【詩】半自動筆記に因る夜想曲(6)-2:『メリュジーヌ』-2
『…ええ、そうですの。人生なんて所詮紙風船の様に儚いもので御座いましょう?ですから、私は、この愛しい良人と永遠に愛を語らい、育み続けられる場所を、此世に望みますわ。そう、聖地。私達は、愛の名の基に、行き着くべき先を求めて彷徨う、巡礼者其の者だと、申し上げられます。』
腰から下が長い長い蛇の姿をした妖女は、
腕の中で既に息絶え、無残にも乾き切った骸を晒して居る、
己が伴侶を愛惜しみつつ、其の白い手で撫で回しながらそう言った。
私は思った。彼女は一体、事の重大さをどの程度理解して居るのだろうか?
私の主観から語るのは究め付きに愚かな事だが、
蛇女が大事そうに抱えて居る戀人はもう此世の者に在らず、
其の生命の欠片すらも残されては、居ないと云うのに?
言うべきか言わざるべきかの中、彼女は相変わらず、愛撫を続けて居た。
『…お伺いしたい事が…』
迷いの果て、私は妖女に、先の見解と、更に、
私が如何にして状況を伝えようとも、世人は納得せず、其の上貴女を致命的な事この上無い遣り方で、心の底から疵付ける以外の事はしないと、断言した。
沈黙が訪れた。其れも、悲痛以外の何物をも表わさない、沈黙が。
やがて蛇女は、嘗て船乗りだったと云う、其の良人と伴に、渚から沖へ、丁度波のうねるが如く、去って行った。
<続>