2番手校が優秀層を確保するための2つの戦略

 興味深い記事を読んだ。

 筆者も以前の記事でちょっと述べていた気がするが、2番手校3番手校というのは取りうる戦略が2つ存在する。1つ目はブッキング戦略、2つ目は滑り止め戦略である。前者はトップ校と入試日を被せるやり方であり、3つ目はトップ校と入試日をずらしたり、複数回入試を行うやり方である。

 これが最も露骨なのは中学受験だ。ブッキング戦略を取っているのは灘に対する甲陽、開成に対する麻布、桜蔭に対する女子学院である。いずれもプライドの高い伝統校であり、トップ校と被せることで自分の学校に第一希望で入りたい生徒を採っている。ダブル合格が可能であれば灘にも甲陽にも合格した生徒は灘に行ってしまうかもしれない。これをブッキングによって阻止しているのである。

 一方、滑り止め戦略を採っているのは灘に対する洛南、開成に対する海城、桜蔭に対する豊島岡である。トップ校を運悪く落ちた生徒を回収し、自分の学校の進学実績の向上に利用するのである。公立高校と違ってトップ校の入試は倍率が存在する以上、かならず残念な結果になる優秀層が現れる。それを救済し、大学受験のリベンジにつなげるのだ。

 ブッキング戦略と滑り止め戦略のどちらが好ましいか。基本的にはブッキング戦略である。なぜなら基本的にどこの学校も他校の滑り止めにはされたくないからだ。したがってブッキング戦略を取る学校は2番手校、滑り止め戦略を取る学校は3番手校という扱いになりやすい。滑り止め戦略を取る学校は西大和や洛南のように「なりふり構わない」校風であることもある。

 最もわかりやすいのは首都圏における桜蔭・女子学院・豊島岡の関係である。2番手校の女子学院は桜蔭落ちではなく自校を第一志望にする生徒が欲しい。これが崩れるのがサンデーショックで、この年は桜蔭と女子学院の入試日がズレるので、ダブル合格が桜蔭に行ってしまい、女子学院から生徒が流出する。3番手校の豊島岡は桜蔭を残念だった生徒を拾う。豊島岡のように複数回入試をやっている学校はどうしてもトップ校との優劣が可視化されてしまう。

 首都圏や関西圏の他の入試はもう少し変則的である。首都圏の最難関は開成ではなく筑駒である。この学校はかなり人数が少なく、異常な難易度のせいで進学塾すら対策が厳しいため、意外にも入試制度の鍵を握る存在ではない。筑波大附属や学芸大附属が筑駒と意図してブッキング戦略を採っているとも思えない。国立附属はどうにも私立入試とは違った原理で回っているようだ。

 関西も同様で、東大寺学園は灘落ちを拾っているが、甲陽学院に格が劣っているわけでもない。関西の中学入試が地理的に分散しているという事情が関わっているだろう。

 高校受験はどうか。今度は公立高校という存在が出てくる。公立高校の入試日は基本的に統一である。中学入試と違い、内申点制度によって事前に受験校が調整されているため、倍率は低い。ここにはいろいろな事情がある。ブッキング戦略もあるが、それ以上に入試のキャパシティの問題や、公教育のあり方の問題も関わってくるだろう。地方においては滑り止め戦略として私立高校が存在していることが多い。

 しかし、私立高校が中高一貫化を進める背景にもこれがあるのである。私立高校は伝統的に滑り止めだった。この立場を覆し、自分の学校を積極的に選んでもらう戦略が中高一貫化である。これによって中学入試で優秀な受験生を囲い込み、公立高校の格下にならないで済む。

 首都圏高校受験の場合は影響力のあるトップ校が実は存在しない。筑駒・開成・日比谷の三校の立場は極めて流動的である。どちらの戦略もはっきりはしていない。開成を蹴って学芸大附属や日比谷に行くものは結構存在する。筑駒は単独トップだが、中学受験と同様に影響力は低い。強いて言うなら開成と慶應義塾の入試が被っているくらいだろうか。これのお陰で塾高の偏差値は慶應志木よりも低くなっている。しかし、格式という点では塾高のほうが高いのだ。首都圏であっても高校入試は過疎であり、競争が激しくない。頭が良ければ国立・開成・公立トップのどれかしらには入る。

 大学受験においては国立大学が圧倒的な存在感を誇る。国立入試は全部同じ日であり、ブッキング戦略といえる。以前は東大と京大を併願できた時期があったのだが、ダブル合格者の大半が東大に行ってしまい、京大にはなんのメリットも無かったため、廃止になった。滑り止め戦略を採っているのは私立大学である。ある意味、私立大学は国立大学の永遠の格下として扱われる宿命がある。私立大学の入試科目が少ないのも、国立と比較されたくないというプライドや、国立入試がダメだった人を拾いたいという意図があるのだろう。

 だた、私立大学の間でも入試日がバラバラである。これは受験料を稼ぐためである。入試日がバラバラの場合は倍率が膨れ上がるのだ。公立高校や国立大学は入試コストの低減を取るが、私立大学は商売なので、倍率が高くても受験料が欲しいのである。だから私立大学の統一入試日は存在しないのだ。国立大学に永遠に敵わない以上、プライドをかなぐり捨てているのだろう。

 もう一つ、滑り止め戦略を採っているパターンがある。それは後期入試である。後期入試の場合は基本的には格下の大学を抑えにするように出願する。前期で第一志望を落ちた人間を救済するわけである。ただ大学としても後期入学者は不本意入学なので、あまり受けが良くない。例外は昔の東大後期である。

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