見出し画像

「家族も一緒に戦っている」と実感した話【秘色の契り 阿波宝暦明和の変 顛末譚】木下昌輝著

徳島藩の財政を立て直すために奔走する
4人の若い役人の話です。
主な登場人物は彼ら4人ですが、
裏で支えていた女性が2名登場します。

1人目は柏木忠兵衛の妻の美寿(みす)、
2人目は五家老の1人である山田真恒(さねつね)の妻八重です。


・おおらかな美寿

私が思う美寿の魅力は、大らかであることです。
藩政のことで頭を抱える忠兵衛に対して
「答えがわからなくてもいいじゃない」と
話す場面があります。

夫の状況を心配しつつも、それを表には出さず、
穏やかに平常心を保っているように見えました。

女中の歌代と楽しそうに会話していたり、
甘いものに目がなかったりと
読者の目線から見ても
ホッと息がつけるシーンでした。

・夫のために命をかけた八重

八重の夫山田真恒は五家老のうちの1人でした。
閉門され、最終的には切腹になりました。

切腹の際、背中の傷を忠兵衛は見つけました。
八重から刃傷沙汰になったことを明かされます。
この事実を他言しないように脅されていました。

その犯人を捕まえるため、
妊娠中の八重がおとりになりました。

残念ながら彼女は斬られて亡くなりましたが、
犯人の手掛かりがつかめました。

・形は違うけれど

この作品の登場人物は男性が圧倒的に多いです。
藩の人間も男性、商人や藍作人も男性ばかりです。
その中で珍しく出てきた女性です。

彼女たちは直接政治に関わるわけではありません。
それでも夫の身を案じている様子が伝わりました。
武士の妻として、自分の役割を全うしたように見えました。

・感想

緊迫する描写が多い中、
時々出てくる夫婦の会話にホッとしました。

読者でもそう感じたので、
忠兵衛はもっと感じたかもしれません。

主君として蜂須賀重喜を迎えた時、
忠兵衛が「明君なのか、暗君なのか」と思い悩んだ時に美寿からこんなアドバイスをされます。

「最初から明君だった方などおられませんよ。まだ齢は十七、いえ十八になられたんでしたっけ。すぐに判断するのは酷というものですよ。あなただって、そうだったじゃないですか」

秘色の契り p50

私はこのセリフに彼女の大らかさを感じました。
「急いで結論を出す必要はない」と言われているかのようでした。

以上、ちえでした。
プロフィールはこちらです。
他のSNSはこちらです。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集