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財政と通貨発行、信用創造の仕組みをわかりやすく徹底解説

 「国債は借金じゃない」「通貨は無限に発行できるから財政問題はない」「信用創造で全て解決できる」など、インターネット上や一部で語られる主張は、経済の根幹を理解していないがゆえの誤解や、特定の理論の一面だけを切り取った極論である場合が多いです。そこで本記事では、通貨発行の仕組みから国債の本質まで、可能な限り分かりやすく整理してみます。経済用語や数式を交えながら、なぜ「国債は借金」と理解されるのか、そして信用創造とは何かを丁寧に説明し、最後に「返さなくてもいい」「財政赤字を気にしなくていい」といった主張がなぜ成り立たないのかを示します。


第1章:通貨発行とは何か?

1.1 通貨の種類
私たちが日常的に用いる「お金」は、大きく分けて2つに分類できます。

  1. 現金通貨:紙幣(お札)や硬貨など、直接手元にあるお金

  2. 預金通貨:銀行預金として記録上存在し、キャッシュレス決済等で使われるお金

前者は日本銀行(中央銀行)が発行するものであり、後者は民間の商業銀行が、貸し出しなどを通じて「記録上」生み出すものです。

1.2 中央銀行とベースマネー
 中央銀行(日本銀行)は国家における唯一の発券銀行であり、「日本銀行券(紙幣)」を発行します。また、中央銀行は民間銀行が預けている「日銀当座預金」を管理し、これらを合わせて「マネタリーベース(ベースマネー)」と呼びます。

  • マネタリーベース = 紙幣・硬貨 + 日銀当座預金

 この「ベースマネー」は、経済全体の「土台」となるお金で、中央銀行が政策金利や資産買い入れによって増減を調整します。

1.3 商業銀行と信用創造
 一方、私たちが普段「銀行口座にあるお金」は、商業銀行による「貸し出し」を通じて増えたり減ったりします。これを「信用創造」と呼びます。例えば、ある銀行が企業Aに100万円を貸し出すとします。すると、その企業Aの口座残高は100万円増えます。このとき、銀行は実際に100万円の現金を印刷したわけではなく、自行が持つ準備金をもとに「銀行預金」という形で新たな「お金」を作り出したことになります。

 ここで誤解してはいけないのは、この信用創造には必ず「将来的な返済」という前提があることです。貸し出したお金は、いずれ返済され、返済が行われれば「預金通貨」は減ります。つまり、信用創造は「永遠に増やせる魔法」ではなく、借り手の返済能力や銀行のリスク管理に制約される仕組みです。

第2章:政府の財政と国債の役割

2.1 政府はどうやってお金を使うのか
 政府が公共事業や社会保障給付に支出する際、基本的には税収や国債発行による資金調達を行います。政府自ら紙幣を「印刷」して財源を得るわけではありません(日本では通貨発行はあくまで日本銀行が担う)。

2.2 国債とは「国の借金」を証明する債券
 国債は、政府が資金を調達するために発行する「債券」です。債券とは、「一定期間後に元本と利息を返します」という借用証書のようなものです。国債を購入した人(投資家、銀行、保険会社、個人など)は、政府にお金を貸し、その見返りとして利息を受け取ります。

 「国債は借金じゃない」と主張する人もいますが、国債は法的に「返済義務」を伴う債務であり、当然「借金」です。国債を元本も利子も返さない場合、政府は債務不履行(デフォルト)となり、信用を失います。これは貸した側から見れば、お金を返してもらえなかったという意味で、明らかな「借金関係」です。

2.3 国債と通貨発行の関係
 
よく誤解されるのが、「中央銀行が国債を買えば、実質的に政府の借金は消えるのでは?」という考え方です。たしかに中央銀行が国債を買い入れると、その対価として「日銀当座預金」や「紙幣」が増え、流通するマネタリーベースが増えると考えられます。だがしかし、中央銀行が保有する国債は「政府が将来返済すべき負債」である点には変わりありません。中央銀行は政府の子会社のように扱われがちですが、法的には独立性が重視されており、中央銀行が政府負債を無限に肩代わりしてチャラにすることは制度的に想定されていません。

 もし中央銀行が無制限に国債を買い取り、事実上の「債務帳消し」を行えば、通貨価値の信認は崩れ、ハイパーインフレや国際的な信用喪失を引き起こします。これは歴史的にもムガベ政権下のジンバブエやWW1後のドイツの例などで明らかです。

第3章:信用創造と国債は別物です

 「信用創造」という言葉を使って「国債は借金ではない」と主張する人がいますが、信用創造はあくまでも「銀行が貸し出しを通じて預金通貨を増やす仕組み」です。国債は政府が資金を借りる手段であって、銀行が貸し出しをする際に信用創造が起こるのとは性格が異なります。

 民間銀行は国債を買い入れたり売却したりしますが、それは資産運用の一環であり、信用創造とは別に考える必要があります。国債は「政府の債務」、銀行貸し出しは「銀行と企業・家計との貸借関係」であり、両者は同時に存在しますが、イコールではありません。

第4章:因果関係や財政運営上の制約

4.1 インフレと通貨価値
 政府が国債を通じて過剰に支出し、それを中央銀行が無制限にファイナンス(国債買い入れ)したとします。その結果、通貨供給が膨張し続ければ、モノやサービスに対するお金の量が増えすぎ、インフレが加速します。インフレが進むと通貨の実質価値が下がり、国民の生活は苦しくなります。つまり、「ただお金を刷ればいい」というのは単純な答えにならず、むしろ長期的に不利益をもたらします。

4.2 金利上昇と信用不安
 政府がどんどん国債を発行して借金を増やせば、いずれ投資家や市場参加者は「この国は本当に返せるのか?」と疑い始めます。疑念が生じれば、投資家はより高い利子を要求するため、国債の金利は上がります。金利が上がれば、政府の利払い負担が増え、さらに財政を圧迫する悪循環が生まれます。

4.3 数式で見る国債とGDP・財政収支の関係
 
経済学では財政健全性を測る指標として、(政府債務残高/GDP) という比率が用いられます。たとえば、政府債務を名目GDPで割った値をDとします。Dが増えすぎると、将来の利払いや償還の負担がGDPに対して大きくなりすぎるということになります。仮に名目成長率(g)と金利(r)の関係が【r>g】であれば、政府債務比率は上昇傾向となります。これは、経済が利払い速度に追いつかないため、債務が相対的に重くなるということです。「借金が消える」と言っても、こうした基本的な数式関係から抜け出せません。

第5章:まとめ

 「国債は借金じゃない」といった主張は、経済と財政の仕組みを正しく理解していないか、もしくは一部の理論を都合よく拡大解釈しているにすぎません。通貨発行はあくまで中央銀行が行うもので、政府はそれを指示して直接お金を生み出せるわけではありません。政府が支出に必要な資金をまかなうには、税金を徴収するか、国債を発行して「借りる」しかないのです。

 信用創造は銀行貸し出しを通じた預金通貨増加を指すもので、政府が負う国債という債務を「消す」ことはできません。また、インフレや金利上昇、経済成長率とのバランスなど、現実経済にはさまざまな制約があります。こうした制約を無視し、「通貨は無限」「国債は返さなくていい」という幻想は現実には成り立たず、長期的な国民生活の安定を脅かします。

 最終的に大切なのは、現実に即して財政や金融政策を考え、将来世代に負担を先送りしないバランス感覚です。だからこそ、識者や財務省は、国債は借金として扱い、財政収支や経済成長率、インフレ率などを総合的に勘案しながら、慎重に政策運営することを目指しているのです。

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