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【天才】映画音楽の発明家『モリコーネ』の生涯。「映画が恋した音楽家」はいかに名曲を生んだか

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映画音楽に、そして音楽そのものに革新をもたらし続けた天才作曲家モリコーネの創造力に満ちた生涯を描く映画『モリコーネ』

エンリオ・モリコーネという稀代の映画音楽作曲家に対する凄まじい評価

映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、数多くの名作映画に「これしかない」という曲をあてがい続けた天才作曲家エンリオ・モリコーネについて、様々な角度から語るドキュメンタリー映画である。私は彼の存在についてこの映画を観て初めて知ったが、とにかく凄まじい人物だったようだ。作中では、数多くの人たちが彼のことを多様な表現で評価していた。

あらゆるルールにおける偉大なる例外。

私にとっての羅針盤。

音楽の未来を決めた。

伝説の人。

彼との仕事は勲章だ。

また、『殺人捜査』という映画について言及していた人物は、モリコーネのことをこんな風に語る。

「映画音楽」というフォーマットを生み出した。

「映画音楽」の発明者。

「『映画音楽』というフォーマットを生み出した」というのは、凄まじい功績だと感じられた。

さて、私は、映画音楽の世界についてほとんど何も知らないものの、映画音楽の制作で有名な「ハンス・ジマー」の名前ぐらいは知っている。そして彼も映画に登場し、

彼のことを知らない作曲家は存在しない。

と言っていた。彼のこの評価だけでも、モリコーネの凄さが実感できるだろう。

驚異的なのは、モリコーネが「単に音楽を生み出す」だけではない才能を有していたことだ。映画に登場したある監督は、このように語っていた。

困ったことに、監督や編集者よりもずっと、その場面に相応しい音楽を直感的に理解してしまう。そして、音楽を聴くと、彼のものだと分かる。

映画については普通、監督がその全体像について最も把握しているはずだろう。しかしこと音楽に関して言えば、モリコーネは「そのシーンに必要な音楽を監督よりも深く理解し、それを的確に表現する音楽を生み出してしまう」のだ。単に「作るだけ」ではなく、「想像もしてみなかったけれど、嵌めてみると『それしかない!』と感じるような音楽を生み出し続けてきた」のである。

本作はそんな、とにかく「凄まじい」としか表現しようのない人物についてのドキュメンタリー映画というわけだ。

モリコーネが生み出した音楽のとてつもなさ

映画『モリコーネ』では、モリコーネが劇中音楽を担当した名作映画の実際の映像と共にその音楽が流れる。彼が生み出した曲は、ある意味で「現代映画のスタンダード」になっているわけで、その「新鮮さ」を感じ取るのは難しいかもしれないと想像していたのだが、まったくそんなことはなかった。例えば、映画『荒野の用心棒』の冒頭、それまでの西部劇の常識を覆した音楽などは、今聴いてもやはり「新しさ」と感じさせるものだったと思う。

その中でも、彼の凄まじさを最も感じさせられた場面がある。先ほど少し名前を出した、1970年公開の映画『殺人捜査』に関するものだ。映画で語られていた、『殺人捜査』の劇中音楽の作曲依頼に関する細かな状況はちょっと忘れてしまったのだが、この映画では監督は何故か、モリコーネに作曲を依頼しつつも、映画冒頭では既存の曲を使おうとしていたそうだ。しかし実際には、冒頭でもモリコーネ作曲のものが使われることになった。

というわけで映画『モリコーネ』では、当初の案だった既存曲バージョンと、モリコーネの作曲曲バージョンとで、同じ冒頭の場面を2パターン流すという演出がなされる。そして、まさにその差は「圧倒的」だったと言っていい。

音楽について言語化するのは得意ではないのだが、頑張ってみよう。既存曲バージョンの方からは、「単なる不穏さ」しか感じられなかった。一方、モリコーネ作曲曲の方は、「跳ねるような、どこか陽気さを感じさせるリズムの中に、どことなく不穏な空気が宿っている」みたいな雰囲気になる。これだけでも、これから映画が始まるという状況において、観客が抱く印象はまったく違ったものになるはずだと思う。

さらに凄かったのは、モリコーネの作曲曲の方がとにかく「キャッチー」なことだ。映画音楽なのだから、「あてがわれたシーンにピタッと嵌まっている」ことは当然だろうが、決してそれだけではなく、その曲単体で取り出してみても十分インパクトがあると感じたのである。もちろん、本来は「映画の効果を高めるための付属物」であり、それ自体が目立った存在感を持つべきものではない。実際、モリコーネの作曲曲は、冒頭のシーンと合わせた場合には、映像とバチッと合いながら決して主張しすぎないという絶妙な存在感を保っている。ただし、映像から切り離して曲だけを聴いた場合には圧倒的な存在感を放っており、曲単体でも十分に成立するだけの強さを有していたのだ。音楽についてはまったく詳しくないが、そんな私でも、これはかなり難易度の高いことではないかと感じさせられた。

さて、映画に登場する人物がこんなことを言う場面がある。

彼がいなかったら、21世紀の音楽はまったく違うものになっていたはずだ。

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