映画『ディア・ファミリー』感想・登場人物を深堀り
大泉洋主演『ディア・ファミリー』が本日公開。
心臓疾患の娘のために自分で人工心臓をつくろうとした町工場の社長と、その家族の物語。
完成披露試写会で一足先に作品を観賞したのですが、
ハンカチがびしょびしょになるほど涙が出るシーンが沢山あり、
今も映画を思い出すとこみあげてくるものがあります。
そんな作品の魅力を私なりにまとめました。
※ストーリーの核心には触れないようにしますが、ネタバレがあるのでご注意ください。
登場人物の描写が良い
この映画、人として素晴らしい登場人物が多すぎるので深堀りします。
鋼のメンタルの主人公・坪井宣政(大泉洋)
町工場の社長で3姉妹の父。行動力と何かにのめり込んだ時の集中力がすごい。
娘のために努力もお金も惜しまず、何度も立ち上がる。
失敗しても諦めない。
あることに失敗してもその経験を次に活かそうとする。
その熱量に惹かれた人たちを巻き込む力もすごい。
家族への想いも強い。
一見仕事人間だし、研究に没頭し全国を走り回る姿は家族をないがしろにしているようにも思えるけれど、
普段コミカルでどんな場も自分ワールドに周りを引き込んでしまう大泉洋さんだからこそ、魅力的な人物像として映ったのでは、と思います。
真の大黒柱は妻・陽子(菅野美穂)
夫の仕事を支え、突拍子のない夫のアイディアを全面的に肯定する陽子さんが、この家族の精神的支えなのでは、と思います。
普段から穏やかでお茶目な陽子も娘の病状や研究の失敗によく涙しますが、
不思議と涙している菅野美穂さんの姿より、夫を奮い立たせ、自らも出来ることを考えどんどんアイディアを出す快活な姿が記憶に残っています。
陽子さんがいなければ成功もなく、家族も崩壊していたのでは、と思いました。
菅野美穂さんの、決して感情任せにせず、まっすぐ相手の目を見て気持ちを語る姿が印象的でした。
闘病していても悲壮感のない次女・佳美(福本莉子)
病を抱え誰よりも泣きたいのは自分のはずなのに、いつも笑顔の次女・佳美。
自分でできることは自分でやる、家族のためにできることはする、弱みを滅多に見せない佳美の人柄が素晴らしいし、
「私の命は、もう、大丈夫だから」という言葉が言える強さがすごい。
いつも穏やかな笑顔で周りを明るくする福本莉子さんの演技が印象的でした。
陰でしっかり家族を支える長女・奈美(川栄李奈)とどこまでも真っすぐな末っ子・寿美(新井美羽)
この二人、次女・佳美のために奔走する両親を見て、よくグレなかったな、と思います。笑
思春期なんて特に、自分が優先されなかったり、誰かが優遇されたりすることに苛立ってしまうものですが、
この二人は物分かりが良すぎるし、次女・佳美のことが好きすぎる。
自分も何かの役に立ちたいと思い、しっかり者の奈美が台所で一人涙を流すシーンの川栄李奈さんの演技はさすがだったし、
姉を頼る甘えん坊な寿美がみんなの前で大声で泣くシーンの新井美羽さんも、誰よりも素直で末っ子らしく、素晴らしかったです。
偏屈なようで患者思いの医師・富岡進(松村北斗)
研究に意欲的でないように見えた富岡ですが、実は誰よりも患者や患者の未来を思う気持ちが強かったのが富岡先生。
本気で取り組みながらも、度重なる試験や治験に先が見えなくなったり、その先に見える具体的な患者がいないからこそ、焦りはなくなったりすることも多いのだと思います。
そんな中、誰よりも患者目線に近い坪井に手を差し伸べる富岡先生の行動は素晴らしい。
松村さんの、序盤の研究に身が入っていないように見える冷めた様子から、自分の熱量を声や表情に乗せ始める感情の変化が印象的でした。
特に教授室のシーンは、闇雲に感情を声に乗せずに自分の意志の強さを訴えるシーンは涙しました。
エンドロールのMrs.GREEN APPLE『Dear』で余韻に浸ってほしい
エンディングの曲がまた涙を誘います。
ヴァイオリンのピチカートのような何かを予感させるイントロから始まり、
映画を観たからこそ刺さる、
「左胸の鼓動を感じてる」
「涙も枯れてしまう哀しみを食らう日もある」
「時代は変わっていく」
そしてとどめの、
「さぁ次は何処へ行こうか」
という言葉。
映画のために書き下ろされた楽曲なだけあり、各シーンが思い浮かぶようでした。
是非、じっくり歌詞に耳を傾けて余韻に浸ってほしいです。
「人の命が尽きていく」お涙頂戴の物語でも、成功物語でもない
登場人物の熱量や涙に誘われ、私も沢山涙を流しながら観賞しましたが、観終わった後に悲しみや重い気持ちが残らない、不思議な感覚がありました。
それはきっと、この映画が病にフォーカスしている訳でも、IABPバルーンカテーテルの誕生にフォーカスしている訳でもないから。
辛さ、悲しみを抱え、乗り越えながら誰かのために一生懸命になった家族の物語であり、
その登場人物の気持ちに寄り添ったストーリーだからこそ、
誰かのためになることをしたい、家族に優しくしたいと思える映画になったのだと思います。
きっと、ずっと記憶に残る、自分の財産になるような素敵な映画です。
関連リンク:
公式ウェブサイト:https://dear-family.toho.co.jp/