新しい職場で生き残れ!!
「自分に矢印が向いてる時に人は空回りするんです」
講師が言った。
ずっと思ってた事だった。
仕事場では空気を読んで動く能力が求められる。いろんな状況を見て聞いて自分はこの状況で何をすべきなのか判断し行動に移す、それを繰り返す中で出来ることを増やし成長していく。
そうやって体裁を気にする時いつも一つの答えに行き着く。
「それなら何もしないでおこう」
分かっててやらなかったらそれは罪。それは分かる。だから知らぬ存ぜぬでやり過ごそう。そしたら正解を知ってる人が動いてくれる、あとでちゃんとお礼だけは言っておこう。
そう周りの人からは見える。当然。
だけど自分の中ではこう思ってた。
「間違えて迷惑をかけなかったからまだ良かった。恥をかかなくて良かった」と。
そういう考えをしていた時の僕の現実は悲惨だった。まあ当たり前だ。一緒に組んでる先輩、リーダーにはそういう僕のズルい部分も筒抜けだった。やる気も感じられない奴を相手になんかしたくないのは誰だって同じだ。自然職場での口数は減り、日々に気まずい空気が流れる。
異動先はこども園だった。(BL漫画を読んで詩人になった私が異動する経緯を知りたい方はこちらをどうぞ♪)
前の職場も子どもと接する仕事だったが一度に相手にする子どもの数が全く違った。子ども園では常に20~30人の子どもをまとめ、時には個別の声に寄り添わなければならない。その時の状況やその子に必要な能力などから対応を決め、時に優しく時に厳しく子ども達と向き合う。とにかく保育士というのはこんなにもエネルギッシュな人達がやる仕事なのかと衝撃を受けた。
それ自体はとても良いことだった。けど、それとは別でここで僕の人間性の問題が浮き彫りになる。冒頭で分かってもらえたと思うが僕はマジでビビりなのだ、万年朝から晩までへっぴり腰。心だけならまだしも身体もへっぴり腰らしい、そうやってよく言われる。そんな僕がそんなエネルギッシュな人達に混ざって上手くやれるだろうか?
出来るわけないよっ!!
ごめんミサトさん・・・。
だって、何をして良くて何をしたらいけないかも分からないんだよ?
てか分からない前提で教えない普通??ろくに教えもしないのにやらかした時だけコイツヤバみたいな空気出すのやめて??なんでそんな事するん?
ホワイ??
そりゃシンジも切れるって、厳しいって。
みんなに聞きたいんだけどさ、
ね?絶対NOやろ。だって死ぬで?
NOだよな!死ぬもんな!え、YES?見るより飛べ??
What the 〇〇〇〇!!!
でもさぁ!何がいけない事なのか分からないと下手に動けないじゃん?問題起こしたくはないしさ。だから教えられるの待ってたんだよ、そうだよ、悪いかよ!
うん、
悪いよね。
そういうところですよね。
分かってます。そんでさ、自分より少し前を歩いてる人がいるのにその人に「どこらへんを歩きましたか?」って質問をしなかったのは流石に間抜けだったなと思うんだ。ちゃんと聞くべきだった。
「分からないので教えて下さい」って。
最初から聞いておくべきだった。ちゃんと相手に質問することが出来たときに初めて生まれるものがある。それをもっと大事にするべきだった。
それが
相手との会話だ。
会話をするということは相手の反応を予想するということ。それはつまり相手の気持ちを考えるということ。相手の立場になって物事を考えて伝わるように、もう一つ言うなら不快にさせないような言葉選びをして言葉を発する。そしたら相手からも返答が返ってくる。
当たり前のこと。
でもその当たり前が僕は出来なかった。色んなしがらみを自分で作ってたせいで。自分が他人にどう思われるかを気にしすぎたせいで。またこれだ。何度経験すれば学ぶんだ。
間違いに気付いてからもそれを矯正するのは難しかった。その時その時での状況も先生の機嫌も違う。その度に「今じゃなくて良いかも」が付き纏った。
「不正解になりたくない」自分と闘った。
知ってるのと出来るのは全然違う。出来るようになるのは想像してる何倍も難しかった。今でも出来ない時がある。そういう時は決まって後悔をする。けど1年前に比べたらかなり変わったと思う。分からないことをちゃんと声に出して聞くこと。そうやって会話をして、相手ありきで仕事をするように意識をして過ごしてたら今まで見えてなかった事にも目を向けられるようになっていった。そしてリーダーや先輩がやっているある共通点に気付く。
この人達、自分より誰かへの優先度が高いんだってことに。
例えば昼寝の時間、机に向かって連絡帳を書いてるとする。するとトイレから泣き声が聞こえてくる。さっきトイレに行った子どもの声だ。様子を見に行った方がいい。でも連絡帳を書きたい、まあどうせすぐに戻ってくるだろう、その時に話を聞いてあげよう。そうやって心の中で葛藤してるうちに先生達は気付けば部屋から廊下を一直線に通過し子どもの下へ向かっている。自分の作業を中止し、今泣いてる子どもの所へ向かう必要がある事をすぐに判断して行動する。
