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【一千文字感想】『ドント・ウォーリー・ダーリン』オリヴィア・ワイルドには期待するが、J. ピールを意識しすぎ


ここ数年で最もチャーミングな青春映画だった『ブックスマート』で監督としての手腕も証明したオリヴィア・ワイルド
そんな彼女が次に手がけたのは理想化された郊外で暮らす“奥さん”たちを描いた『ステップ・フォードの妻たち』のような、『マルホランド・ドライブ』のような作品だ。

砂漠の真ん中にある、まるでリゾート地のような新興住宅街。1950年代風なオールディーズな街並みの中で、家事をこなし、料理を作り、夫の帰りを待つ“献身的な妻たち”が暮らしている。
過剰に保守的、亭主関白に疑問を挟む余地すらない妻たちの姿は男性中心主義社会の中では“理想的”な女性像である。
しかしそこで従順に暮らしている妻にフローレンス・ピューをあてることで、その居心地の悪さが半端じゃない。彼女がこんな社会に従属し続けるとは、とてもじゃないが思えやしないのだ。

当然のことながらピューが演じるアリスはこの世界に疑問を抱き、反旗を翻すこととなる。しかし、そのきっかけは脚本上では弱いように思う。
たがフローレンス・ピューという俳優の持つ肉体性存在感それだけで、この牢獄のような社会から抜け出し、しまいにはここを破壊するに至るだろうことは誰の目にも明らかだ。
言わば、この企画と物語を成立せしめているのは、彼女の存在あってこそとすら思えてくる。

意図としては、フェミニズム的な問題意識から作られたジョーダン・ピール作品のようなところだろうか。基本は「この世界は偽物なのでは?」というフィリップ K. ディックのような構造を持ちつつ、そこに女性への搾取というテーマを混入させていく。『ブックスマート』ではキラキラ輝いていたインスタ的な映える映像が、そのまま痛烈な批判へと姿を変える。
オリヴィア・ワイルド自ら最もその社会に順応している妻を演じ、私生活ではパートナーのハリー・スタイルズに一番最低な男役を演じさせる

黒幕を演じるクリス・パインも良い。いつもの軽さは残しつつ、お膳立てされた男らしさを見事に纏っていた。

とはいえ“墜落した飛行機の件”など、後の展開とは整合性の取れない投げっぱなしの伏線も散見され、ディック的な物語の定めとして真相が明かされてから急速に面白さが減衰してしまう。

結果的にフローレンス・ピューの輝かしさを置いておけば、ジョーダン・ピールっぽい凡庸な作品に落ち着いてしまった気はする。オリヴィア・ワイルドの次作には続けて期待したい。


2022年
アメリカ/121分
オリヴィア・ワイルド監督

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