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窓に想いを馳せる

Cruise ship arrives;
thoughts wander through window…

私が住む街には港があり、クルーズ客船が入港すると、街なか周辺はいっとき賑わう。船は巨大なビルのようにも見え‥あ、ほら! あそこをごらんよ、救命ボート、そして、たくさんの船室と窓、窓‥窓はいつでも憧れをかき立てる。

"窓の外を過ぎゆく人生"と言った人がいる。ええと‥いや違う、私の思いちがいだった。正しくはこうだ。

Beyond the Glass
We see life pass.
「硝子の向こうで 過ぎゆく人生」


«The Eclectic Abecedarium »『雑多なアルファベット』という本の "G"の項に書かれた、韻を踏む2行の句。

著者はアメリカの作家エドワード・ゴーリー(Edward Gorey)。邦訳は柴田元幸。私が持っているゴーリーの絵本のなかでは、長い付き合いのある大切な一冊なのだ。

なぜなら、スパイスの効いた美味しい料理を二度味わえるからで、つまり、英語の原文と柴田元幸の名訳を突き合わせて、自分なりに咀嚼し、さらにもう一つの料理をつくり出す夢が持てること。

My alphabet works.
A dream of creating
another dish.

"うろんな、華々しき、敬虔な、おぞましい、憑かれた、失敬な、ずぶぬれの"、わが愛すべきこの「絵本作家」を思い出したところで、今夜は私もエレガントなひとときを過ごしたいな‥

いつもよりちょっと良いワインの栓を抜いて、あの華やかなクルーズ客船の窓の住人になるとしようか!

音楽は、なにがいいかな‥

アルバン・ベルク Alban Berg の演奏会用アリア「ぶどう酒」Der Wein はどうだろう。そう、ふだんはあまり聴かないし。こんな時にこそ。

原詩はシャルル・ボードレール Charles-Pierre Baudelaire『悪の華』所収。この歌のドイツ語訳はシュテファン・アントン・ゲオルゲ Stefan Anton George と、ライナーノートにある。

演奏会用アリア<ぶどう酒>
Der Wein (11:02)
ぶどう酒の魂/恋人たちのぶどう酒/孤独な男のぶどう酒
ボードレール『悪の華』
Klimt, Judith (Ⅱ), détail.
Galleria d'Arte Moderna, Venise.
Photo © AKG Paris.
folio classique

今日は素晴らしい空だ!
轡も拍車も手綱もない
ワインという名の馬に乗って 
飛び立ちたい気分だ

クリスタル・ブルーの朝
気まぐれな風の翼に乗って
遥か彼方の蜃気楼を追いかけて
夢の楽園へ、
君とのファンタジーを抱きしめて

"LE VIN DES AMANTS"
「恋人たちのぶどう酒」
Baudelaire «Les Fleurs du Mal» より
要約詩
abridged translation by Aoi Ringo.


どうやら 浮遊感が増してきて、ほろ酔い気分のようだ。
そろそろコーヒーが運ばれてくる時間。今宵はこれで散会としようか。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
クラシック音楽と本と❤️さえあれば。またの出会いを楽しみにしております。
ごきげんよう! Belle soirée. Merci.

(*以上、文中に引用したゴーリーとその著作に関する訳語は、すべて柴田元幸氏によるものです)

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