拝啓 工藤あゆみさま: 優しい思いにひたる時間をくれた絵本に。
コロナが流行りはじめてしばらく経ち、
まだ人と会うことがなかなか難しかったころ、
本屋さんに一人よく立ち寄っていました。
人もまばらで広い店内をうろうろ、
書棚を背表紙を見ながら歩き回るうちに、
平置きされていたこの本の表紙が目に止まりました。
なんとなく不思議なポーズのネコ?の絵
ぱらぱらめくるとユーモラスな絵の数々。
イタリア在住の日本人の絵本作家さんが描いた絵本とのことで、
ユーモラスでシュールなものが好きな私は、
早速買って帰りました。
"はかれないものをはかる"
この絵本は大人のための絵本かなと思うのですが、めくるたびに、数えられない、言葉でも表すのが難しいような感情や出来事を ユーモラスな絵とシンプルな言葉で「測」ってゆきます。
「心の扉の強度を測る」
うん、わたし、かなり強度つよめだな。
ひとになかなかこころ開かないもんな。
開いていい人かどうかめちゃ見てから開くタイプだな。
などと、自分と照らし合わせたり。
「積み重ねたいいわけのもろさをはかる」
おなかいたいの、眠いのといった、子どもっぽい言い訳がたくさん連なって、ぐらっぐらで不安定な絵にくすっと笑えたり、
「僕の希望と君の希望との距離を測る」
うーん。ロマンチック。
二匹のネコが手を繋ぎながら星を眺めて風船をつかまえるように別々の星からの紐を握っている絵も、ほほえましくて好きです。
他にも、シンプルに、あ、この絵好き。
とか、この気持ち、いいよなぁ~~などひたれたりするページもあります。
なかでも1番ぐっとくるページがこちら
耳の長ーくなった(うさぎみたいな)ネコの絵と共に
「弱い者の声も聞き取る耳の長さを測る」
これを見たときに、自分が病気でとても苦しかったころ、助けてくださった先生、看護師さん、入院中に辛さを分かち合い、優しく声をかけてくれた他の患者さんたち、そして家族の顔が思い浮かび
たくさんの人に支えてもらったこと、
その人たちのひとつひとつの助けのおかげで今元気でいられていることへ感謝がわきあがり、
それは奇跡だなぁと思える
苦しいときって、うまくその苦しさを口にできなくて、
うずくまって寝てるしかできなかった日も、
副作用に耐えて自分のベットのカーテンから出られなかった日も
先が見えず苦しい日も
自分のふがいなさに涙する日もあり、、、
そんな言葉にならないしんどさを
見守り、支え、待って、言葉をかけて、
絶望の中にいたわたしに少しずつ光をくれた
そんな人たちのことを思い出し、
いつも泣くわけではないけれど
涙がぽろりと流れる日もある
感謝が溢れる
そんな1ページなのです。
人によって大好きなページは違うと思うけれど、
なにか心に響くところがあって
その気持ちにひたりたいとき、
なんとなく立ち止まりたいとき、
手にとってみたくなる
そんな素敵な絵本です。
拝啓 工藤あゆみ様
イタリアからはるばる日本で
あなたの作品を手に取ることができて
この絵本のおかげで
自分の人生で出会えたすてきな人たちに想いをはせる、いい時間をすごせています。
すてきな絵本を、やさしい時間を
ありがとう。