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読書感想「リアルワールド」桐野夏生 テラウチさんの憂鬱(INFJ?)

私は作家の桐野夏生さんが好きなのですが、中でもこの「リアルワールド」が1番好きかもしれません。「グロテスク」も好きです。
桐野さんの作品って極限状態での人間関係、人間心理がすごく面白い気がします。
でも3日くらい呆然として現実に帰って来られなくなっちゃうので元気な時にしか読めない。

簡単に言えばこの作品は
「ある進学校の男子高校生が母親を殺害し、4人の女子高生がふとしたきっかけから遊び半分で彼の逃走を応援する」
という話なんです。

この話では女子たちの心の闇が丁寧に描かれています。
彼女たちは進路、恋愛、セクシャリティと色々な悩みを抱えているのですが、そのうちの一人テラウチさんの悩みだけがどうも抽象的で深すぎるんですよね。この考え方って少し覚えがある気がして。
以下に抜粋しますね。

「要するに、私は人より難しく考えてしまう人間なんだと思う。だから、家でも学校でもくだらないことばかり言ってふざけている。その理由は簡単だ。どうせ本物の自分を曝け出したところで、誰にも伝わらないって分かっているから(中略)私は並外れて感情的だし、頭がいい、と思う。
断っておくが、私の「頭がいい」というのは、勉強ができることとは違う。抽象的思考ができることだ。(中略)
私はあらゆる人間関係から浮いてる。だから、私は自分を抑えまくる(略)」

(「リアルワールド」桐野夏生 集英社文庫P181)

その辺からテラウチさんの独白になります。
小学生の時から親の言うことを聞いて私立受験をしたので満員電車で学校に通い、痴漢に遭ったりして辛かった、みたいなことが延々と苦悩として語られる。

テラウチさんが今悩んでいることは母親との関係のようですが、そのへんも心境は複雑です。

どうもテラウチさんの母親は不倫をしているらしい。
母が大好きだから許せない部分も黙って受け入れるしかない、でもそんな自分が信じられなくて苦しい、みたいなことが延々語られるんです。

表面的には家庭は円満、高校生活も順調で何も起こっていません。
しかも、他の子から見るとテラウチさんは頭がいい上に外見も可愛いみたいです。でも、彼女はそんなことはどうでもいいし、深く悩んでいる。


高校生の時は分かるような、分からないような? と思いながら読んだ覚えがあるのですが、今になると彼女の苦悩を昔より理解できる気がします。

他の女子3人もすごく魅力的で、桐野さんはなんでこんなに人の気持ちを理解できるのかなーといつも驚きながら読んでいます。
興味がある方にはぜひおすすめです。

最後の1文が切ない。

【追記】
私は仕事柄たまーにかなり重い相談をされることがあるのですが、そういう時に気軽に「分かります」って言っちゃダメなんだな、と思ったりします。

あなたの気持ちは分からない、けど理解したいという姿勢が大事なのかなと考えたり。

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