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【恋心】映画『サッドティー』は、「『好き』を巡ってウロウロする人々」を描く今泉力哉節全開の作品だった
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映画『サッドティー』は、「好き」が迷宮入りしていく人々の群像劇をコミカルに描き出す今泉力哉らしい作品
先日初めて、今泉力哉監督作のオールナイト上映イベントに参加してきました。イベント自体の感想は、映画『退屈な日々にさようならを』の記事で書きましたのでそちらをご覧下さい。
さて、私が参加したオールナイト上映では、『退屈な日々にさようならを』『街の上で』『サッドティー』の3作が上映されました。イベントに参加する前の時点で映画『街の上で』では観ていたので、初見は2作品。そして今回は、映画『サッドティー』の感想を書いていこうと思います。
まず内容紹介から始めていきますが、映画『退屈な日々にさようならを』と同様、なかなか説明が難しい作品でして。頑張ります。
映画『サッドティー』の内容紹介
物語はカフェから始まる。アルバイトの女性がオーナーのボンさんに「好きです」と告白するのだが、その話はすぐに終わり、常連客である脚本家・柏木へと焦点が移っていく。新たに入ったアルバイト・棚子が親しげに柏木に話しかけ、「なんか面白いことがあったら声掛けて下さいよー」などと言っているのだが、この柏木、なかなかクセの強い男である。
というのも、二股をかけているのだ。いや、これだけでは大した話ではないだろう。しかし彼はなんと、「どちらの女性も、柏木の二股を公認している」という状態にあるのだ。柏木は、緑の家を訪れては不機嫌そうに脚本を書き、また夕子の家に行ってはダラっとくつろいだりしている。緑も夕子もそのことを知っており、というか、柏木と夕子が付き合っていることを知りながら緑が告白したことで、このような状態になったようだ。そしてそのことを、周囲の人間も当たり前のように知っている。
さて、物語には色んな人物が出てくるのだが、ボンさんの妻が通うネイルサロンで働く夏は、本作においてなかなかの重要人物だ。彼女は結婚を控えており、それを機にある過去を精算したいと考えている。彼女は10年ぐらい前にアイドルのような活動をしていたのだが、その時代の彼女のことを今も熱烈に好きでい続けてくれるファンの存在を知ってしまったのだ。そのファンが書いているブログをたまたま見つけてしまい、「どうにかしたいと思ってる」みたいなことを、友人である緑や園子に話していた。
そんな園子には早稲田という彼氏がいる。にも拘らず、園子は「柏木のことが好き」という感情をあまり隠そうとしない。周囲の人間も、「園子は早稲田と付き合っているけど、本当は柏木のことが好き」だと理解しているようだ。そんな園子はいつも考えている。一緒にいるなら、「自分を好きになってくれた人」と「自分が好きだと思える人」のどちらがいいだろう、と。
さて、その早稲田は、園子へのプレゼントを買おうと訪れた古着屋で店員さんに一目惚れしてしまった。早稲田は柏木に対して「二股なんかあり得ない」と説教をするような人物であり、だから、彼女がいながら別の人に惹かれてしまった自分に戸惑う。そして彼は、「やっぱり『好き』は1人だけに向けるべきだ」と結論づけ、行動を起こすのである。
柏木の周囲でそんな「好きのベクトル」が錯綜していたある日、柏木の高校時代の友人・朝日が訪ねてくることになった。いや、別に柏木に会いにくるというのではない。彼は、毎年恒例だという「海に花束を投げる”儀式”」のために近くまでやってくるそうで、だから柏木の家に泊めてほしいというのだ。
そしてこの男が、思いがけない状況を引き連れてくることになる……。
「恋愛の周りでウロウロする人たち」を描き出す物語
映画『退屈な日々にさようならを』は、「今泉力哉っぽくない作品」だったことにまず驚かされたのですが、本作『サッドティー』では、私がこれまで観てきた今泉力哉作品の雰囲気に近い「恋愛のウダウダ」が描かれていました。また、映画『街の上で』『窓辺にて』などは、「中心となる人物が定まっていた」のに対して、本作は多くの人たちの人生が交錯する群像劇で、その点はとても新鮮だったなと思います。様々な人間の「ちょっと変わった人生」が折り重なり、関係ないように思われた人たちの間にも思いがけない関わりが生まれていくという複層的な展開は、とても面白かったです。さらに、そういう構成によって「『好き』に迷宮していく感じ」も滲み出ていて、物語全体のテーマとも上手く噛み合っている気がしました。
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