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音信不通亭日記3 計算問題

十一月六日(土)
パンビオ、卵パック二つに遅れて蒔いた分も発芽。何とか頑張ってほしい。十日ほど前にやはり駄目元で蒔き直したチロリアンデイジーもぽつぽつ発芽している。ただその時はよほど自棄を起こしていて、生育の可能性を信じるより種まき用土をケチる気持ちの方が勝ったのか、佃煮のパックか何かに種を蒔いてしまっていた。この入れ物じゃいくらなんでも薄すぎるよ。馬鹿かよ。なんでこんなに中途半端なことをしてしまったのか。これ以上の成育を考えるなら移植すべきだが、もっと大きくなるまで待つべきか、それとももう今のうちにやってしまうか。しかしどのみち極小苗だから黒ポットには早すぎる。スプーンでこそげとって卵パック組の空いているところにそっと乗せるか? そんなことでうまく行くだろうか? ああつくづく悔やまれる。佃煮のパックってあんた。それにしても幼苗の移植は難しい。今シーズンの失敗率が高すぎる。土のせいとか、水やりのせいとか、いろいろ原因はあるのだろうが、春蒔きでは概ねうまく行ったことを考えると、やはり気温や日差しのせいということになるのか。どうにもならん。

十一月九日(火)
もりもり働く。土の寝かせ期間が終わったのでいよいよ定植。だがその前に、花壇との境目をものすごい勢いで侵している芝を処理する。まず広いところを芝刈り機で盛大に刈り、入り込んでいるのは手でバリバリ剥がし、伸びきった襟足みたいな淵は芝バリカンで刈る。何とかこの戦いを制すると、その勢いのままSさん家と空き地の側の花壇の溝掘り、盛り土、レーキでならす。ようやく植え付け。タチアオイ、ヤグルマギク、カリフォルニアポピー、アグロステンマ、キンセンカ。この辺の苗は勝手に育ったのであまり思い入れはない。親というより校長先生ぐらいの気持ちで巣立ちを見送る。去年の反省を踏まえ、株間は十分に余裕を持たせる。が、ようやく仕事を終えたその時、ふと我に返る。パンビオ、クリサン等、チビたちを植える場所は……? 水は足りているか、寒くはないかと朝な夕なに心を配っている幼苗たち、全部がうまくいけば軽く六十個は育つはずだが……? 薄々思っていた。私は計算ができない。

十一月十日(水)
再びナフコの球根コーナーへ。未だ値引きをしていない。全く弱みを見せないその態度を前にして、一瞬「一個か二個くらい、もう買っちゃおうか……」と心が揺れるが、いいや、ここで負けてはいけない。私は去年の投げ売りを忘れてはいない。見たところまだたくさん売れ残っているし、その時は必ずやって来るはずだ。しかし、もう十一月も半ばだ。もうこの時期には安くなっていた気もする。もしかして去年を反省した? それとも私を試している? いずれにせよいい根性だナフコ。私にも引く気はない。それにしてもこの街でこんなに球根(の値引き)のことを考えている人は私しかいないと思う。帰ってから去年植えたものの見回り。クチナシの近くのムスカリだったかハナニラだったか発芽している。シャクナゲのところの芽はハナニラだと思うが、あそこはモグラの巣窟だから生き延びられるか。ガーベラは汚いので片付けるつもりだったが、「枯れてるように見えても生きてる!」というネットの人の貴重なレポートを見つける。確かに枯葉を整理したら下の方は生きていた。それからオステオスペルマム、オキシペタラム、ついでにカレンソウも切り戻す。

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