保育園はピンクのお城だった
「わあぁぁぁぁぁ!」
娘の目が輝いたのを、私は見逃しませんでした。
古くて、取り壊し間近の円形の公立保育園。
家のすぐそばには保育園の空きがなく、自転車で10分ほどかかる場所にありました。
2歳11ヶ月だった娘の入る「あひる組」だけ、
壁がベビーピンクに塗られていたのです!
天井は白くて、ガーランドやモビールが下げられています。
白い棚にレエスの飾りがあり、おままごとのカップが綺麗に並んでいます。
その前には、小さな子供用のソファ。
工作用の丸いテーブル。
そして、赤ちゃん人形が眠る揺り籠が3つ並んでいます。
女の子コーナーの向こうに、自動車や電車のおもちゃがある男の子コーナーがあり、自由に行き来できます。男の子も、こちらに来て遊びます。
フランスの子供部屋のような、私もその世界にいたい!と思う空間でした。
建て替えが決まり、先生の裁量でDIYが許されていたようでした。
別の言い方をすると、そうしないとあまりにも古くて。
他の学年のクラスは殺風景で・・・、申し訳ないくらいでした。
担任の美樹先生は、若くて可愛らしい先生です。
「ようこそ!お待ちしていました。」ニッコリと娘を迎えてくれました。
娘は保育園に行き渋るのではないか・・・と覚悟していた私の不安は一瞬でなくなりました。
毎朝、近くの公園の猫の家族に挨拶をしてから、楽しみに向かいます。
「ママお願い!早く迎えに来ないでね!」
これが朝の定番のセリフとなりました。
朝、早く行かないと赤ちゃん人形の乳母車が使えないので、
私が急かされたものです。
ちょっと寂しい気もしましたが、とにかく安心。
夕方迎えに行くと、とても残念そうな顔で出て来ます。
それでも、走って駆け寄って来て、
「ママ!はい!おかず。」
と、庭で拾った木の実を渡してくれました。
先生が牛乳パックで可愛い籠を作ってくれて、そのカラフルな持ち手を腕に引っ掛けて、
園庭中の「おかず」を探します。
保育園がお休みの日は本当に残念そうで、月曜日が待ち遠しい様子。
オムツが取れなくて困っていたある日、
「ママ、保育園のおトイレはすごーく可愛いの。おねえさんパンツにしたいの。」
注)おねえさんパンツ、おにいさんパンツとは、トレーニングパンツのこと。
と言います。
え?だって・・・、言ってはなんですが、遠目にみてもコンクリート打ちっぱなしの、古くてきれいには見えないトイレです。
ところがある日、お迎えの帰りに寄ってみると、
なんて素敵な!!!
美樹先生お手製のタペストリー・・・いえ!
よく見ると、子供が便器に座って届く位置に、状差しの要領で1回分ずつ切ったトイレットペーパーが差してあるのです!
そして、キルティングの共布で便座カバーとマットが。
トイレの壁までは塗れなくても、子供の目線には素敵なトイレットペーパーホルダーがかかっています。
全て、先生がせっせと縫ってくれたお手製です。
「私ね、トイレに行けるようになりたいの。あのポケットからトイレットペーパーをとって使いたいよう。」
トイレに行きたいがために、オムツを早く卒業したい!?
なんて素晴らしい。おうちでも練習しようね。
初めはオムツの上からトレーニングパンツでね。
お昼寝のお布団をしまう引き戸は白。
壁のベビーピンクと引き戸と戸棚の白がなんとも可愛い。
娘にとっては、お姫様のお城のようでした。
先生がお昼寝時間に書いてくださる連絡帳にも、愛のある言葉をたくさんいただいて、
今も私の大切な宝物になっています。
もう大きくなった娘ですが、本人が懐かしんで戻りたがるのは、もうこの世にはなくなってしまったあの保育園です。
娘は、保育園のものは何一つ捨てることができません。
お昼寝布団すら・・・。
いまだに、一番好きな場所は保育園だったと言います。そんな保育園に出会えたことは何より幸せなことです。
保育園?いいえ。ピンクのお城だったのです!