2023年くまの本棚
みなさまあけましておめでとうございます。
書き始めたのは年末だったのですが、よくある話で我が家もご多分に漏れず、年末から夫が体調を崩してしっかりそれをもらってしまいました。
そして、新春の晴れやかな日となるはずだった元旦に、とても大きな事態が起こってしまった。
ひとまずのところ、友人たちやお世話になっている工場のみなさま、訪れていたスタッフの無事を確認でき、ホッとしながらも3.11.の折にも、震災がきっかけとなって廃業を選ばれる方もいらっしゃった。
「できることを見誤らず必要となった時に、できることをする。」というのは3.11.の時に思い詰めてしまった私の自戒でもあり、今回に生きる経験でもあります。
被災した能登を中心とする北陸のみなさま、心から謹んでお見舞い申し上げます。
被災されなかったみなさまにおかれましては、まずはご自身の健康、そして私個人としては、寄付や復興に足がかった際の各々ができることをしっかりキャッチアップして行っていく、そんな根気強さを持っていきたい。
以下は冒頭にこの文面を書き足すことになるとは到底思っていなかった年末の私の文章になっております。
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2023年はコロナからの回復もありながら、確実に変化の年でした。
なかなかTwitterで発信することは減ってきましたが、我がアパレル業界はこの数年で大きく二極化が進み、大きなアジェンダとして東証プライム上場企業に対するTCFD対応が課せられるなど、見えないところ起きてる大きな変化が波のように押し寄せてきました。
簡単だったことなどないと、本当に心から思う中で、いつ何時も助けてくれるのが私にとっては各業界のプロたちが書くビジネス書や指南書。それをどのような豊かなワーディングで自分と周囲の心に刺さるものにしていくのか?という観点を与えさらには心をほっと緩めてくれる小説やエッセイ。
皆さんが読まれた本はありますでしょうか。
ここにない皆さんの一冊があればぜひ教えていただきたい!
どんな本も、多いと月に二桁冊は読む私にとって、耳寄りです。
ビジネス関連部門
成功は一日で捨て去れ 柳井正
今年は、「経営者になるためのノート」が大変な反響を呼んでいた。経営や事業運営に関わっている人なら絶対に知っているであろうファーストリテイリング社長の柳井さんの本です。
今年出された本ももちろん拝読し、一貫された考え方とストイックさ、そして自分の思想やビューを伝える的確な言葉が心に刺さる一冊でした。この「成功は一日で捨て去れ」はより"攻め"の姿勢を感じさせる内容で、私はそもそもこちらの本がとても好きです。
年始に毎年社員に送信されるという社長直々に考えたメールの文面に相当痺れます。事業やHRに対して厳しい判断をする経緯もよりシーンと理由を具体的に書かれています。
その"徹底"たるや。生半可ではない。
そんな覚悟が伝わるのに、言葉の一つ一つは難しくないのも魅力です。(専門用語などはありますよ)
こちらを読まれてない方はぜひ、私は没頭してしまい数時間で読み終えました。おすすめです。
多様性の科学 マシュー・サイド
「多様性の時代」と言われて久しい現代ですが、今また結局のところ多様性とは何なのか?何のために必要なのか?そんなことを思い直す人も多いのではないかと思います。
そんな悩みを抱えた時に出会った本がこちらでした。
今回調べて知ったのですが、著者のマシュー・サイドさんは元卓球選手なのだとか!
