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テレビ時代劇─『御用船炎上』【勝手に西村晃映画祭⑩】

池広一夫の作品を観るのはたぶんこれが初めてだった。
筋書きが面白そう、西村晃も出てるし…と軽い気持ちで見始めたら予想以上に面白い復讐劇だったので、感想を残しておく。

©︎三船プロダクション

話はけっこう暗い。
幕府の品々の運搬を請け負う廻船問屋の江戸屋宗右衛門(佐竹明夫)はある日、抜け荷の濡れ衣を着せられた。宗右衛門が奉行所に引っ立てられそうになったところに、水夫の栄次(竹脇無我)が「自分がこの禁制品を船に積み込んだ」と名乗り出る。江戸屋とライバル関係にある大黒屋(待田京介)が奉行所と通じて謀ったと水夫たちは確信していたが、身代わりになった栄次の無罪を晴らす証拠がなかったため、栄次は結局島流しの刑を処せられる。
10年後栄次が江戸に戻ってくると、乙松(尾藤イサオ)と弥吉(西村晃)だけが迎えにきていた。聞けば、栄次が江戸を発ったあと江戸屋はお取り潰しになり、弥吉の娘・おしの(沢田雅美)を娶った栄次を除き皆バラバラになってしまったという──。

江戸屋が時化?をやり過ごす冒頭のシーンでは水夫たち年齢関係なくみんな仲良いんだな〜っていうのを前面に出してるから、江戸屋が事件後受けた仕打ちと栄次が戻ってきてから元水夫たちが受ける仕打ちの冷酷さが際立つ。なんなら、いたぶるシーン自体がけっこう長かった気さえする。

映画館で観ることを想定してる映画とは違い、テレビで放送されるドラマの場合は視聴者の注意を惹きつけたり、途中で見始めた人の関心もとらえる必要がある。
そのためか、あるいは制作上の都合か、この作品は役者たちの顔にクローズアップしたカットが多い。4:3の画面に顔が大きく映るとそれだけで圧が強く感じられるのだが、芸達者揃いなのであまり見飽きない。

なかでも三谷昇の演技はすごくよかった。彼が演じる清吉は江戸屋解散後はアルコール依存症になり、大黒組に酒で釣られて道化者のような振る舞いをしたりするキャラクター。本当は江戸屋解散が悲しいんだけど、自分ではどうしようもなくてからかわれ役に甘んじる弱さが切ない。大黒屋にいる元仲間が殺されるのを目撃するシーンは、三谷昇の表現力が印象的。

あと、尾藤イサオ演じる乙松の軽挙妄動が作戦を狂わせるというのもなんとなく納得いく。幸せで今の生活がうまくいってる分、悲劇的な結末を想像できない残酷さが伝わる。あの結末は乙松への罰を意味するのかもしれない。

ところで時代劇といえば室内やセットが多いイメージだけれど、人間の手が入ってなさそうな海岸線が出てくるのはよかった。ああいう海岸ってまだあるのかな。
あと「おっ」と思ったのは、西村晃のカツラの髷が10年後にはバサバサなところ。伽羅の油で整えてなく、幸せなりにやるせなく生きてきたであろう年月が結髪でも細かく表現されているの、凄くない?

そういえば西村晃に関してはやはりいい声をしていて、作品の方向性を決定づけるのに多少寄与していた。
あと本作では西村晃が綺麗なフォームで平泳ぎしているのを見られる。西村晃とだいたい同世代で福井出身の祖母は海で遠泳をやらされたといってたけど、札幌出身の西村晃も遠泳を習ったんだろうか…などと、ズレたことを思った。西村晃の体の敏捷さや声のよさを感じるにはいい一作である。

こんなまとめ方でいいのかわからないけど、今日はこんなところで。
ごきげんよう!

『御用船炎上』(1982)
フジテレビ・三船プロ製作作品
演出:池広一夫
脚本:村尾昭
製作:高橋速円(フジテレビ)、鍋島壽夫(三船プロ)
撮影:椎塚彰
美術:筒井増男
照明:福富精二
録音:遠藤和生
編集:阿良木佳弘
殺陣:宇仁貫三
技髪:山田屋
装置:三船プロ
出演:竹脇無我、西村晃、尾藤イサオ、沢田雅美、平泉征、三谷昇、佐竹明夫、二宮さよ子、待田京介
アスペクト比:ワイド
91分

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