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映画『美晴に傘を』を観て〜小さな光。

渋谷悠さん監督作品、映画『美晴に傘を』を観た。

とても感動したが、簡単に感動という言葉で済ますのは違う、と思っている。

心の中の蝋燭に、そっと火を灯してくれるような、そんな感動。

この映画は、渋谷さんが大学生の時に
書き、コンペで賞に選ばれたものを元に
している。

主人公の美晴(日髙麻鈴さん)は、聴覚過敏を伴う自閉症。

父が亡くなったので、母(田中美里さん)と妹と共に、お骨を納めに、初めて父の故郷へ向かう。

出迎えたのは、無骨な漁師の祖父(升毅さん)。

父は、詩人になりたくて、父親と喧嘩別れする形で家を出て、東京で所帯を持った。

東京で、聴覚過敏を持って生活するのは、
とても大変だと思う。

私は田舎に住んでいるが、それでも
車や飛行機、バイクなどの音に悩まされている。

シャワーの音、ドライヤーの音、トイレの天井にあるファンや、水を流す音、エアコンの音、テレビの音、掃除機の音、話し声、
風の音、雨の音、鳥の鳴き声、お隣さんの芝刈り機の音、とにかく、あらゆる音が、耳に突き刺さってくるのだ。

常に、イヤーマフを着けるか、ヘッドホンや、ノイズキャンセリングのイヤホンで音楽を聴いている。

シャワーからドライヤーを掛けるまでの間は、耳栓をしている。

外出時もイヤーマフを持参、しかし、自転車を漕ぐ時は着けられないので、とても辛い。

そうやって、美晴への共感がどんどん
出てくると同時に、
障害があるが故の、母の過保護も共感した。

私の母も、そっけない過保護だった。

私が学校や仕事に行っているうちに、
勝手に部屋を片付ける。

家の電話は出なくていい。

仕事帰りは真っ直ぐ帰ってきなさい。

そんなことを、そっけなく言うのだ。

映画では、美晴の母は、柔らかい雰囲気を
纏っていて、羨ましかった。

美晴と2人で、父が描いた絵本を読む場面、
そう、私はこれがしたかった。

と、同時に、この映画のタイトルの謎も解ける。

所々で、美晴の夢に傘屋さんが現れて、
美晴を守ってくれる傘をくれる。

そこも、美晴が欲しいものに共感した。

初めは、美晴たちを歓迎していなかった祖父が、一緒に暮らしていくうちに、打ち解ける過程が自然。

やがて、美晴の心に芽生えた気持ち、
それは、生まれて初めての、暖かい気持ち。

妹と、祖父に漢字を教えている女性のサポートを受け、美晴は20歳で初めて、1人で出掛ける。

心配でたまらない母。

しかし、結局は、美晴のその気持ちを尊重することにする。

歳を取った者から、順番に死ぬのが幸せなのか。

障害を持った娘より、1日でも長く生きることが大切なのか。

どちらも正しいと思った。

そして、ラストシーン。圧巻だった。

祖父と母の、掛け合いのような形で、
語られる、息子へ、夫への気持ち。

テンポ、セリフが完璧だ。

私は、これを観る為に、2時間近く
この映画を観てきたのだと思った。

みなさんには、ぜひ、このラストシーンを
観ていただきたい。

私は、この映画から、小さな光をもらったような気がする。

まだ、観たばかりで、頭の整理がついていないが、今の気持ちを記しておく。

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