完全に余談ですが昨年リトアニアを旅した時に泊まったホテルで素晴らしい対応をしてくれた支配人も、卓球の代表選手で日本によく行くと言ってらっしゃった。
卓球選手は多彩な方も多いのでしょうか。まさに多様な生き方。
本書は、私たちが誰しも忘れない9.11.、あの大事件を題材にCIAの失敗から始まります。テロのサインはあったが、テロリストの彼らの文化思想に明るくない組織だったからこそ気がつくことができなかったという大枠から始まります。
多様性が必要だというところに留まらず、一定レベルを要する多様性を持つ組織が必要なのだと語りますが、この本のいいところはその自明の結論というよりも、倫理観や道徳の中で語られやすい"多様性"を、組織や社会が生き抜くために必要な変容であるとしたところです。
倫理観や道徳で「いまとちがうものを受け入れろ!」求められても、バイアスがかかってなかなか動けないのが人間。それはなかなか責めることができない誰しもが持つ特性です。
本書はそこをうまく解きほぐしてくれます。
出会ってよかった本です。
数理モデル思考で紐解く RULE DESIGN -組織と人の行動を科学する 江崎貴裕
ルールなんて現場で決めてくれればいい、誰かがやってくれればいい、そんな意見を受けてもそれは違うんじゃないかと思ったとしても、エビデンスがない。
そんな時に読んだ本がこちらです。
上に書いたような意見はとんでもない!と思う方も多いかもしれません。でも、ルールを作ったら、さらに運用に乗せるためのルールづくりが必要になり、それを改善していかなくてはならない。時には批判も多く、全体が納得する流れなどない。本当に難しくリソースもかかります。
組織が小さい頃は、直接的に利益をうまないルールを作ることに精神的に摩擦を感じることも多々あることと思います。(利益がないと先立たないのはかなり実感を伴う事実なのですから)
全体最適などなかなかない中で、ファクトを示すための俯瞰視点や数字の意味一つ一つを分析し、その上でわかりやすい言葉や数値である必要があり、時にはメリットを感じてもらう必要もある。
本書は世の中の仕組みのルールや運用、その流れを実例を通して様々教えてくれます。ルールづくりが群を抜いてうまくなるという本ではないですが、「お前が思っておるその仕事は先人がこれだけ考えても失敗してきたものなので、頑張れよ」という気持ちにさせてくれます(笑)
ルールはケースバイケース、組織にフィットするべきですから、これはとても重要な視点です。
不確実性超入門 田渕 直也
この数年、コロナ、ロックダウン、ロシアウクライナ危機、隣国との緊張関係etcと本当にこれでもかというリスク対応の嵐でした。
ちょっとした風で簡単にヒョロロウ〜と倒れてしまう小さなブランドだからこそ、大袈裟ではなく一つ一つの事象に対するシナリオ設定、確率の読み、そのために出すべき数値、それぞれの選択が中長期的に及ぼす影響、その上でのネクストで発生しうる事象・・・やりすぎだというほどに設定検証し、社内外と共有してきたこの数年でした。
多分来年以降もよりその流れは加速することでしょう。
さて、この本はその名の通りで不確実性というものを題材にした本で、主に株価などのマクロな経済指標を題材にそのランダム性、不確実性、フィードバックループ・・・などについて書いてくれています。
この激動の時期に学んだ「確率の外側のことは起きる」こと、「リスクを忌避するのではなく必要に応じて取ること」についても書かれており、この数年を経験してかなり解像度高く内容を読み解けたことは自信にもなりました。
A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2024
三つにしようと思ったのに絞れなかった・・・
こ、ここまでにします・・・
年末も末に読んだこちら。
我がラグジュアリー・アパレル業界ももちろんアジェンダにあるのですが、そのほかの業界についても重要トレンドのみをシンプルかつ時には専門用語もそのままに書いてくれているのである程度"正しく"認識できる点で大変優れた本だと思いました。
一つ一つのアジェンダについて、内容の濃度は濃くないのですが章末には参考文献も載っており深堀りも可能。コンサルという立場上、近視眼的になりがちな自業界について客観的に書かれている点でも面白いです。
課題に対する対応策などもストレートかつ尖りがあったりもして、表やグラフで示されるわかりやすさもよかった。
あらやる業種は繋がっています。運送、小売、エネルギー、エンタメ、サプライチェーン…
ランダムな事象と不確実な未来のためにも、なにかが起きた時にすぐ把握するために、社会のマップを縦割りではなく、関係し合う他業界として認識し、そのトレンドを頭の片隅の引っ張り出せるところに入れておきたい。
おすすめです。
