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ちょっと見てって👋     創作都市伝説


第5幕 図書館の動かない国語辞典

今のようにインターネットが普及していない時代、言葉の意味を調べるときには国語辞典を使っていた。今ではあまり使うことはないが昔の偉人の中には言葉の意味を忘れないように読み終わったページをくしゃくしゃに丸め、もう2度と読めないように口の中に放り込んで食べるといった奇行を行うものもいるほどだった。
そんな時代のとある街、多くの本が並び、老若男女が集う場所図書館。そこに大学受験を控え必死に勉学に取り組む男子高校生がいた。

彼は行きたい大学の受験に向け猛勉強をしているところだったが、問題の問いに対する意味がわからず深く悩んでいるところだった。彼は一度気になったところがあるとなかなか気持ちを切り替えることが苦手でわからないことがあるとこうして深く悩み問題が解けるまで1人で悩む癖があった。そんな彼もしばらくすると「はぁ、頼るか」といいその図書館では有名な老人、通称動かない国語辞典と呼ばれている老人の元へ向かった。動かないといっても閉館の時間になれば立ち上がり帰るが、開館から閉館までの間はずっと同じ椅子に座り、ずっと同じ体制だった。そんな老人なのだが、話しかければ話を返してくれるし、勉学については異常なまでの知識量を持っていた。昔から有名な老人で、その老人に勉強を聞くものも多くいた。その為こうして通称動かない国語辞典の老人待ちをすることも珍しくなかった。そして3人ほどの順番待ちの末、老人に問題を見てもらう。見た瞬間にスラスラと問題の解き方を懇切丁寧に教えてくれる老人に感心しながらも問題の意味を理解するために必死に話を聞いた。

それから2日後のことだった。勉強に疲れすこし休む意味も込めてぼっーとしていた男子高校生はふと老人に目がいった。老人待ちはなく老人もぼっーとしているようだった。それからふと気になった。老人がなぜこの図書館に毎日来てなぜ毎日同じ椅子、同じ体制なのだろうか。動かない国語辞典というあだ名がついていることから長い間ここにいることだけはわかる。しかしなぜ毎日来ているんだろう、と。一度気になり出したらもうそのことしか考えられず気がついた時には老人に話を聞いていた。いつもは優しく丁寧に教えてくれる老人なのだが、その話を聞いた途端、急に険しい顔になり帰ってしまった。えっ、なんで、、?とただひたすらに疑問に思える老人の行動に心を揺さぶられ、その日は勉学に集中することができなかった。
次の日、図書館へ行くと老人はいなかった。こんなことは今の今まで一度もなかった。開館から閉館までの間ずっと同じ椅子にずっと同じ体制で毎日いる老人がいなかった。そして次の日もその次の日も老人が来ることはなかった。男子高校生は恐らく自分に非があると感じていただけにそれから勉強に集中することができなかった。それから 1年の歳月がすぎ、浪人となったその男は今日もまた図書館にいた。その間老人は現れることはなかったが、その日開館から 1時間ほどした頃、通称動かない国語辞典と呼ばれたあの老人が姿を見せた。姿を見た瞬間、鼓動が急速に早まるのを感じたが足早にその老人の元に急いだ。

「以前失礼なことを言ってしまったようで大変申し訳ありませんでした!よろしければもう一度教えていただけないでしょうか?」そう男が言うと老人は申し訳なさそうな顔で話し出した。

私は数十年前、君たちと同じように勉学に勤しむ学生だった。時代も悪く、家の手伝いなどで勉学に費やせる時間もあまりなかったがそれでもできるだけのことはやっていたよ。なぜなら医者になりたかったからだ。よくある話と思うかもしれないが初恋の幼馴染がひどく病弱でその病気を治してやりたいっておもっていたからだ。そんな理由でずっと勉強だけはやってきた自信がある。だけど時代が悪かった、家庭が貧しすぎた、すぐにでも仕事をせざるをえなかった。それでも少しの間に勉学に励んでいた。だけどそんな少しの時間で受かるほど甘くはなかった。24歳の時、その幼馴染は死んでしまってね。もう医者になることも諦めたよ。諦めたけど勉強は嫌いじゃなかったから続けていたよ。それから自分のような人は増やしたくないと思って仕事を定年になってからここにきて学生の手助けをしていたのさ。前に機嫌を悪くして帰ったのはそんな過去のトラウマを急に思い出させられて気分が悪くなったんだ。すまなかった。

そう言って逆に老人に謝られてしまった。

それからのこと、以前のように老人は毎日図書館に来ては学生たちに教えるようになり、私も老人の教えにより念願の大学に入学することができた。

毎日同じ椅子、毎日同じ体制でいる老人の手はいつも誰かの手を握っているように感じた。

もしかしたらここは初恋の子との思い出の場所で、ここにいると彼女を感じれるのかもしれない。子供に勉強を教えている姿を見せてカッコをつけているのかもしれない。

もしかしたらそうかもしれないがもう個人的なことを聞くのはもうやめよう。図書館から動かない国語辞典がいなくなってしまうから。


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