【性加害】映画『SHE SAID その名を暴け』を観てくれ。#MeToo運動を生んだ報道の舞台裏(出演:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン)
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ハリウッド最大の性加害問題を明らかにし、#MeToo運動のさきがけとなった女性記者を描く映画『SHE SAID』の凄まじいリアル
ジャニー喜多川の性加害問題に揺れる今の日本において、映画『SHE SAID』の存在は非常に重要だと言えるだろう
この記事を書く数日前、ジャニーズ事務所が記者会見を行い、創業者・ジャニー喜多川による性加害を認め、謝罪した。それ以降、テレビやSNSなどでは、この問題が大きく取り上げられている。そしてこの問題はまさに、本作で扱われる事件と酷似しているのだ。
映画『SHE SAID』の背景にあるのは、ハリウッドで絶大な影響力を持った映画プロダクション「ミラマックス」の創業者ハーヴェイ・ワインスタインによる、女優らに対する性加害問題である。ハーヴェイ・ワインスタインが主役というわけではなく、彼を追い詰めたニューヨーク・タイムズの女性記者2人の物語だ。彼女たちの報道により、世界中で「#MeToo運動」が広がり、様々な業界における性被害の実態が表に出てくるようになった。そのきっかけとなった報道に焦点を当てた作品である。
ジャニー喜多川の問題は、マスコミの問題であるとも言われる。ジャニー喜多川による性加害を知りながらそれを取り上げず、問題にもしなかったからだ。さらに、そんな性加害を行っている人物が作った事務所のアイドルを優遇し、テレビ番組でその人気を利用していた。ジャニー喜多川による性加害問題を調べた特別委員会も、「『マスコミの沈黙』にも大きな問題があった」と指摘していたはずだ。
『SHE SAID』は、社会がどんな状況にあろうがすべての人が観るべき映画だと私は感じるが、しかし、ジャニー喜多川による性加害問題がこれほど世の中を激震させている今こそ、まさに観るべき作品だと言えるだろう。ハーヴェイ・ワインスタインは、自国の報道機関であるニューヨーク・タイムズによって追い詰められた。しかし、日本におけるジャニー喜多川の性加害問題は、イギリスBBCの報道をきっかけにしなければ恐らくここまで大きな問題にはならなかったはずだ。これは端的に、「日本では、マスコミによる自浄作用が働いていない」ことの証であると言っていいだろうと思う。
ハーヴェイ・ワインスタインと違うのは、ジャニー喜多川はもう亡くなっているということだ。最大の加害者であり、最も責められるべき人物は、もういない。もちろん、加害者が亡くなろうが被害者がいなくなるわけではないので、その被害認定や補償などの問題は残り続ける。しかし、ジャニー喜多川が既に亡くなっている以上、日本は「何を最終目標としてジャニー喜多川の問題を取り上げるか」を考えなければならないだろう。
そしてその最大の焦点となるべきは、間違いなく「『第2のジャニー喜多川』そして『性加害による新たな被害者』を、いかに出さないようにするか」しかないはずだ。
ハリウッドの場合、当然ハーヴェイ・ワインスタインに最大の問題があるのだが、それと同時に『SHE SAID』では、法システムにも問題があると指摘される。つまり、「ハーヴェイ・ワインスタインを退場させたとしても、彼が悪用した法システムが残るのなら、また同じことが起こり得る」ということだ。
日本でも今、「ジャニー喜多川という性加害者」以外にも様々な問題が指摘されている。しかし今、私が報道やSNSをざっくり見ている限りでは、「ジャニー喜多川は最低だ」「ジャニーズ事務所は解体しろ」みたいな論調のまま進んでしまいそうな怖さを感じる。もちろん、その批判の手を緩めろなどと言っているわけではない。そうではなく、「ジャニー喜多川やジャニーズ事務所以外の『問題』にも目を向けなければ、結局『第2のジャニー喜多川』の登場を防げないだろう」と主張しているのだ。
そのようなことを改めて認識する意味でも、『SHE SAID』は観ておくべき映画だと私は思う。
「法システムにこそ問題がある」という、『SHE SAID』で描かれる問題の本質
映画では、2人の女性記者がハーヴェイ・ワインスタインの性加害問題を追っていく。1人は出産を経てから合流するので、最初は女性記者1人での取材だった。
彼女は、ハーヴェイ・ワインスタインに性加害を受けたかもしれない人物、あるいは当時彼と一緒に働いていた人物など、かなりの人数の関係者に話を聞きに行くのだが、そのほとんどが「彼の話は出来ません」という反応になる。断り方は様々だが、「弁護士に関わるなと言われている」「協力は出来ないけど、幸運を祈ってる」「誰も話したがらないでしょうね」みたいな反応ばかりが返ってくるというわけだ。
もちろん中には、「ニューヨーク・タイムズにはこれまで酷い扱いを受けてきた」と語る人もいたし、あるいは、「これまでずっと声を上げ続けてきたのに、誰も聞いてくれなかった」と恨み節を返す人もいた。このように、「あなたには話したくない」という反応になることも多少はあるのだが、しかしこれはほとんど例外と言っていい。大体の人が、「話せない」という言い方になるのだ。
彼らは決して、「話したいけど、勇気が出なくて話せない」のではない。この「話せない」は、「話したいけど、理由があって話せない」という意味なのだ。性被害はセンシティブな問題なので、「話す勇気が出ない」という反応になる方がまだ理解できるように思う。しかしそうではなく、「勇気とは関係のない別の理由から話せない」というのだ。その背景が理解できるだろうか?
その理由が「示談」である。単なる示談ではない。「秘密保持契約」を含んだ示談なのだ。そして、その契約の条項に従うと、「話せない」ということになってしまうのである。
ハーヴェイ・ワインスタインを取材する女性記者2人が直面した最大の問題こそ、この「秘密保持契約」だった。彼女たちが話を聞きたいと考えたそのほとんどの人が秘密保持契約を結んでおり、「協力したくても出来ない」という状況に置かれていたのである。
「示談などせず闘えばいいじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、話はそう単純ではない。そもそも、弁護士に相談するとほぼ確実に「示談」を勧められてしまう。本人が法廷で争いたいと望んでいたとしても、弁護士が積極的に示談を勧めてくるのだ。それはある意味で当然だろう。弁護士は、示談金の40%の報酬を手に出来るからだ。法廷で争うような面倒なことをするより、示談で済ませる方が弁護士としては「コスパが良い」のだろう。
また、ハーヴェイ・ワインスタインが狙うのが、社会に出て間もない若い女性ばかりだということも大きい。自身の身に起こった性被害に対して、若い女性ほどどう対処したらいいか分からないものだろう。そして、そんな状況で弁護士に相談すれば、積極的に示談を勧められるのだ。そうなるとなかなか、「示談は嫌です。法廷で争います」などとは言えないだろう。もちろん、ハーヴェイ・ワインスタインはそのような状況を理解しつつ性加害を行っていたのだ。
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