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機内で観た映画が最高だった①『シルク・ドゥ・ソレイユ 崖っぷちからの挑戦』

一時帰国の長い長いフライト中に観た映画がいずれも良作だったので、記録しておこうと思う。

『シルク・ドゥ・ソレイユ 崖っぷちからの挑戦』
原題 Cirque du Soleil: Without a Net

シルク・ドゥ・ソレイユといえば、カナダ・ケベック州を本拠地とするエンターテインメント集団だ。その名前を直訳するならば「太陽のサーカス」となるが、一般的なサーカスのイメージを飛び越えた芸術的で圧倒的なショーを世界中で展開している。

私が初めて彼らの公演を観たのは、小学生の時に日本に来たツアーショー(巡回公演)『キダム』だった。およそ同じ人間とは思えない動きをする肉体芸術、目まぐるしく息を呑む大仕掛け、異世界から来たのかと錯覚するような色彩豊かで独創的な衣装、躍動感を存分に高める生演奏、そしてストーリーが紡ぎ出す不思議な世界観、そのすべてに圧倒された。

シルク・ドゥ・ソレイユのツアーショーが日本に来る際はチケットを取っては観に行き、ついに念願のレジデントショー(常設公演)へ行けたのは今から10年以上前のこと。
ラスベガスのベラージオをレジデンスにしているO(オー)だった。

Oの劇場ロビーで撮影した写真。
当時はすでにスマホを使っていたが、画質の悪さに時代を感じる。

「一生に一度はOを観るべき」との言葉を信じてはるばるラスベガスまで行ったのだが、それはまさに一生の思い出に残るような素晴らしい体験だった。

フランス語で水を意味するeau(オー)が公演名になっている通り、巨大なプールが現れたり、瞬く間に床に変わったりする大迫力のO専用の舞台装置に加え、スイマー、アクロバティックダンサー、コントーショニスト、ピエロそれぞれが肉体の限界をこれでもかと魅せるパフォーマンス。

感嘆と驚きの歓声が思わず漏れ出てくるわ、鳥肌が止まらず終演後は汗びっしょりになっているわ、その日の夜、夢に出てくるほどの感動を覚えた。

そして、Oももれなく音楽が極上に良いのだ。劇場でサウンドトラックを購入し、何年も聴き続けた。今聴いてもショーの場面場面が思い起こされるほど、世界観と切っても切り離せない素晴らしい音楽。大好き。

思い出話が長くなってしまったが、私が様々なライブやコンサート、ショーに足を運び、「今この場所で繰り広げられるパフォーマンス」を自分の目で観ることに情熱を注いでいる原体験の一つであるシルク・ドゥ・ソレイユ。

そのシルク・ドゥ・ソレイユが、2020年に発生した未曾有の事態により全世界での公演を中止せざるを得ず、経営破綻にまで陥った。

『シルク・ドゥ・ソレイユ崖っぷちからの挑戦』は、400日の公演中止を経て、Oの再演が決まってから悲願の再演初日までを追ったドキュメンタリー映画だ。

突然の公演休止から1年以上を経て、シルク・ドゥ・ソレイユの代表作「オー」の再演が決まった。演者とスタッフは、ラスベガスのオープニングナイトまでに世界最高峰のパフォーマンスを取り戻すため、不安と戦いながら準備を重ねていく。劇団内部の自由な撮影を許された監督ドーン・ポーターが、世界で最も有名なサーカス団が存続の危機から復活するまでのドラマチックな旅路を追った。

Amazon Prime Videoの紹介文より

もう泣いた、泣いたわ。

所属していたパフォーマーなど3,400名以上を解雇せざるを得なかった経営層の苦渋。先の見えない不安に押しつぶされそうになるパフォーマー、それでも日々自宅でトレーニングに励む様子。ショービジネスの世界を去っていく同僚、この世を去ってしまった仲間…

邦題「崖っぷちからの挑戦」が私にはパッとはまらないのだが、原題「Without a Net」が言い得て妙なのだ。
ショーには物理的なセーフティーネットが設置されておらず、また、シルク・ドゥ・ソレイユの本業である公演自体ができないという経営危機を救済する制度や補助は存在しない。原題に込められた意味に涙してしまう。

そして再演が決まってから、1年以上のブランクを埋めるために再びトレーニングに打ち込むパフォーマーや、使われていなかった舞台装置や衣装の点検・整備を入念に行っていく裏方スタッフ。

素晴らしいショーを構成しているのは生身の人間たちで、それぞれに思いや生活があり、肉体的な限界もある。苦痛や苦悩を抱きながらも、再演に向けて立ち上がっていく様子に、「これはまたラスベガスまでOを観に行かなければ」と思わされる映画だった。

個人的には、目を見張る軟体ぶりを発揮している中国のコントーションチームも大好きなのだが、彼らは背景に一瞬映るくらいだった。映画の構成上、スポットが当たるのは一部のパフォーマーやスタッフとはいえ、少々の偏りを感じたことも記しておく。

Oを観たことのある人にはことさら刺さる内容であることは間違いない。

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イギリスからは観れない泣


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