影絵
「公園で影絵のショーをやるんだって!」
日がかげりはじめた刻に、ふさふさしっぽのいぬのカイくんはぴょんぴょん跳ねながら言いました。
こぐまのルディくんはそれは面白そうだと思い、カイくんと一緒に公園へ向かいました。
公園ではアライグマさんがせっせと舞台の準備をしていました。
黒いテーブルの上に3mほどの長さの白い幕を張り、アライグマさんは周囲を見回すとにっこり笑いました。
集まった観衆は公園にいくつか置かれた座布団に座ったり、立ち見をしてみたり、各々すきなようにそこに居ました。
カイくんとルディくんは一番前の座布団の上に座りました。
日が完全に沈むと、それはゆっくりと始まりました。
ぱっと白い幕が明るくなると、真ん中になにやら布団のシーツをかぶったような小さな生き物がいます。
「ぼくは、ここが昼なのか夜なのかも分からない。」
その生き物は言いました。
生き物の上には白黒の星空が広がったり、少し経つと穏やかな顔の太陽や雲が浮かび上がったりました。
「ぼくはこうじゃないとこわいんだ。昼だろうと夜だろうと、こうやって暗闇の中にいないと。」
すると、少しずつ舞台の裏から白い煙が広がっていきます。
「この暗闇が僕を守ってくれる唯一のものなんだ。」
もくもくと広がっていく煙は、彼らをのみこみそうでした。
そしてそれと同時に何やら音楽が聴こえてきます。
最初は遠かったそれは、少しずつ大きく近づいて来るようでした。
「なんだ、なんなんだ、何かが近づいてくるぞ!」
シーツの中で生き物は震えているようでした。
徐々に近づいて来るその音楽はトランペットなどの金管楽器や、小太鼓の音が奏でているようでした。
観衆はみな自然とまぶたを閉じていました。そうしているほうが何故かその音楽がよく聴き取れる気がしたからです。
「ぼくらはみんな目をつむっている。そうじゃないとこわいから。僕らはみんな影絵の中。まぶたの裏でそれは演じられている。」
「でも君が見ているその影絵はこの世界のほんの一部。まぶたの暗幕を開かないと全部は見えない。きっと本当はそれだけじゃないんだ。」
観衆が目を開けると、知らぬ間に音楽は過ぎ去り煙は消えていたようです。
そこにはぴんと張られた真っ白な布と、ぽつんと立っているシーツの生き物だけでした。
するすると生き物を覆っていたシーツは落ちていき、それを待っていたかのように2つの大きなかわいい目があらわれました。
「あ、この方がよく見える!」
子フクロウは嬉しそうにその場でぴょんぴょん跳ねると、舞台にあらわれた木々の中へ飛び去って行きました。
ぼくらはみんな影絵の中。
まぶたを閉じるか開くかはぼくら次第。
カイくんとルディくんは、本当に愛しいものをみた気がして、手を繋いでそれぞれのお家へ帰りました。
近くの森で子供の帰りを喜んだフクロウが鳴いているようでした。