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グレーの車

 朝、通りを歩いている時に発見した、素敵なグレーの車。
 レコードは、リタ・クーリッジの Anytime…Anywhere だ。
 1977年のアルバム。

 この時期にレコードで聴いていた方達は、いい感じにシルバーの髪をしているだろうか。
 再び、レコードに戻ったこだわりのある若い人たちにも、ひっかかりになるかしら。
 私は、世代から外れているけれど、
 Higher And Higherを、すこし籠った感じの音で聴きたい。
 ラジオみたいに、ジリジリした音が入ってもいい。


 ある車メーカーのブランド体感施設がオープンするようだ。
 そのショーケース。
 中は、まだ改装中のようであった。
 都内中心部でこのメーカーとは接点がなかった層へのブランド発信を強化する目的らしい。

 音、肌触り、車のシートの座り心地。
 吹き抜ける風や、オイルの匂い。

 車で聴いた曲というのは、よく覚えているものだ。
 大笑いしていたり、泣いていたり、その時には何がかかっていたのかを、よく覚えている。

 楽しくて仕方がなかった、毎週末の海へのドライブ。
 暑い夏を逃れて、緑のさわやかな香りがする場所で窓を全開にした時。
 雪が降り出して、チェーンを巻くのを手伝ってから、手を温めながら聞いた曲。

 悲しい話を2人でした時も。
 もう、この車に乗ることはないのだな、と思いながら。
 「じゃあ、また来週ね!」
と、手をあげて車が消えていくのを見ていた日々を思い出して、テールランプが滲んでいた。
 あの時にかかっていた曲も覚えている。

体感することは、同時に記憶すること。

 そのうち、自分で運転するようになって、何度も繰り返し聴いていた曲は、
 「ママ。この曲、よく車で聴いていたね。」
と、子どもにも染み付いている。
 私は、車では自分の好みの曲しか流さなかった。
 小さかった子どもの、ふっくらやわらかい頬や、桜色のくちびるが思い出される。
 それを指先でも覚えている。

 車と風景と音楽は、ひとつになって思い出されることを、このショーケースをみて思った。
 その時に乗っていた車のギアを入れる瞬間、私は自由になった気がしたものだ。
 道がつながっているところには、どこにでも行ける。
 新しい発見も、寄り道もある。

 誰かの人生を追体験するための、進化系の車があったら、乗ってみたい。
 風、匂い、そして音楽。
 幸せな気分の、素敵な大人の女性の追体験をする車に乗ってみたい。
 シートにその女性の残り香がして、これからどこに向かって、どんな素敵な出会いがあるのか想像しながら、心が浮き立つのを体感してみたい。

 グレーのクラシックな車の運転席から、黒いワンピースに黒のカチューシャをした白髪の女性が出てきても素敵だし、濃いめの華やかなピンクのセーターにタイトスカート、ドライビングシューズを履いたグレーの髪の女性が出てきたら、目が釘付けになりそうだ。

 聴いている曲は?



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LUNA.N.
書くこと、描くことを続けていきたいと思います。

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