「竜とそばかすの姫」監督:細田守/2021
<こんなお話>
高知県の田舎町に住む女子高生・すずは幼い頃に母を事故で亡くして以来、大好きだった歌を歌えなくなり、父との関係にも溝が生まれていた。作曲だけが生き甲斐となっていたすずはある日、ネットに詳しい友人ヒロちゃんの手引きの下、全世界で50億人以上が集う超巨大インターネット空間の仮想世界〈U〉にベルという〈As〉(アバター)で参加する。そこでは自然と歌えたすず(ベル)は自作の歌を披露し、突如として歌姫として世界中から注目を集める。
<レビュー>
「サマーウォーズ」や「デジモン」に共通する『仮想空間』をテーマにした作品です。オマージュは、ディズニーでおなじみ「美女と野獣」。
とはいえ、単なるラブストーリーでは終わらず、野獣を救うベースはそのままに、美女自身(ベル)も救いを求める物語になっております。
母親の死により心に闇を抱えた主人公・すず。他人の子を助けるために犠牲になった彼女の母を、当時ネット民が心無い言葉で非難するのですが、いや〜リアル。実際、こんな事件が起きたら、こういう声が上がるだろうなって書き込みばかりで。
細田監督は、インタビューで次のように語っています。
"ちょっと先の未来”をファンタジックに描きながらも、リアリティを追求する描写を漏らさない。この両立があればこそ、細田ファンタジーがより鑑賞者の心を震わせるんですね。
ひょんなことから仮想世界「U」へと足を踏み込む彼女ですが、そこでも新参者・ベルに対して、厳しい意見が・・・。でも、アンチもいれば、ファンもいる。すず自身があーだこーだ言うまでもなく、どんどんベルが"謎多き存在”として神格化されていく様子は、まさに今時のインターネット事情そのものでした!
そして、すずは戸惑いながらも「救いたい」一心で「竜」を追い求めます。誰かを「救いたい」心、それはきっと「自分を救うこと」でもある。それは、他人の子だろうが、命を見捨てなかった、母親の心とも繋がる行動だったんだなぁ、と。
最後の温かな光・・・。誹謗中傷による自殺やネットが絡む犯罪が目立ち、「インターネット=悪」の印象が強まる昨今ですが、細田監督が言うように、ツラいことが起こるのはネットでも現実でも、どちらも同じこと。ネットで奪われる命があれば、また救われる命もある。
インターネットと現実、2つの世界を当たり前に生きる、これからの子供たちにとって、ベルを包む温かな光、そして現実世界で救い出された「竜」は大きな希望になるんじゃないか、そうあってほしいと強く感じました。
余談ですが、うちも細田監督と同じぐらいの歳の子がおりまして。もう彼らが大きくなった時の世界なんて、想像すらつかない。昭和の価値観なんて、もう使いもんにもならんのだろうなぁ・・・。
もう親として、その世界でどう生きるかなんて指南できないわけなので、ただ一つ望むのは「強い心を持って」。まだまだ未知数のインターネット世界をとにかく強く生きて欲しいっていう細田監督の親心、めちゃくちゃ共感です!!
ちなみに、個人的ベストキャラクター賞は、すずをずっと傍で見守っている「ヒロちゃん」!YOASOBIの幾田さん、うま過ぎませんか?!今回が演技初らしいんですが、俳優顔負け!ヒロちゃんをとても魅力的に演じていて、いい意味で期待を裏切られました!
欲を言えば、合唱隊のおばさま5人組が、もうちょっと存在感があればなぁ・・・。ストーリー上、あまり出番を入れづらかったのかもですが、ちょっと中途半端な存在だったかな〜と。そこはちょっともったいなかったです!
▼ 7月8日の金ローで地上波初放送!▼
ーーーーーーーーーーーーーー
「竜とそばかすの姫」2015
<スタッフ>
監督・脚本・原作:細田守
音楽:岩崎太整(音楽監督)、Ludvig Forssell、坂東祐大
撮影:李周美、上遠野学、町田哲
編集:西山茂
制作会社:スタジオ地図
<出演者>
中村佳穂
成田凌
染谷将太
玉城ティナ
幾田りら
森川智之
津田健次郎