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混乱必至。人間の妄想?種族を越えた友情?【猿の戴冠式】小砂川チト著

猿と人間の不思議な友情の話。
競歩の選手である瀬尾しふみは、
テレビの動物番組で見たボノボ(猿)に対して
「お姉ちゃん」と共感を示します。

両者の意識が混ざり合っているかのようです。
そのせいか、主語がわからなくなります。

「今の主語はどっち?シネノ?しふみ?」と
混乱必死の話です。
私自身何度も主語がわからなくなり、前後を読み直しました。


・何かが欠けている2人

シネノは、「どういたしまして」という意味です。
「ありがとう」という意味の名前の姉がいましたが、 
早くに亡くなりました。

しふみは、フランス語で「じゃんけん」を意味します。
そうなると「ポン」が対になりますが、
「ポン」に当てはまる人がいません。

両者ともに何かが欠けているような状態でした。

そんな彼らが生き物の種族を越えて出会いました。

・好奇の目にさらされる2人

シネノは言葉を扱えるように訓練されていました。

ある時、手をヒラヒラさせて何か形を作ろうとしたのを観客に撮られました。
手話ができると思われたようです。
一時、動物園に観客が殺到しました。

しふみは競歩の選手です。
美人だったため、ルックスの面でも注目。
見た目でとやかく言われるののに疲れていました。

「見た目なんて、どうでもいい」と言いつつ、
鏡ばかり見てしまうという矛盾が生じました。
心身のバランスを崩し、競技を離れているところでした。

・自分で自分を認めるしかない

いい子のかんむりは/ヒトにもらうものではなく/そう自分で/自分に/さずけるもの

猿の戴冠式 p92

タイトルの『猿の戴冠式』から「一体どんな話なんだろうか」と疑問が湧いていました。

戴冠式ってことは、冠があるのは想像できました。

誰かに授けてもらうのではなく、
自分自身を認めて
自分で授けようと気づきました。

しふみも最終的には競技に復帰します。
ある意味、自分を認められるようになったので、
復帰できたのかもしれません。

・感想

こうやって感想は書いているものの、
どこかつかみどころがなく苦労しました。

一番苦労したのは主語がわからなくなることです。
「これは現実?妄想の世界?」と混乱しました。

余談ですが、著者が前回芥川賞候補作になった
『家庭用安心坑夫』も妄想についての話でした。

テーマパークのマネキンが父親と言われて
育てられてきた女性の話です。
突然マネキンが見えるようになりました。

「どうしたらこんな話になるのか」と
度肝を抜かれました。

今回も受賞は逃したものの、一定の評価をしてる選評委員が多かったように感じました。
「私の読解力はまだまだ」と痛感に立たせられた作品です。

以上、ちえでした。
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