津田ゆうじ

津田ゆうじ

最近の記事

時計じかけのトランプ

キューブリックの映画は奇妙なタイトルが多い。 『アイズ・ワイド・シャット』はアイズ・ワイド・オープン(しっかり眼を見開いて)のひねりだから「しっかり眼を閉じて」になるのだろうか。 「結婚する前は、眼を見開いて彼女をよく見なさい。結婚後は薄眼くらいで見るのがちょうど良い」という、ベンジャミン・フランクリンの結婚にまつわる警句を題名にしたらしい。 妻の言葉に、翻弄され妄想するトム・クルーズの映画だった。 そして『Dr.ストレンジラヴ または、私は如何にして心配するのを止め

    • 黒澤チルドレン

      映画の中で、日本とドイツの描かれ方が大きく異なると思った事がある。 戦争を起こし、敗戦した2つの国。 『シンドラーのリスト』『戦場のピアニスト』『ソフィーの選択』などナチスのホロコーストを描く映画や『インディ・ジョーンズ』等の娯楽作品も、ナチは徹頭徹尾、悪役になる。 スティーブン・スピルバーグはユダヤ系だから、ナチの扱いは理解できる。 同じスピルバーグ「太陽の帝国」も第二次大戦の日本軍が描かれるが、上海で暮らす英国少年の憧れは零式戦闘機という設定だった。 悲惨な戦

      • 石原さとみと、シンゴジラ

        「ヱヴァンゲリオン」は子供向けとは言い難い。 主人公14歳の碇シンジに、ハムレットの様なエディプスコンプレックス設定。 「碇」の名は、グズグズした自身への「怒り」なのだろう。 父、碇ゲンドウと、仄かな恋心を抱く綾波レイの楽しげな会話を見つめるシンジ。 相容れぬ父親、どちらに嫉妬しているのか判らない演出は面白かった。 アスカ、ミサトと女性キャラたちが魅力的な作品だ。 庵野秀明は、幾つか実写作品も作っている。 何年か前の夏、私は蒲田駅に降り立ち、打ち合わせ先に向かう

        • 市川準さんの絵コンテと、なぜか戦う私。

          CMプランナー仕事はストレスが多かった。 どんなCMにするか考えて、紙の上に絵コンテを描く。 自分のプランが採用されても撮影や編集、仕上げるのは別の演出家。 別の監督の手で、私のコンテが違うCMになっていくのは、気分が悪い。 監督では無いから、仕方なかった。 CM企画の方法は、人によって特性がある。 替え歌案で商品訴求する人とか、珍しい刺激的な海外の雑誌写真を切り抜いてイメージ訴求する人など。 私は、学生の頃から好きだった『モンティ・パイソン』的なシュールなギャグ

          宇宙人ジョーンズBOSS

          宇宙人ジョーンズBOSS

          宇宙人ジョーンズの悲劇的なCM。

          CMなんか見たくない…と言いながら、気になるCMを探す事がある。 自室のテレビは映像のみで、音は無い。 情報源としてテレビを点けている事は多いのだが、常時ミュート状態。 音声はイヤホンかヘッドホンで、必要な時に聴くぐらい。 CMの音、バラエティの芸人の嬌声など、迷惑極まりない騒音だから。 ニュースもミュートで。 テロップやパネルを見れば、キャスターの声を聞かなくともニュース内容は分かる。 だから気になる無音CMは探すハメになる。 無音テレビで見て、気になっていた宇宙

          宇宙人ジョーンズの悲劇的なCM。

          夏への扉 タイムマシン

          夏への扉 タイムマシン

          夏への扉を開けた日。 ”大林監督、高畑監督からのギフト“

          何年前になるのだろう。 夏の、ある日。 とある映像祭の事務局が、借りている小学校。 廃校になっている学校。 蒲田駅前で、バスを探す。 バスには久しぶりに乗る。 見つけた。 廃校ではあるが青草のグランドでサッカーに興じる子どもたち。 東京でも少子高齢化が進む。 その小学校は、使わなくなった教室を幾つかのNPO法人に貸し出していた。 棚の籠に、それぞれの活動を知らせる為のチラシやカタログが入っている。 夏の陽射しが入る、子どもが使っていただろう階段を上る。 外で鳴く、蝉の

          夏への扉を開けた日。 ”大林監督、高畑監督からのギフト“

          下北沢のジョアンナ・シムカス

          アラン・ドロンが逝ってしまうというのは、なんか感慨深い。 町山智浩さんが、Xに「アラン・ドロンの見るべき映画」20本くらい綴っていた。 トップにあったのが『冒険者たち』だったことが、かなり嬉しい。 私もそうだから。 下北沢は、せいぜい故郷の広島焼きを食べる為に、三茶から茶沢通りを歩いて訪れる位なのだが。 若い頃、佐々木史朗さん(映画プロデュース)の会社にいた女性プロデューサーと仕事した折に下北沢で飲んだ事がある。 その時の会話。 「根岸(吉太郎)も、『冒険者た

