
【AIと自然と親子】旬なテーマの盛り合わせ映画『野生の島のロズ』【映画感想文】
はじめに
今回紹介するのは映画『野生の島のロズ』です。
原作は著ピーター・ブラウンの児童書「野生のロボット」シリーズであり、『シュレック』『マダガスカル』などのアニメ映画を手掛けてきたdreamworksにより映画化されました。2024年、海外を中心に公開された本作は、ゴールデン・グローブ賞、アニー賞、アカデミー賞といった名だたる国際映画祭で複数ノミネートされるなど高い評価を受けていた超話題作です。
これが大変面白かった。なので興奮冷めやらぬうちに感想を文章におこしてみようと思います。
作品の内容に触れるためネタバレ注意です。

あらすじ
― 島に漂流したAI搭載のロボット・ROZZUM (ロズ) は、その島の厳しい自然に溶け込もうと工面していたが、不運にもガチョウの巣を破壊してしまう。唯一無事だった卵から孵った雛を育て上げることを自身の仕事と認識したロズは、その雛にキラリと名前をつけ、島の嫌われ者である狐のチャッカリーと共に暮らし始める。そうしてロズは、プログラムに無い自然の摂理や愛情と向き合い、また自らで成長していく……。
生態系の厳しさ
まず児童書原作とは思えない自然の残酷さをかなりストレートに描いてくるなと思いました。目の前でカニが鳥に攫われたり飲み込まれたり。特にオポッサムの親子のシーンは驚きました。7匹いた子供たちが話の途中で襲われ6匹に減る、というあっという間の出来事。しかも、先ほどまでセリフもあった子供が今まさに殺されたにも関わらず、子も親もそんなものだと言わんばかりの平然さ。やたら残酷な描写を入れてくる作品だと感じました。ただ、序盤に自然の厳しさや残酷さをあえて描写することで、作中で描かれる「生きるための努力」がより懸命で美しく感じられるのだと思います。
歪ながら親子
ロズとキラリ、ロボットと鳥という不思議で歪な関係ならではの葛藤が見られる中盤のシーンはかなり涙を誘う感動的なものとなっていました。始めは、雛を育てるという任務のため行動するロズと純粋に親だと思い込みながら慕うキラリという構図でした。まるで初めての子育てに奮闘する親のようでした。
そしてキラリがある程度大きく育った中盤。自分が周囲と異なる環境で育ったのだということを気に掛けるキラリに、ロズは自分が本来の巣を破壊してしまったこと、その際実の親と兄弟も殺してしまったこと、そして仕事の一貫でこれまで育ててきたのだということを打ち明けます。思いのほか早い告白に少々面食らいました。当然キラリはショックを受け、自身のコンプレックスはロズに起因していたのだという事実とこれまで真実をひた隠しにされていたということに憤り反発します。
AIゆえなんと声をかければいいのかわからないロズですが、ガチョウ本来の習性である「渡り」に参加させるため、キラリから反発されながらも飛ぶための訓練を手伝うと決めます。群れのリーダーと話し、練習場を作り、飛行の指導をつけてくれる先生役を探し、自らも体を張って練習に付き合います。ここまでで体は傷だらけになり、左足は失われ義足になっています。しかしボロボロのロズはそれでもキラリの練習に付き合い続け、キラリもまた懸命に努力を重ねていきます。
ロボットと鳥という不自然な関係ながら、ここまでの過程が「親子」そのまんまだなと思いました。慣れないながら苦労し模索して、成長するにつれ子供が悩み反発して、それでも子のためと体を削りながらサポートを続ける。そうして子が親元から巣立ち自立していく。いつの間にか親子を追体験していたことに気づいたとき、私は自分の親のことを思い出して思わず重ねてしまいました。おそらく制作陣もそうだったのではないでしょうか。その後巣立ちからの別れまでを含め、ロズとキラリの不変であり特殊でもある関係性が今作最大の見所ではないかと思います。
都合の良い食物連鎖
一方本作で描かれていた厳しい自然についてはややご都合主義的な面を感じました。終盤厳しい冬を迎えた島の生き物たちを救おうとロズが奮闘するのですが、助けた動物たちが一堂に会したところで「一時休戦」と称し食物連鎖という自然の摂理を停止させます。以降ロズを持ち帰ろうと現れたロボット相手に共闘し、冬の休戦協定は存続し仲良くしていく…という展開になるのですが、これまで自然の厳しさという観点を重要視してきた映画テーマを考えると少しばかり興醒めしてしまうところがありました。
ロボットであったロズが島の自然に影響を与える、いわば置き土産としての意味合いを持っていることはわかるのですが、中盤では共感を誘うリアルな親子のストーリーを見せられたあとというのもあって、一気にフィクションの世界に引き戻されたかのような気分になってしまいました。これまで製作してきた映画でもこのような「生態系の無視」は存在してましたが、作品のテーマからしてそこをファンタジーに終結させてしまって良かったのかな、と個人的には思いました。
まとめ
総合的に見て、かなり面白かったなと思います。やや強引なファンタジー路線での完結ではありましたが、そこに至るまでの過程が特に素晴らしい。児童書らしいキャッチーさを含みながらそこに厳しい現実の要素を織り交ぜていて、不変的テーマの親子とはなにか?、また近代的テーマのAIとはどうあるべきか?といった今の時代だからこそ考えたい内容を兼ね備えた、旬な作品に仕上がったのかなと思いました。原作にはどうやら続編があるらしく、制作会社の傾向からしてもしかしたら続きがあるのかもしれません。もしそうなればすぐにでも劇場に足を運びたい、そう思います。
「野生の島のロズ」 https://eiga.com/l/latZh
映画『野生の島のロズ』の感想・レビュー [7864件] | Filmarks
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