【毎週ショートショートnote】沈む寺
津波だ!
山の中腹に寺がある。
そこに「数百年前にここまで津波が来た」
という石碑がある。
そこまで逃げれば助かるはずだ。
さっきまでいた所がもう水に浸かっている。
コンビニもスーパーも商店街も全部全部水に浸かっている。
何ということだ。
山道に入り、ゆるやかな斜面を登る。
喉が痛いが逃げるしかない。
遠くの方に石段が見えて来た。
そのすぐ奥が石碑だ。
石段を登る。
前を見ると逃げている人がたくさんいる。
一瞬後ろを振り返る。
もうそこまで黒い塊が迫って来ている。
手足の先が痺れてきて力が入らない。
顎が上がり視界が狭くなってくる。
だが走るしかない。
何人追い抜いたかもうよく分からない。
悲しみを感じる余裕もない。
あと少しで石段が終わる。
石碑までもう少しだ。
しかし、周りを見渡しても石碑も寺もない。
ふと我に帰る。
焦って反対側の山に登っていたことに気づいた。
見ると、寺がある方の山は完全に沈んでいた。
こっちに逃げて良かった。
その瞬間、足に何かが絡まったような感触があった。
(420字)
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