マガジンのカバー画像

My favorite(お気に入り)

30
どこかに埋もれて見つけられなくなってしまうと悲しいから自分の本棚に飾っておきたい。そんな記事を集めた、自分満足用のマガジンです。
運営しているクリエイター

#ショートショート

短編小説|しろくろのあめだま

ころころころ あめちゃんね、とってもとってもおいしいの。 ずーっとなめてるの。ぜんぜんきえないの。 ほんとはママのだけど、ねてるときにとっちゃった。がまんできなくてとっちゃった。だっておなかがへってたの。わるいこでごめんなさい。かってになめてごめんなさい。 ころころころ もういっこなめたいの。まだねてたからとっちゃった。もういっこもとっちゃった。わるいこでごめんなさい。ふたつもなめてごめんなさい。 ころころころ ころころころ あめちゃんふたつでおくちがぱんぱん。わ

短編小説|真夜中のプール

 呼び鈴が鳴って目を覚ました。玄関の扉を開けると親友が立っていて、今から学校に行こうと言う。真夜中だけど気分が乗ったので、靴箱の奥からスニーカーを引っ張り出した。  校舎の屋上にあるプールに忍び込んだ。鏡みたいな水面に満月が輝いている。とても月が近い夜だ。彼がプールに飛び込むと、割れるみたいにそれは弾けた。せっかくなので後に続いてみる。  勢いよく飛び込むと、気泡が目の前を覆った。その1つ1つが鮮やかに色を宿し、2人のかけがえのない思い出を描いている。きっかけは席が隣にな

毎日超短話13「アパート」

私の記憶では、その角を曲がると小さなアパートがあるはずだった。 だけどその角を曲がってあったのは、花畑だった。 私の頭の中ではまだアパートが浮かんでいて、そこで過ごした日々が巡っている。 はじめての一人暮らし、彼との出会い、別れ、たくさんの夢を見て、たくさんの夢から醒めた場所。 「きれいだね」 幼い息子が私に言って、繋いだ手をぎゅっとする。 「うん、きれいだね。行こうか」 私たちは、歩き出した。

ショートショート【しりとり発電】

「んー、り、り、り、リピート」 「永久(とわ)」 「わ、わ、輪っか」 「回転ドア」 「あ、あ、朝!」 「再読」 「繰り返し!」  しりとりはそんな風に、僕の部屋でいつまでだって続いていく。くだらないことだと思うかもしれないが、今や僕の部屋にあるテレビも冷蔵庫もエアコンだって全部、このしりとりによって動いているのだ。  沢山の物でひしめき合うような僕の部屋の中でも、ひときわ異彩を放つその巨大な機械。今や僕の生活に欠かすことの出来なくなったそれは、「しりとり発電機」なる不思議な代

短編小説|蟻の味

 私が幼い頃、母は蟻に食われた。私の好物だった都こんぶを買いに出掛けた帰り道、軍隊蟻の大群に襲われて巣穴に引きずり込まれたらしい。実際にその場面を見たわけではないし、今思えば葬式を挙げてもいなかったけれど、度数高めの缶チューハイを片手に涙を流す父にそう聞かされ、幼い私は鵜呑みにした。以来、大人になった今も蟻を食べるのを止められない。  地面に蟻を見つけたら反射的にしゃがみ込み、つまんで口に入れてしまう。噛めば口いっぱいに広がる酸味。べつに美味しいわけではないが、ついつい食べ