リアルな話
リアルだけを追い求めて編んでいた時期がある。
そのリアル作品、最後となったのがオラン。
オランウータンの研究者とお目にかかる機会があって。
その時「本物の毛色ってこんな色じゃないのよね」と、オランを見た瞬間言われたことがきっかけで、すっぱり辞めた。
あの言葉を投げかけられた時は、脳天ぶん殴られたくらいショックを受けた。
(もちろん悪気があっての発言ではなかったのだけど)
だってあんなに動画をこま送りしたり、図鑑を細部まで見たり、とことんリアルだけを追求して編んだけど、毛色はどうしようもない…。
(それでも本物の色にできる限り近い毛糸を探して使っているのよ)
でも同時にハッとさせられたのだ。
今となっては良いきっかけをいただいたな、と心底ありがたく思う。
あの一言をもらわなければ、今の私はない。
(ピンクの毛糸でワニを編むこともなかっただろう)
ジャンルは違えど、写真みたいに見える絵や、本物そっくりの食品サンプル、そういう物に価値や魅力を感じる人もいる。
(ちなみに私も好き)
作り手もお客様も、価値観は人それぞれ。
今では、本物に敵う作品は編めない、リアルに勝るものはないと思っているので、その舞台で競わない、そのリングで闘わない。
私は私の作品を編んで、自分の舞台やリングで己と競い闘う。
例えば80%リアルで、残り20%にその個体のキャラや個性を入れる。
その配分はその時々で違ってくる。
「リアル」というものだけに頼りきらず、独自の世界を作品に落とし込むこと。
【あみぐるみ作家 光恵の掟】
完全にリアルに寄せない。
余白に個性を宿すこと。
☝この掟は、いつか変わるかもしれない。変化し続けているから。
追伸
リアルだけを追い求めていたことに、後悔は一切ない。
費やした時間も無駄だとはまったく思わない。
何かにとことんこだわっている時って凄いパワーが必要で。
情熱的でエネルギッシュだ。
その時にしか学べない、吸収できない、ってことがある。
得た知恵や知識、技術は今も役立っている。
この道は、何ごとにおいても失敗はない。
そう思うマインドと、それを次に活かす努力、活かそうとする行動力、そして活かせるよう技術を磨き続ける。
後に必ず自分の武器となる。
追記
「らしさ」の匙加減、という素敵な言葉をいただきました。
堀井さん、ありがとうございます。