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私の「PERFECT DAYS」を考える

元旦から3日まで、一歩も外に出ず映画を観まくる、一人映画祭を開催した。
計8本の映画を観たわけだけど、今までの人生の中でも、これからも、私のベスト映画に残るであろう作品に出会えた。

それがこちら。
「PERFECT DAYS」

東京・渋⾕でトイレ清掃員として働く平⼭(役所広司)は、静かに淡々とした⽇々を⽣きていた。同じ時間に⽬覚め、同じように⽀度をし、同じように働いた。その毎⽇は同じことの繰り返しに⾒えるかもしれないが、同じ⽇は1⽇としてなく、男は毎⽇を新しい⽇として⽣きていた。その⽣き⽅は美しくすらあった。男は⽊々を愛していた。⽊々がつくる⽊漏れ⽇に⽬を細めた。そんな男の⽇々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を⼩さく揺らした。

公式サイトより

ここからネタバレしかしてないので、映画未見の方は、そっと画面を閉じてください w


この映画のキャッチコピーが「こんなふうに生きていけたなら」である。
予告編の最後にも出てくる。

主人公・平山の生活は、質素だけれど、確かに美しい。
部屋にはムダなものは一切ない。
本当に必要なもの、好きなものだけに囲まれて暮らしている。
日々、同じルーティーンを繰り返す中で、小さな変化を見つけることができて、それに楽しみや幸せを感じることができる。
昨日とは違う風の音、一瞬一瞬見え方が変わる木漏れ日、一枚の落ち葉から根が伸びている。
そういうものに気づく時、生きているということは、何と素晴らしいことだろうと思う。
そんなふうに、生きていけたなら、そりゃ幸せなことだろう。

でも、そこにたどり着くまでの平山の人生を想像すると、そんな簡単なものでもないような気もする。
映画の中で、平山の過去を直接描かれているわけではない。
でも、毎日判を押したような生活をする平山に、ちょっとした事件が起こって、そこからいろいろ想像できるのだ。

姪が突然訪ねてきたのである。
母親との折り合いが悪く、家出してきたという。
2~3日泊めて、結局親元に返すわけだけど、その時迎えに来た母親 (平山の妹) が乗っていたのは、運転手付きの高級車。
どうやら平山の実家は、お金持ちらしい。
久しぶりに会った兄に妹が言う。
「お父さんに会いに行ってあげて。もう昔みたいじゃないから。」

きっと平山も過去に父との確執があり、家を飛び出したんだろう。
姪と妹が去った後、肩を震わせて泣いている。
いつも穏やかな笑みを浮かべている平山の、初めて見る感情の高ぶり。

父が嫌いだった。
自分を抑圧してくる父が。
ふと思ったのだが、平山がトイレ掃除を仕事に選んだのは、父への復讐だったのではないかと。
誰からも注目を浴び、誰もが羨む成功を収めた父。
当然、息子も同じ道を歩むものだと思っていたのが、まるで正反対の仕事を選ぶ。
家を飛び出すだけでなく、そんな誰にも認められない影のような仕事を選ぶことによって、父親に抗う強いメッセージを送ったのではないか。

しかし、続けていくうちに気持ちも変わっていくだろう。
汚れているものをきれいにすることで、達成感も感じるだろうし、時々人から感謝されることもあるだろう。
平山の仕事はとても丁寧で、仕事に必要なもので、ないものは自分で作ったりする。
それはもしかしたら、父から教わったことかもしれない。

平山がきれいにトイレを磨き上げてるシーンがいくつも出てくるが、私はなぜかそれが、贖罪のようにも見えた。

父が憎い。
でも自分は確かに父の子供だ。
日々、それを実感する。
しかし、妹の口ぶりでは、父親は認知症が進んでいるようで、もうだいぶわからなくなっているらしい。
とうとう、父と理解し合える日はやって来なかった。

つながっているようで、つながっていない世界があると、平山は姪に話す。

ラストシーンでは、5分くらいの長回しで、平山のアップが映し出される。
朝の通勤、音楽を聴きながら運転する平山の表情が、実に微妙に変化していく。
いつもの朝の表情かと思ったら、なんだか目が潤んできて赤くなっていく。
口がへの字になり、今にも泣いてしまいそうな表情。
と思ったらそれを打ち消すかのように、歯を見せて笑ってみせる。
いろんな感情が押し寄せてきてるのがわかる。

平山が姪に語った言葉に、「今度は今度、今は今」というのがある。
私は言外に、「過去は過去」という言葉も聞こえた気がした。

父に反発した過去、親不孝をした後悔、父を憎むことで自分を守ってきたのに、憎み切ることができない。
そんな過去も、父の記憶からなくなろうとしている。
そしていつか死んでいなくなる。
自分だけがこの想いを抱えていかなければならないのか。
でも、それも「過去」。
「過去は過去」として、切ない想いを抱えたまま生きていく。
だからこそ、「今」が尊い

平山のラストシーンの涙には、そんな想いがあったのかもしれない。

生きていくには、痛みからは逃げられない。
そんな中でも、「今」を愛することができるなら、それを「PERFECT DAY」と呼べるのかもしれないと思った。


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