ときどき日記(32)国鉄在来線特急で車内販売①
夏が来れば思い出す。夏が来なくても、ほんの小さなきっかけで簡単に思い出す。
楽しい思い出しかないアルバイトだった。
国鉄在来線特急の食堂車に帯同して車内販売のアルバイトをした。
えっ? 大学何年生の時だっけ?
こんなに楽しいアルバイトだったのに、何年生の時か思い出せない。
許そう。
乗務したのは、東北本線と奥羽本線だ。
アルバイトはどの列車に乗せてもらうかは不定だったが、社員はおよそ2週間のローテーションで乗務している。
乗せてもらったのは、
上野-青森の特急「はつかり」の1泊2日、
上野-仙台の特急「ひばり」の日帰り、
上野-秋田の特急「つばさ」の1泊2日、
上野-山形の特急「やまばと」1泊2日が2往復、日帰り1往復だった。
一般の方々がよくご存じのワゴンを押して売り歩くのは社員の方の担当で、アルバイトは、トレーに商品を載せて売り歩くのと、お土産品をワゴンに載せて売り歩くのが担当だった。
上野を発つとき、食堂車のスタッフ達と一緒にプラットホーム側に向かって整列し、列車が動き始めたらお辞儀する。何だか格好良かった。
何を売ったか思い出してみる。
上野を発つと、東京のお土産品として「雷おこし」「大江戸菓子」「草加せんべい」をワゴンに積んで売った。
そうこうしていると、食堂車で調製した「カツサンド」ができあがってくるので、それを売り歩く。
今とは時代が違っていたので、大きな声を出して売り歩いた。
お土産品は途中駅からも積み込まれる。郡山では「薄皮まんじゅう」、米沢では「峠の力もち」、仙台では「笹かまぼこ」「長なす漬け」が積み込まれた。
これらの間には、「冷凍パイン」「アイスクリーム」「スコッチウイスキーの水割りセット」を売った。
「スコッチウイスキーの水割りセット」は、スコッチウイスキーのミニボトルとプラスチックカップに入った氷水だ。
食堂車には製氷機が無かったので、上野から積んできた氷の塊をかいてカップに入れた。
最初の頃は、アイスピックの木の部分を握って氷をかいていたので、幾度か手に刺して、流血したこともある。
途中からは社員のお姉さんに教えてもらって、木の所ではなく、金属の部分を持って、勢いがついて、氷が割れてしまっても手には届かない部分を持つようになった。(姉さんたちみんな優しかった)
こうして、いろいろなものを売り歩くが、売り歩く品目が変わるたびに、車内放送するよう指導され、原稿があったわけでもないのにやったものだから、言葉を噛み噛み放送した。
「車内販売よりご案内申し上げます。東京のお土産品といたしまして、雷おこし、大江戸菓子、草加せんべいをお持ちいたします。ご入り用の方は、お気軽にお声がけくださいませ。毎度ありがとうございます」
的な感じで放送したと思う。
「毎度ありがとうございます」は、最後に必ず着けるように躾けられた。(つづく)