アイヒェンドルフ「あこがれ」(ドイツ詩100選を訳してみる 9)
「月夜」(Mondnacht)に続いてアイヒェンドルフの詩の翻訳第2弾。想像の中のイタリアを歌っている詩だという。
Sehnsucht
Es schienen so golden die Sterne,
Am Fenster ich einsam stand
Und hörte aus weiter Ferne
Ein Posthorn im stillen Land.
Das Herz mir im Leib entbrennte,
Da hab' ich mir heimlich gedacht:
Ach wer da mitreisen könnte
In der prächtigen Sommernacht!
Zwei junge Gesellen gingen
Vorüber am Bergeshang,
Ich hörte im Wandern sie singen
Die stille Gegend entlang:
Von schwindelnden Felsenschlüften,
Wo die Wälder rauschen so sacht,
Von Quellen, die von den Klüften
Sich stürzen in die Waldesnacht.
Sie sangen von Marmorbildern,
Von Gärten, die über'm Gestein
In dämmernden Lauben verwildern,
Palästen im Mondenschein,
Wo die Mädchen am Fenster lauschen,
Wann der Lauten Klang erwacht,
Und die Brunnen verschlafen rauschen
In der prächtigen Sommernacht. -
金色に星がきらめいていた。
わたしがさびしく窓辺に立っていると
静けさのなか はるか遠くで
郵便馬車のらっぱが鳴り響いた。
わたしの心は燃え上がり
わたしはひそかに思うのだった、
ああ こんなすばらしい夏の夜
誰かと旅に出られたらいいのに と。
二人の若い職人が
山の斜面を通り過ぎていった、
二人は静かな山道を歩きながら
歌を歌っていた、
目くらむほど切り立った谷で
やさしくささやく木々のこと、
岩の割れ目から噴き出して
森の暗闇へ飛び込むわき水のことを。
二人は歌っていた、大理石像のこと、
岩の上の荒れ果てた庭園と
ほの暗いあずま屋のこと、
そして 月明かりに照らされた宮殿で
娘らがリュートの音色に目を覚まして
窓辺で耳をすましている
噴水がまどろみながらさざめいている
そんなすばらしい夏の夜のことを。――
(檜山哲彦・富士川英郎の訳を参考にした。)
アイヒェンドルフはシューマンたちの歌曲でおなじみの、ドイツ・ロマン主義を代表する詩人で、シンプルな言葉をくりかえし使うところなんかはぼくの好きな立原道造に似ているけれど、その世界観は思いのほか親しみにくいかもしれない、と思った。
*
この詩は著名な作曲家には取り上げられていないが、ユスティス・ヴィルヘルム・リューラ(1822-1882)というひとによる素朴な歌がある。楽譜はこちら。
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