小説/エッセイ部門
ハイファッション デザイナーインタビュー 文化出版局
今はなきhigh fashion、そこに載ったデザイナーズインタビューが読めるなんと素晴らしい本。
是非ともその時代背景を想像しながら読んでほしい。
マルジェラ、ドリス、ベイリー、ラフ、なぜかリックだけ少なかった気もするけれど彼も・・・今も活躍するデザイナーから舞台を降りた名デザイナーたちまで。
思い悩むことが多いプロダクト作りの中で、向き合い方のヒントや美学を教えてくれる先人たちの言葉がどれほどありがたいか。
ものづくりやデザイナーをしている人はぜひ。
好きなデザイナーのところだけ読むのも全然ありだと思います。
渡りの足跡 梨木 香歩
「西の魔女が死んだ」という本をご存知でしょうか。
私の梨木香歩さんとの出会いは、小学生で読んだこの本でした。
私の人生観に大きな影響を与えてくれた作家さんの一人で、それはもうオタク状態で梨木さんの本はほとんど読んでいます。
何よりも私が大好きなのは、その豊かな自然の表現、その直向きさ。良きも悪いも二分できない人間らしさとその美しさ。
この本は「鳥たちの渡り」を題材にしたネイチャーライティングの一つ。並々ならぬ精力的な取材にも頭がさがる。しかし淡々と分析を書き連ねるのではなく、梨木さんのフィルターを通した世界は鳥たちの壮大な冒険をより情緒的に、幾分も魅力的に心に刺さる。研究者の人々や、知床、諏訪湖、カムチャッカまで足を運び現地に住む人々に取材を行ったその軌跡も素晴らしい。
"知る""知りたい"と思えばここまで行動を起こし、人とのつながりを得て世界を広げていける。
一万キロを無着陸で飛び続けることもある「渡り」についての冒険を、語らぬ鳥たちの代わりに梨木さんが伝えてくれる。
雪と珊瑚と 梨木 香歩
「大好きじゃん」って思いますよね、はい〜、大好きです。
今年は他にも4冊、梨木さんの本を読みました。
山小屋をお持ちだと聞いて憧れてもいます、もう弟子になりたい・・・。
基本的に梨木さんの作品は、人の根幹に触れながら心が暖かくなる作品が多く、そこにお人柄を感じる。語り出すとオタクは早口になり止まらない。本題に移ろう。
追い詰められた訳ありシングルマザーの珊瑚が出会った女性や周囲とかかわりながら、食べること、生きることや信仰について世界を広げてカフェの開業を目指すお話です。
カフェの開業話といえばそうなんです。
ただそれは、"普通ではない"と世間では言われるけれど"ありふれている"主人公の人生を今、梨木さんが書くことに意味があるんだろうと思いました。
個人的な話で恐縮ですが、私自身もあまり類を見ない機能不全と言える家族の中で育ったので、"普通ではない"ということを嫌でも認識させられるシーンは社会にいて何度もあります。
でもそれでいいのだと言ってくれるのが、むしろそれが普通だと、誰しもがそうだと言ってくれるのが梨木さんのお話なのです。
そして主人公の人生背景ゆえのその"頑なさ"みたいなものの表現も見事で、そうそうそうなるよね、とわかるなあとしみじみするものでした。
墨のゆらめき 三浦 しをん
みなさま、映画化もされた「舟を編む」は記憶に新しいのではないでしょうか。あれも大変良かった、大好きな作品です。
今回の題材は、書道です。
しをんワールドでどっぷりと言葉の面白さに魅せられた舟を編むにつづき、今度は文字の世界に引き込んでくれます。
主人公の続力は老舗ホテルの従業員で、招待状の筆耕を頼むために書家の遠田に出会うのですがそれをやる代わりにさまざま手伝いをさせられる中で友人ともなんとも言えない少し特殊な関係を帯びていきます。
すばらしい書を書く遠田、それを受けて続の感覚の鋭さや感受性の豊かさ、語句の選択ひとつひとつが、その遠田の書を生き生きとさせていく様がすばらしいのです。一つの文字という伝達ツールに、"文字の雰囲気"というもので見る人に伝える何かがあるというのは面白い。私自身も書道はやっていましたが、本当にキャラクターが出るんですよね。墨は人をごまかせない。
三浦しをんさんといえば、クスッと笑える掛け合いが散りばめられている明るさも読みやすいポイントでしっとりしやすい日本の小説に小気味良さを添えてくれます。本当に読みやすいのでこれも数時間コース、是非読んでみてほしい。
さて、この辺にしておきます。
今年もたくさん読みたい本が(私の雑多な部屋に)積まれていて今から楽しみな(片付けなきゃな…)2024年。
テレビやSNSには多くの情報が飛び交っています。心をおだやかに過ごすためにも画面ではなくぜひ、書籍を手に取ってみるのもいいかもしれません。わたしのこれもSNSではあるのですが。
ぜひみなさまのおすすめ本も教えてください!
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