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キューブリックブログへ、ようこそ

タルコフスキー『惑星ソラリス』や、数年前のクリストファー・ノーランの『インターステラー』など、多くの映画でキューブリック『2001年宇宙の旅』の影響を強く感じる。

SF映画はそれまで、活劇や宇宙人による侵略物が殆どだったが、『2001年宇宙の旅』以後、フィロソフィーや人間の内面を問う内容の映画が多くなる。

テーマだけじゃなく、映像もだ。

映像としての宇宙描写、スターシップのデザインもリアルになった。

子どもの頃に見た東宝のSF映画では、ロケット噴射の煙が宇宙空間に漂っていた。

あの糸吊りロケットと花火も、この映画以降見なくなった。

冒頭のスターシップ描写で驚かされた『スターウォーズ』も『2001年』に帰依しているからこそだ。

SF映画だけではない。

禁断のエロティシズムを描く『ロリータ』はリメイクされたり、ロリータファッションなど現代用語として残り、これからも多くの映画や小説のテーマになり続けるだろう。

『博士の異常な愛情』では水爆にアタフタする米ソの政治家を、そして世界の終焉を、キューブリックは皮肉を込め嘲笑う。

現在のプーチンや北朝鮮、そして米国の行動を予感させる映画だった。

キューブリックはそれまで無かった映画を作り続けた。


そして『シャイニング』。

この映画では、ホラー映画の在り方さえ変えてみせる。

能力者(シャイニング)の少年が幽霊ホテルに巣食う魔物と戦うスティーブン・キングの原作を大きく改編し、父親が魔物に感応していくホラーにする。

そして全編を、まるでアート作品にしている。

美術も凄いが、出色はカメラワーク。

オープニングの長い、まったく揺れない空撮は、まるでドローンで撮った映像の様だった。

この頃はヘリに付けるスタビライザー(安定支持機材)も無かっただろうし、機体の振動しないグライダーでの撮影だったかも。

後年、この時撮った空撮素材を『ブレードランナー』でデッカードとレイチェルが逃げるシーンに提供している。

そのオープニングの揺れないカメラも、クライマックスシーンの伏線にしていた。

ホテルの廊下や、ダニー少年が雪の迷路で追われるシーンでも、当時『ロッキー』の、あの階段を駆け上がるトレーニングシーンで使われたくらいの誰も知らないステディカム(カメラの上下動や歩行による振動を吸収する機材)だった。

俳優への演出にも細かな指導をする。

キューブリックが、ニコルソンの妻役シェリー・デュヴァルを叱責し、孤立させ、追いつめた話は有名だ。

ホラー映画でのスクリーム(叫び・金切り声)女優は、恐怖訴求に大切な要素で、観客の恐怖を代弁する役回り。

緊迫したスクリーム演技が無ければ、ホラーにならない。

その計算をしていたから、シェリー・デュヴァルに辛くあたったのだ。

ニコルソンが斧でドアを叩き割るシーンは100回のテイクがあったらしい。

この映画は、あらゆる映像に隙がない。

スティーブン・キングが、この映画を必要以上に嫌うのは、嫉妬でしかない。

映画のお陰で小説は完売して、何度も重版したでしょうに、キングさん。
目くじら立てちゃダメですって。

キングが意地張って対抗し、監修したテレビドラマ版の『シャイニング』も、その40年後を描いた映画『ドクタースリープ』もひどい駄作だった。

頭髪の薄い小太り男が、あのホテルの廊下を斧を持って歩くシーン。
私は、その男がジャック・ニコルソンの“そっくりさん“だと気付くまで5分掛かった。

呆れて笑ってしまう。

キングさん、裸の王様(キング)とバレてますよ。


キューブリックは、シェークスピアの如く、作品の表情がそれぞれ…云々。
…と、そんな事を書くつもりではないのに、長くなった。


本題のキューブリックブログだ。

私は映像を作る仕事には就いたが、残念ながら映画を作れそうに無い。

だから私は、小説で映画を作ろうとする。

「ピノキオは鏡の国へ」では、キューブリックの、彼の多くの映画で隠されている謎を追う。

私だけが気付き、世界の映画評論家が誰も指摘していない謎がある。

その謎を、キューブリックに聞きたくて小説を書いた。

白状すると、その他のストーリーは、その時点でノープランだった。

でも、その章を書き始めると、おぼろげに何かが見え始める。

『シャイニング』の1シーンを思い出したからだ。

それは「鏡」、衝撃だった。

私は、この小説の結果的に中頃になった「アイズ・ワイド・シャット」の章から書き始めた。(注・この小説は各章の50タイトルを全て、好きな映画の題名にしている。Amazon試し読みで確認してね)

