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音信不通亭日記5 球根の誘惑

十一月二十三日(火)
福岡から戻る。ほんの数日空けていただけだが、幼苗たちが見違えるほど成長している。また、北側の軒先に置いていた去年の球根を入れた紙袋が雨で濡れなかったか気がかりだったが、これも無事でほっとした。福岡では親から球根を貰ってしまった。ミニスイセンのテータテートとクロッカス。しかもナフコの(そして値引き前に買った)やつ……。ぐぬう……。こんなルートで入手したかったわけではないのに……。植え付けのリミットが近いこの二つを選び、もっと持って行けばと言われたのを固辞したのはせめてものプライド。そして母が友達から貰ったというパンジー苗も押し付けられる。これもまたもっと持って行けと言うところ四つで手を打ったが、いとも簡単に崩してくるよね、こちらの頭ももう何か月も占め続けている問題の前提をね……。しかし、貰った相手も処分に困るほど種からいっぱい苗を作る、これが私のやりたかったことだ。一体どうやったのか、退職後は毎日庭仕事で過ごしている母の友達という人に話を聞いてみたい。種は同じサカタのを使っているようだが。それにしても今の私と関心を共有できるのは大体がその年代の人だろうと思う。

十一月二十四日(水)
もうそういう方針だと理解はしているが(それでもそのふてぶてしさには驚きを禁じ得ないが)ナフコ、未だ値引きなし! 天晴だ。ナフコの球根担当に切れ者上司が配属されたか何かですか。分かりました。待ちましょう、十二月を。とは言え、掘り上げて保管しておいた去年の球根も実は結構ある。何となく分かってはいたが、私の悪い癖で、昨日濡れなかったか確かめるまで、紙袋の中身には目を向けていなかった。二年目の球根の生命力がどのようなものか定かではなく、小球根の類はどれが何やら分からなくなっているが、この調子で球根球根言っていると持て余してしまいそうだ。だがそれにしても、そうした現実的な問題を上回る球根の物体としての魅力よ。ポテンシャルの塊という点においては毛糸玉の魅力とも重なる。埋もれて暮らしたいくらいだ。完全に憑りつかれている。英語だとバルブというのも素っ気なくていい。とりあえず水栽培用にクロッカスは二個冷蔵庫へ。

十一月二十六日(木)
土、苗共に準備が整ってきたので植え付けを進める。空地の壁際とカーポートにネモフィラ定植。条件は良くないが、去年の経験からかなり強健だということは分かっているので頑張ってほしい。ついでに去年の球根の中から微妙な感じのチューリップも何個か一緒に埋める。それにしてもやはり苗が多い。幼苗たちはともかく、ビジョナデシコ二十、ストック十五、ワスレナグサ二十は花壇に植えるつもりでいるが、そんな場所があるだろうか。いや、「あるだろうか」じゃなくてさすがにそんな場所はないのだが、なぜか「あるだろうか」程度のふんわりした目算しか立てられない自分は何なのか。こと園芸に関してはどうして冷静に計画が立てられないのか。不思議だ。そして去年の球根たちを表の庭の木の下などに適当に埋めていく。あんなに土作りだの何だのと言っていたくせに、思いつきと勢いだけで関係ないところにもぽいぽい植えていく自分がやはりよく分からない。図書館で借りてきた『趣味の園芸』のパンビオの記事を読む。うっすら耳にしてはいたが、パンビオ育苗の一大中心地がここ宮崎らしい。ということはやはり種からよく育つということなのだよなあ。うーむ。

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