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違うどこかに行きたいと思う心

 今働いている場所は、好きな街。
 今住んでいる場所は、私の住まれた場所に近い、大好きなところ。

 それなのに、なんでしょう。
 暑すぎて、室内にいる。
 大雨が降るよ、と言われても用心して建物の中にいる。
 二酸化炭素の探知機が緑のランプからオレンジ色のランプに変わり、危険を示すオフィスで、少し窓を開けて空気を入れ替える。
 むわっと熱い空気が瞬時に顔に吹き込んだ。

 近くに、薄い襞が連なるようなパイのお店もあれば、フルーツがたっぷり載ったケーキのお店もあるのに、心は何もなくて静かなところを求めている。
 森の香りがして、綺麗な水が湧く泉があって、清々しい空気が流れているようなところに身を置いて、朝から晩まで何冊かの本をめくって、簡単な食事をして、夜早めに寝て、朝早く起きる生活。

 しばらく、そのような感覚を味わっていないので、メトロの階段すら急いで昇降してしまう。
 ゆっくりでいいのに、早い速度に自分を合わせてしまう。
 いや、自然に速度が合っている。
 ずっとそうしてきたから苦にならないのが、変だ。
 不自然に思えてきた。
 向こうから急いで突進してくる人の波をかわして、前に進めてしまう自分も変だ。
 勢いをつけて反対側から歩いてくる人たちに、ぶつかることは全くない。
 いつから速度を緩めていないのかも、もう、わからなくなっている。

 星の王子さまのように、地球の端っこに立ち、広い広い空と満点の星を見ていたい。
 人生なんてちっぽけなスケールではなくて、大きな宇宙の流れを感じたいと思った。
 宇宙飛行士が帰還した後、宗教家になることがあるという話を聞いたことがある。
 もし、禅を知っていたいたら、禅の世界かも知れないと思う。
 スティーブ・ジョブズみたいに・・・。
 人間を超えた精神世界。

 バスに乗っていて、途中からゲリラ雷雨に遭遇した先日、急にナイアガラの滝の下を船でくぐった若い日のことを思い出した。
 バスという小さな箱の中にいて守られてはいるけれど、そこからバス停に着くたびに、何人かずつ降りていく。
 バスのドアが開くと、滝のような雨。 
 白い稲妻が光っていた。
 道路が川のようになっている中を、ひとりひとり、足早に去っていく。
 窓に流れる滝のような雨で滲んで見えている。

 向かってくる人をかわして歩き、雨に滲んだ屋外に出ていく人を見送った一日だった。









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LUNA.N.
書くこと、描くことを続けていきたいと思います。

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