『シャイニング』でダニー少年がドアに書かれている文字を「鏡」を通して見るシーン。

だから『ピノキオは鏡の国へ』というタイトルにした。

その部位を転載する。


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蟻亜三久は、戸惑う。

『どういうこと? 私が、この時代、ここに来なければ「シャイニング」は映画化されなかった? でも私は昔に見たキューブリック映画の記憶を話しただけ。ここは…鏡の中の…別の世界なの?』

さらに映像が蘇る。

映画『シャイニング』の中で、不気味なドアに書かれたREDRUM(赤い羊)という文字が鏡に映り、逆文字MURDER(殺人)と読めるシーン。

そして幽霊ホテルの廊下で、鏡に映ったように左右対称の構図で手をつなぐ双子姉妹。

エレベーターから流れ出る大量の血液。

遺作『アイズ ワイド シャット』で、トム・クルーズが迷い込んだ不思議なマスカレード(仮面舞踏会)や、ニコール・キッドマン扮する妻の名前が『アリス』だったこと。

「おかしい。私が今日、ここに来なければ、キューブリックは『シャイニング』ではない別の映画を作ったかも知れないの?」

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鏡に映った文字、「レッドラム」と「マダー」が逆さまに見えたこと。

この現実と虚像。

そのシーンの記憶で、小説の全体のプロットが見えてきた事を白状する。


このキューブリック邸を訪ねるシーンを書くにあたって、調べなければならない事がいっぱいある。

キューブリックがロンドンのどこに、どんな家に住んで居たのか。

家族構成は。仕事場は。妻のクリスティアーヌはどんな女性なのか。

ヒロインは、いつの時代のキューブリックを訪問するのがベストか。

そして、どういう方法ならキューブリックに面会出来るのか。

などなど。

だから、私は必要な情報をiPadで検索しまくる。

知りたい情報を探しまくる。

そしたら。

何を検索しても、何回も『キューブリックブログ』なるページに行き着く。

「また…キューブリックブログ?」


それは驚くべきブログだった。

パラパラと読み始める。

もう何年もキューブリックネタだけでブログを書き続ける人がいた。

私よりキューブリックを知ってる人…。

と言うより、キューブリック研究者。

ブログによる広告収入とか、そんなのが見込めるらしい事は知ってはいたが。

「それにしても、何年もキューブリックに固執した情報量は、凄すぎる」

ウィキペディアより遥かに詳しい。

wikiと違うのは、すべてがブログ作者の視点で書かれていること。

文章も上手だ。

ブログを読んでいて、思い付いた事。

「この小説が出来上がったら、このブログ氏に献本しよう」

「たぶん喜んで読んでくれるかも…」

歌謡グループ「純烈」ファンのおばちゃんが、コンサート会場で、同じ団扇を振るおばちゃんに、同志に話し掛ける感覚だったかも知れない。

素性も年齢も知らないブログ氏、彼は最初は驚かれていた。

彼と少しメールでやり取りし、出版社の方から、実本を送って貰った。

すると「キューブリックブログ」に、私の本の写真や読まれた感想など、書いてくれて、紹介してくれる。
最初の読書感想文だった。

キューブリックブログ

https://kubrick.blog.jp/archives/52410392.html

私の本もだが、このキューブリックブログを、英訳してクリスティアーヌ・キューブリックに送ってあげたい。

これを読んだnoteのキューブリックファンの方々、ぜひブログを覗いて欲しい。たぶん誰もが驚く。

実はキューブリックファンにこのブログを紹介したかった。

キューブリックブログへようこそ!




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