とにかく切り替えが早いのだ。
運動会や発表会なんかの行事が近づいてくると上司はクラスのことはもちろん、それ以上に園全体のことにアンテナを張って部屋を出てよく手伝いに出ていた。そんなリーダーを見ていた先輩は自分の仕事より上司の仕事やクラスのことを優先してやっていた。
こうやってこの人達はこの職場で生き抜いてきたんだなあと思った。そういう事を見て、学んで、自分のものにしてきたんだなって。だったら僕もそれに倣おうと思った。作業スピードも内容も先生達には敵わないけど今の自分に出来る最大限の事をして少しでも先生達の負担を減らせるように働いた。
時間は流れ、運動会と発表会という二大行事も終わり、やっと少しリーダーと先輩の空気に馴染んでいけるようになった。元々豪快でちょっとやそっとの苦難は笑い飛ばしてやるっていう超強いメンタルをした先生達だ、2~3月なんかは僕の人生史上こんなに笑って過ごしたことはないと思えるくらい先生達との関係も良くなって楽しい時間を過ごすことが出来た。正直、仕事でこんなに笑うことは多分後にも先にももうないだろうってくらい笑った。
当時は自分の頑張りがやっと実を結んだ!と思っていた。もちろんそれもあるとは思う。でも冷静に考えてみると、行事も終わってたし、一年の終わりも見えてきて先生達も気持ち的に楽になってたってのも大きかったのかもなぁとも思う。余裕がなくなるくらい大変なクラスだったし、僕は大変な新人だっただろうし。それでも良い終わり方が出来たんだからそれ以上の事はないよねって。
実は新年度になりまた異動を言い渡された。なので去年とは違う園で働いている。今は運動会も近く慌ただしい空気が流れている。僕はといえば去年の経験が少しは生きてるのかそれなりに馴染む事が出来てる気がしている。リーダーの先生も輪の中に入れてくれて出来るだけ楽しい雰囲気の中で仕事ができるように接してくれている。なので「いい加減にしろ」なんて言われる事がないようにしないとなあって内心ちょっとビビりながらも、今のところ楽しく過ごせている。
ある日、園長からある研修に行ってみないかと勧められた。男性保育士で集まって情報交換しあおう、みたいな会らしい。男性保育士の数は少ない。実際去年も今年も園に男の保育士は僕ひとりだけ。他の園の男性保育士と話せる機会は純粋に欲しいなと思ったし、他にも頑張ってる人がいる事を知れるのは励みになるなとも思ったのですぐに行きたいですと園長に伝えた。
そして研修当日、檀上に立った講師は元々園長の経験や児童養護施設でも施設長を務めた事がある人だった。今は保育士のコーチング指導を行っているらしい。男性保育士の少ない現状とその理由というところから講義は始まり、そこに付き纏う難しさについて各々がどのように感じるかを4〜5人でグループワークを行い、各グループで話した事を発表しあった。最後の発表者がリーダーとの関係があまり上手くいっていない、自分は自分なりに考えて正しいと思った事を言っているのに受け入れてもらえない、という内容だったと思う。その後も何か言っていたと思うがそっちは覚えていない。
発表が終わって発表者から講師がマイクを受け取り「ありがとうございます。」と言ってマイクを持ちながら拍手をする。つられて参加者もまばらに拍手をした。発表が終われば講師が総括をする、そういう流れだった。僕を含め講義に参加してる人みんなが自然と講師に目を向ける。参加者の視線を確認するためチラリと見渡し、充分注目が集まったことを確認し講師は言った。
「自分に矢印が向いてる時に人は空回りするんですよね」
ずっと思ってたことだった。
それこそ僕が躓いてた理由だった。
人に矢印を向けることが出来た時に思いやりが生まれ、噛み合っていなかった歯車が徐々に回るようになる。そういう事を講師は話してくれた。
少しずつ人は変わる。人との関係は変わる。少しずつなら変えていける。
僕も変わっていってる途中。きっとそれは誰もがそう。
凄く当たり前なんだけど、当たり前すぎて忘れてしまうこと。だからこそ大事にしていきたいこと。
その一言は僕の好きな言葉にノミネートされている。講師の先生、素敵な言葉をありがとうございました。
そしてこの言葉を思い出す時に必ず一緒に思い出すことがある。去年一緒に働いたリーダーと先輩のこと。
最後の出勤の日、リーダーからは1年間お疲れって内容の手紙を、先輩からは子どもや先生達との写真で作った色紙をいただいていた。
あの後、車の中で読んで泣きました。今でも時々見返しては勇気もらってます。ほんとにありがとうございます。
そして新しい職場や環境でもがいてるあなた。
一緒にもがこうね、ダサかろうがイタかろうが最後まで立ってる奴が強えんだ。竹原ピストルも言ってるぜ。
カウント10だけは数えないでいような。
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