ちょっと見てって🙌 【創作都市伝説】
第4幕 無敵の八兵衛
ある田舎の村のうだつの上がらない男、八兵衛。彼の人生は失敗と挫折の連続だった。幼少の頃より親に怒鳴られ殴られ否定され何をやってもうまくはいかない。畑仕事は野菜を枯らし、非力ゆえに力仕事もままならない。ましてや戦に出て武勲などあげれようはずもなかった。多少の知恵はあれど周りのものはどうせ八兵衛が考えたことなどと笑ってまともに取り合ってくれない。親兄弟にも八兵衛に期待するものはなく、もはやいない存在として扱われていた。飯は一日に一度晩にだけ。残飯や腐ったものを与えられていた。ある夜、八兵衛はとある夢を見た。これからの自分の人生だ。朝起きて皆に怒鳴られながら、殴られながら、否定されながら、残飯や腐ったものを食べ、また朝が来る。そしてまた怒鳴られ、殴られ、否定され。残飯に腐った飯。怒鳴られ殴られ否定され。残飯に腐った飯。怒鳴られ殴られ否定され。残飯に腐った飯。そして朝を迎える。地獄の始まりだ。それを何百周、何千周もする夢だった。大きな息を吐きながら咄嗟に起きた。しばらくしても未だ胸は鳴り止まない。窒息しそうになる程、呼吸は荒く頭も痛い。気持ち悪い汗を拭い夢のことについて考える。夢も現実も何も変わらない。もう無理だ。耐えられない。自分には「生きる」ということが向いていない。このままでは夢と何も変わらない。そう思い立った八兵衛は家族と決別し1人で生きていくことに決める。夢から覚め、そのままの勢いで身支度し、あてもなく暗がりの道をひたすらに走った。ここは地獄だ。死んでもいないのに自分だけが地獄にいる。悪いことをしてもないのに地獄にいる。どこか人のいないところへ。自分が自分でいられる場所へ。そう強く念じながらあてもなくただ走る。村からはあまり出たことはなく道も知らない。道があろうがなかろうがただ進む。安らげる場所へ。朝日がのぼりまた落ちるそれでも足は止めなかった。月の明かりを頼りにしても、もう走れない。歩けない。進めない。そう思い、大きな木の根に腰を下ろした。途中の川で汲んだ水を飲みながら大きな息を吐き一息つく。しばらくして気を失うように眠った。気がつくと皆に怒鳴られ、殴られ、否定され。残飯に腐った飯を食う。何百回、何千回でも続く。大きな息を吐き咄嗟に起きる。
またあの夢だ。もう嫌だ耐えられない。皆からいくら離れようと、目に入らない場所に行こうとも彼らからは逃げられない。もう生きていけない。そう思い感傷にふけっていると木の根に白いキノコが生えているのを見つけた。昔、村の奴らが気分が良くなると言って食べていたキノコだ。しかし、食べすぎたものは死んでしまったことを覚えている。
八兵衛は知らないがこのキノコは和名をアイゾメヒカゲダケという。幻覚症状を引き起こす毒性キノコとして現在、法的に規制されている。
このキノコを腹一杯食べて死のう。最後ぐらいいい夢見れるといいなぁ。と八兵衛は川で汲んだ水と一緒に腹がふくれるまで食べ続けた。
しばらくして、自分の体がふわふわと持ち上がるような感覚に陥り、これが村の奴らが言っていたいい気分ってやつか!気持ちいい!今ならなんでもやれる気がする!畑仕事でも力仕事でも。なんでもだ!なんなら戦に行って敵をバッタバッタと倒すことだってできそうだ!
俺は無敵だーーー!!
そう言って大量にキノコを食べた影響から急に深い眠りに入った。気が遠のいていく中、こんな気持ちで死ねたなら良かったと思った。通常であれば死ななければ逆におかしい量を食べた八兵衛はそのまま起き上がらないかに思えた。
しかし、数刻ののち起き上がる。幼少の頃より何百回、何千回と食べてきた腐った飯が彼の消化器官を強め、毒に強くなったのかもしれない。そして麻痺した頭で考える。
しばらくして答えを出す。
ここで暮らすか。
それからおよそ10年、人1人にも会わないこの森の中で自分のペースで自分のやり方で生き抜いた。そこは八兵衛が心から安らげる場所となっていた。途方もない苦労をしながら簡素な家を建て、食べれるものはなんでも食べた。10年であの夢も見なくなった。そんな頃、久しぶりに人に会いたくなった。やはり人間とは1人では寂しさを紛らわすことができないようで、八兵衛も例外ではなかった。昔に比べ力もついたし、1人で生き抜ける自信もついた。昔の自分ではない。今の自分なら家族も受け入れてくれるかもしれない。そう思い村へ帰ることにした。村への帰り道を調べる時間はいくらでもあった。村を出た時は地獄から逃げ出すように走った道を今は少しの期待を胸に歩いている。
2日ほどしていよいよ村が見えてきた。10年ぶりだ。みんなどんな顔をするだろうか、受け入れてくれるだろうか、いや、今なら大丈夫。そう思い村へ入ると誰も居なかった。自分の家を見てもよその家を一軒一軒まわっても誰も居なかった。そこにあったのは白骨だけだった。長い時間が経ったようだった。嘘だ、そんな事ありえないと唯一知っている隣の村まで走っていく。そこにも誰も居ない。白骨だけだ。嘘だ。夢でも見ているのか。人が通った後のようなわだちを頼りに隣の村、そのまた隣の村へいくも誰も居ない。死んだものだけだ。
八兵衛が知る由もないが、感染力が極めて高い疫病が蔓延し村どころかほぼ国が滅んだと言っていいほどの死者を出した。
八兵衛は次の村へのわだちを見失い、森の中で途方に暮れながら木の根に座った。そして見つけてしまう。白いキノコを。やっぱりここは地獄も地獄。やっぱり生きるのに俺は向いてない。そう思い、キノコを食べてしまう。
あははっ!俺は無敵だー!!
敵がだーーれもいなくなった!
無敵だーーー!!!