【一千文字感想・ネタバレ注意】NOPE/ノープ
“未確認”を“確認”させるための戦い
現代のトワイライト・ゾーン的ストーリーテラー、ジョーダン・ピール。その最新作はUFOだ。
しかしピールが単なるUFO映画を作る訳がない。それは名カメラマン、ホイテ・ヴァン・ホイテマを連れてきて、現状最高級のIMAXを使うと聞いて確信に変わった。やはりただのUFO映画じゃないぞと。
シットコムの現場で暴れ回る猿。
映画の起源とされるエドワード・マイブリッジの連続写真。
普通はUFOと結びつかないこれらのイメージが、この作品が語らんとすることを象徴しているように思う。
ハリウッドの西部劇黄金時代に、黒人はそこに存在しないことにされていた。当然のことながら、実際の西部には沢山の黒人たちがいたのだが、ハリウッドが切り取って見せる西部では確認されない。そこで語られる白人の神話に黒人の居場所はなかった。
ハリウッドでは長らく、黒人は存在しているのにカメラのフレームから除外されていたのだ。カメラによって記録されなかった彼らは「存在するけど、いないとされている」、“未確認”な存在だった。
アジア人だってそうだ。スティーヴン・ユアン演じる元子役のジュープは、ハリウッドにおけるアジア人のチャンスの少なさがゆえに今の仕事についている。彼が幼い頃に見た暴れ回る猿。それは型通りの役に抑え込まれた(イエロー)モンキーの鬱憤の爆発。だからこそ、猿はジュープとだけは和解する。
そんな“未確認”とされてきた人々が、なんとしてもUFOの存在を確認させようと奮闘するのがこの作品だ。UFOの存在を証明できれば自分たちの存在も証明できるはずと信じて。
なにが感動的って、そんな一矢報いるリベンジ・マッチを、あえて由緒正しきハリウッド式の映画撮影で戦うその気概にだ。
傍には史上最高の武器IMAXフィルムカメラと、それを操る映像の魔法使いのようなカメラマン。最高のタイミングを伺って雲を待ち、躍動する馬の流麗な運動エネルギーと共に“それ”をフィルムに焼き付ける。
あえてハリウッド式の由緒正しいやり方で「存在しなかった者たち」の手で最高の映像を撮ろうとする。
そこにはハリウッドの伝説でありながら、黒人たちの進出を阻んだ象徴でもあるジョン・フォードの影。あえて彼らのやり方で「俺たちにもできるんだ!」と正面から戦いを挑む。
ハリウッドのやりかたで、ハリウッドへ『NOPE』を叩きつける。
その気概に心から敬服する。