の重要性を改めて認識出来たというわけだ。

キャスティング・ディレクターであるマリオン・ドハティへの高い評価と、過小評価され続けた歴史

本作『キャスティング・ディレクター』には、映画にまったく詳しくない私でも名前を知っているような有名な人たちが多数登場し、彼らが口々にマリオンの仕事を称賛する。一部ではあるが抜き出してみよう。

マリオン・ドハティはキャスティングを革新した。

マリオンのキャスティングは芸術だ。

手掛けた映画の量と質に圧倒される。どれも、アメリカ文化を語る上で外せない映画ばかりだ。

映画制作のパートナーだと思う。

中でも印象的なことを言っていたのが、映画監督のマーティン・スコセッシである。彼は本作の冒頭で、マリオンの仕事を次のような言い方で大絶賛していたのだ。

映画の9割以上はキャスティングで決まる。

このように、「キャスティング・ディレクター」という仕事は現在、その重要性が高く評価されている。しかしかつてはそうではなかった。マリオンを始めとするキャスティング・ディレクターは、その存在がずっと過小評価され続けてきたのだ。

その最も印象的なエピソードとして、映画『真夜中のカーボーイ』におけるキャスティングの話が作中で紹介されている。

キャスティングを担当したマリオンは、主演にジョン・ヴォイトを推した。彼は当時まだ無名で、しかも、かつてマリオンのお陰でテレビの仕事をもらえたにも拘らず、酷い芝居をし結果を出せなかったことがある。それでもジョンはマリオンに直談判し、マリオンも「過去は過去よ」とかつての失敗を水に流してジョンを推すことに決めたのだ。本作にはジョン・ヴォイトも出演しており、当時のマリオンの決断について、

マリオンの度胸は凄い。

と話していた。本人がそう感じてしまうほどに、当時のジョン・ヴォイトには実績も、分かりやすくアピール出来る部分もなかったのだろう。

さて、マリオンはジョンを推したのだが、結局、オーディションで制作側が高評価をつけていた別の俳優に主演が決まった。しかしその俳優が、2週間後のリハーサルを拒否したのである。このため主演を再考する必要に迫られた。マリオンはもちろんジョンを推す。そして、このような経緯で映画『真夜中のカーボーイ』の主演はジョン・ヴォイトに決まり、その後この作品は、アカデミー賞作品賞他、様々な賞を受賞するに至ったというわけだ。

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