          下北沢のジョアンナ・シムカス

          平手友梨奈さん。『ピノキオは鏡の国へ』のヒロインは、あなたです。

          三谷幸喜さんは「当て書き」する脚本家として有名だ。 『スオミの話をしよう』も長澤まさみさんでの「当て書き」と公言されている。 実在の俳優の演技を想像しながら書くと、セリフや動きが読めるから、筆が早く進む。 設定したキャラクターがブレないメリットもある。 私の小説「ピノキオは鏡の国へ」も、実際の役者さんを想定して「あてがき」している。 ヒロイン、謎の美少女蟻亜三久は、平手友梨奈さんをイメージ。 というか、小説を書いてる時、平手さんのドラマ『うちの弁護士は手がかかる』

          平手友梨奈さん。『ピノキオは鏡の国へ』のヒロインは、あなたです。

          「冒険者たち」と「狂った果実」の三角関係。

          中平康という監督がいた。 彼の「狂った果実」という映画がゴダールやトリュフォーに絶賛されたらしく、ヌーヴェルバーグに影響を与えたと言われている。 私は、あまり共通性も感じないが。 ヌーヴェルバーグを、日本では画期的な、革命的な運動だとする傾向にある。 それは何故だろうと、ずっと思っていた。 難解だから、深い意味がある、みたいな誤解。 ゴダール信奉者に喧嘩を売る気は全くないが、分からない=深い。 …とは限らない。 ゴダールも数本見てるが、映画定石を壊した撮り方や繋

          「冒険者たち」と「狂った果実」の三角関係。

          大林宣彦監督の謎の言葉は「メアリーローズ」

          余命宣告を受けておられた大林監督の眼が笑っている。 ひとまわり小さくなられていた。 痩せられて、声も少しかすれていた。 私は、イマジカのロビーで大林監督に問い返した。 「え? なんて仰いました?」と。 「だから『メアリーローズ』ですよ、津田さん。『メアリーローズ』。ヒッチコックが作りたくて作れなかった映画です」 大林さんが、五反田イマジカのロビーで私に言われた、奇妙な言葉。 2017年、大林さんの新作『花筐 ハナガタミ』の試写会に招待された私は、五反田イマジカのロビーに座

          大林宣彦監督の謎の言葉は「メアリーローズ」

          キューブリックに「洗脳」を問う、蟻亜三久。

          マインドコントロールだらけの世界。 教祖の「ポアしかないな」という指示でサリンを作る東大生たち。 洗脳で日本人から金を搾取して、巨大な御殿を建てる韓国の宗教団体。 日本の元首や、国会議員が、教会主催の壇上で、声高く教祖マザーを敬う。 叩かれた国会議員たちは首にもならず、まだ町に笑顔のポスター貼っている。 ブランド服の男たちが「私のように金持ちになれる」と謳う説明会で、「ネズミ講っぽいな」と思いながらサラ金で金を借りる大学生たち。 「いただき少女リリちゃん」は言葉巧みに

          キューブリックに「洗脳」を問う、蟻亜三久。

          8時間のリプリー

          NHKの朝ドラ「虎に翼」は15分番組。 私は殆ど見ない時間帯。 ドラマの毎回の終わり方が、翌日また見たくなる演出をしているらしい。 15分ドラマ、1時間ドラマ、そして映画の2時間など、尺の長さで演出法は変化する。 先日、Netflixの長尺ドラマ『リプリー』を見終わった。 アラン・ドロンの『太陽がいっぱい』と同じパトリシア・ハイスミス原作。 マット・デイモンやジョン・マルコビッチ、主人公リプリーを演じている俳優は多い。 Netflix版『リプリー』は、長尺の8

          8時間のリプリー

          「笑うマトリョーシカ」と、トランプ人形の中で囁く人。

          録画しているドラマ『笑うマトリョーシカ』を見て、つい笑った。 ドラマを分かり易くする為に、100年前の預言者エリック・ヤン・ハヌッセンを登場させる。 ロシアのマトリョーシカ人形は、中に幾つもの別の人形が入っている。 外の顔と、隠れている中の顔。 操られる人格の寓意、そして比喩。 100年前、ハヌッセンはヒトラーを裏で操り、ナチ政党のオカルト省(ホントだよ)の大臣になる筈だった超能力者。 ヒトラーに演説時のボディ・ランゲージ指導までしていた霊媒師。 自らの名を冠したオカ

          「笑うマトリョーシカ」と、トランプ人形の中で囁く人。

          映画プロデュース           佐々木史朗のワンダーランド

          佐々木史朗さんが亡くなった、と書いても「それ誰?」だろう。 今どき、見る映画をプロデューサーで選ぶ人は、ほぼ居ない。 元アート・シアター・ギルド(ATG)の代表、史朗さん。 彼のフィルモグラフィーを見れば、若い映画監督を育てたプロデューサーだった事が分かると思う。 『ナビィの恋』『逆噴射家族』『キツツキと雨』など。 私はフリーランスのCM監督になったばかりの頃、赤坂の映像会社で多く仕事をしていた。 CMや、テレビ番組の制作会社、そして映画のプロダクション。 映像

          映画プロデュース           佐々木史朗のワンダーランド