2024秋の遠足
1年ぶりに上京して、ひとり旅をしました。
午前中は、森鴎外記念館へ。鴎外の旧居跡地に建てられた記念館は千駄木の団子坂沿いにあり、とても美しいところでした。
お目当ては、特別展「111枚のはがきの世界―伝えた思い、伝わる魅力」 。明治から昭和の文豪や芸術家の肉筆を見て彼らをもっと身近に感じることができそうだと思い、足を運びました。鴎外のほかに、夏目漱石、南方熊楠、井伏鱒二、田中正造などの差し出したはがきを間近に見ることができました。特に日本ではがきが誕生した明治時代は、電話をかけたりXに書き込んだりするような気軽さで当時の人々が手紙を書いていた様子が伝わってきました。お礼状、激励、相談、旅や近況の報告など、さらりさらりと書いてポストに投函していたようです。
なかには、「×日は都合が悪いから、明日の午後来てくれ」という、電報で伝えたほうがいいのではと心配になるような内容も。「明日」というのが、「書いた日の翌日」なのか「はがきが届いた日の翌日」なのか、はたまた受取人の解釈に任されていたのか、気になってしまいました。
差出人はみな教科書に載っているような名前の知られた人々でしたが、展示されていたはがきはどれも達筆とは言いがたいように思われました。当時、作家の肉筆を読み取って活字にするのはさぞ骨が折れたことだろうと思います。今回の展示で翻字を担当された先生が寄せた言葉にも、「どうしても判断できない文字が残ってしまった」とありました。文豪たちでさえこんなふうに書くこともあったんだと思えば、ククがいま難儀している書き取りの宿題も少々おおらかに見守れるかも?
夕方は、翻訳者の方とご一緒に神保町のシェア型書店PASSAGEとSOLIDAにお邪魔しました。
日中は時間切れで寄ることができず、今回の旅では無理かなと思っていたので、お誘いいただいてうれしかったです。
シェア型書店がどのようなところか聞いてはいましたが、実際に店内に入ると想像以上に棚の持ち主の方々の個性や思いが伝わってきて、「書店に入る、背表紙を眺める、手に取る、開く、購入する」という一連の行動がさらに血の通ったものになる感じがして、おもしろくて楽しいなあと思いました。
いま住んでいる市では、書店の数が間違いなく減っています。わが家の学区には1軒もないし、市内にある数少ないお店も会計とカバーかけをセルフにしているところや、「岩波書店の本は一切置いていないのですべて取り寄せ」と言われてしまうところもあります。その一方で、こんな双方向性を感じさせる書店が存在することが新鮮でした。地元にもこういう書店があるといいな。
日中は、通訳翻訳ジャーナル主催の「出版翻訳者ミーティング」に会場参加しました。このお話はまた後日。