小学生の頃
ピアノの音色は美しい。楽器の中で一番好きだ。
小学生の頃、学校の音楽会でピアノを弾く同級生の女の子がいた。
性格が良くてとても可愛い、おまけにピアノも弾ける。
ひそかに想いを寄せていた。
当時の私は内気で寡黙、勉強も運動もイマイチ。自分に全く自信がなかった。友達よりも優れている何かを探していたのかもしれない。
ピアノだったら、音楽会やピアノ教室の発表会で大きな拍手をもらえる。
自由自在に好きな曲が弾けて、周りの人を喜ばせることもできる。そんなことを考え、ひそかにピアノを習いたいと思っていた。
でもその頃は、祖父が事業に失敗してできた借金を返すために、父は昼間は会社員として働き、夜はアルバイトをしていた。母は夕方までパート。学校から帰ると隣の祖母の家に行ってテレビを見る。そんな生活だった。父が深夜に帰宅してからは、両親が明け方近くまで内職をしていたので、家が貧しいことは子供の目にも明らかだった。
でも、両親は貧しいとは言わずに精一杯に育ててくれた。それは今でも感謝している。
ピアノを習うイコールピアノを買うことは小学生の私でも理解できた。今でこそ電子ピアノ、鍵盤ピアノなど選択肢は豊富にあるし、オンラインでピアノを習うこともできるが、当時はなかった。
私は母の遺伝子を半分受け継いでいる。私はHSPで母もそう。非常に繊細で周囲の感情を先回りしてしまう。そんな母が先回りしてある時、「ピアノ習ったら?」と言ってくれた。でもその時は、「ピアノ教室って女子ばっかりだからいいや」と言った。
今はYouTubeのストリートピアノでも男性のピアニストをよく見かけるが、当時の男子の習い事は「野球・そろばん」、女子は「ピアノ・そろばん・習字」と相場が決まっていた。両親の苦労を間近で見ていたので、「ピアノを買う余裕はうちにはないでしょ?」とは言えなかった。もし言ったら、両親は何とか工面して中古のピアノを買ってくれたかもしれない。でもそれは言えなかった。
私は「ピアノよりも習字の方がいいかな?」と言った。習字が習いたいわけではなかったが、何か習い事をしないと母に悪いかな?とHSP気質で先回りしてしまった。結果、習いたくもない習字教室に通うことになった。
重い肺炎にかかり夜眠れなくて毎晩布団の中で、YouTubeのピアノ演奏を聴いていた。色んな人のピアノを聞いたが、一番心地よかったのは、X JAPANのYOSHIKIさんだった。彼も私と同じく「うつ病」を患い治療を受けていた。彼の半生は愛する人の死が次々にあり、その悲しさ、辛さ、せつなさに想いを寄せた。
私も病気をしたことで、やるせなさ、あきらめ、不安、家族への申し訳なさなどの感情が起こった。誰にも話すことができない、相談もできない。うつ病になったと恥ずかしくて言えない。ずっとそんな気持ちだった。YOSHIKIさんのピアノの音色を聞くと、その音色に彼の今までの半生と様々な感情が重なり合い、心に沁みた。そこに自分の心の中で渦巻く悲しみや不安がさらに重なる。そんなことを感じながら、毎晩聞いていた。
今日仲良しのFFさんがピアノを弾けることを知り、小学生の頃の思い出がよみがえってきた。
そして、ふと自分が親に気を遣ってピアノを習えずにいたが、自分が親になりうつ病になり、仕事も病気退職してしまい、小学生の頃の自分と同じように子供達に気を遣わせていると思った。
家族に対する申し訳なさで一杯になった。
これから家族に恩返しをしたい。
そしていつの日か、ピアノの音色でお世話になった人達を癒せる自分になりたい。そんなことを思った日だった。