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宇宙人ジョーンズの悲劇的なCM。


CMなんか見たくない…と言いながら、気になるCMを探す事がある。

自室のテレビは映像のみで、音は無い。
情報源としてテレビを点けている事は多いのだが、常時ミュート状態。
音声はイヤホンかヘッドホンで、必要な時に聴くぐらい。

CMの音、バラエティの芸人の嬌声など、迷惑極まりない騒音だから。

ニュースもミュートで。

テロップやパネルを見れば、キャスターの声を聞かなくともニュース内容は分かる。

だから気になる無音CMは探すハメになる。
無音テレビで見て、気になっていた宇宙人ジョーンズのBOSSの新CM。

つい見てしまう好きなCMシリーズだが、今度の新作にいつものコミカルさが無い。
何故だろう。

話題の女優、あの「不適切…」の河合優実がステージで歌っている。
YouTubeで見つけた。
テレビでは30秒が流れる事が多いが、異例の2分間CMがあり、それは異例の内容だった。

河合がステージで歌ってるのは「なんてったってアイドル」だった。
地味な印象の女優だから、派手な演出なのか。

DJ役の宇宙人ジョーンズが、傍にいる。

幕袖で見つめる冷徹なプロデューサー、役所広司。
高校の同級生、神木隆之介が客席で、沢山のファンとペンライトを振る。

彼女の成功は、神木が動画配信した映像がきっかけだった。

彼女だけが役所広司プロデューサーの目に留まり、アイドルスターに駆け昇る。

休憩中の牛丼店の裏で、アイドルになった河合優実に励ましの電話をする神木。

手の届かない存在になった優実を応援する神木の悲哀。

「言っとくけど、俺、ファン第一号だから…」と。

ベッドの上で、神木の声を聞きながら、静かに泣く河合優実。

その涙は、おそらく訣別の涙。

CMにいつもの笑いは無く、悲劇的内容になっている。

この女優だから、敢えて悲劇にし、長尺120秒にしたのだろうか。

トップアイドルの彼女は、甘さ抑えたクラフト珈琲を飲みながら、隣の宇宙人ジョーンズに「救っちゃおうか、世界を」と吹っ切れたように呟く。
その言葉が物悲しい。
それでも「ほろ苦い結末」は「ほろ苦いクラフト珈琲」の味の訴求になってる。

このレトリック。

サントリーの広告の上手さに、ホントに驚く。
吹っ切れているコンテ。

CM表現ではタブーの、悲劇を描いている。

ほとんどのCMは幸せな風景しか映さない。

可愛い子ども、美しい妻が、パパを迎えに玄関まで走る。

パパの手料理を嬉しそうに食べる娘。

大なり小なり、そんな映像ばかり。

CMは不幸を描かない。
私は関西や北陸だけで流れるmiwaロックのバリアフリー住宅のCMで住み難い家に嫁いだ若妻(水沢蛍)の不幸を描いた事がある。
「家持ち、だから結婚したのに…こんな住みにくい家とは」「この家が悪いのよ!」と家出する若妻。
数年間で10本くらい作ったか。
多く悲劇を描いたが、ネガティヴではなくコミカルな笑いの演出で包んだ。
悲劇は描けない。

だからこのBOSSの新作CMに驚いた。
本当に悲しいCMになっている。
確かに120秒が必要な尺。
異例だけど面白い試みだと思う。

このBOSSシリーズに人気があるのは、キャスティングも上手いから。

以前の水道の水漏れ篇では、家の主人が水漏れ修理の他社CMに長年出ていたタレント(元金メダル体操選手)だった。

それに、クセ強のアイドル平手友梨奈も上手に使っていた。

町興しに悩む役所広司町長と事務員の平手が、クラフト珈琲を手に街へ出る。

公園で、宇宙人ジョーンズの墜落した円盤を発見する。
その円盤が「町興し」に使われる。

実は宇宙人BOSSだった平手友梨奈が、部下ジョーンズを叱る。

「(侵略が)やり難くなった」と。

ブランド化が,ちゃんと出来てるから、商品名の連呼など不要。
役所広司や神木、杉咲花、トミー・リー・ジョーンズが出てくるだけで「BOSS劇場」だと分かる。
こんなに成功してるCMは珍しい。

サントリーの低カロリービールもシリーズ化されている。

歌舞伎役者スキャンダルで、キャスト替え。
現在の堺雅人、山本耕史、奈緒がやたら食べるCMも、よく出来ている。

始まると見る気になる。

サントリーは本当に広告が上手い。
他の商品にも“イズム“が生きている。

「他の企業でも、こんなCMが常時10本でも有れば、もう少しCMは視聴者に見て貰えるのだが…」と思ってしまう。
でもCMの概念が大きく変わってしまったから無理だろう。

もうCMが面白かった時代には戻らない。


多くのCMが面白くないのは、忖度する、或いは忖度させるCMばかりだから。

数億の放送料や、タレントフィーに数千万円のギャラを使う。

膨大な金が掛かるから、15秒に伝えたいこと全部を詰め込むCMにする。
言いたい事全部入れなきゃ、元が取れないと考えてしまう。
5・7・5の俳句に、100文字を入れようとする。
削ぎ落とした表現の美しさなどあり得ない。
速いカット、速い口調。
原稿を読むナレーターの必死の顔まで想像出来る。
一般視聴者が見てくれるわけが無い。

結果、うるさいからし、誰もが眼を背ける。
画面から眼を外す。
そしてトイレに立つ。
企業は膨大な制作費を無駄にしている。
制作サイドも分かっているが、そう求められるから、そうするしか無い。
儲かっているから構わないのだろう。
税金払うより、必要経費として作られるCM。

そんな企業の「独り言CM」を見たい視聴者が居る訳ない。

負の連鎖。お金の無駄。

タレント、演者だけが、高額のギャラに喜ぶ現実。


作り方に無理があるCMの多い事。

言いたい事、全部言う為に、よくある設定は。

ジョブスのプレゼンのスタイルで、タレントが舞台で喋りまくる。
商品やシステムを、壇上やセットで、ずっと喋る。
背景に商品や機能をCG表示。
オーバーに驚く聴衆(エキストラ)のインサート。
15秒に言いたい事項を、全て盛り込む。
インターチェンジや喫茶店で、見知らぬ主婦たちのテーブルに座り込み、損害保険の話をし始める迷惑女優。
意外性の面白さと理由づけしているのだろうが、あり得ない設定。
言いたい事を言う設定を無理やり作る。

私が客なら、警察を呼ぶ。

葬儀屋CMで「さよならが温かい」というCMがあった。
いったい誰に言ってるのだろう?
遺族なのか死期を前にした当人なのか。

CMで「良いお墓を見つけたよ」と、まだ生きてる親に電話する息子はあり得ない。居ないだろうそんな子ども。
視聴者目線を考えず作られるコマーシャル。

企業の偉い方や広報担当の方。
疲れて帰宅。
ご家庭で、茶の間で、他の会社のCMを見ているのだろう。

家に帰ると普通の視聴者になる広報担当者。
「うるさいなー」と自宅のテレビはNHKに固定しているかもしれない。

私のテレビは「ミュート状態」が、これからも続くだろう。















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