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絶対音感

 Wikipediaには、「ある音を単独で聴いたときに、その音の高さを記憶に基づいて絶対的に認識する能力」と難しく書いてありますが、簡単に言うと何らかの音を聴いた時にすぐにドレミが分かるってことだと思います。絶対音感が何かすごいもの、すばらしいものと思っていらっしゃる方が多いと思いますが、実際には必ずしもそうではありません。楽器の演奏には相対音感があれば十分ですし、むしろアンサンブルを考えると相対音感の方がいいかもしれません。

 絶対音感があるから楽器が弾けるとか、うまく歌が歌えるわけではありません。バンド演奏ができる店でドラムを叩いていた時に「さすが絶対音感ですね」と言われて、「それ違うから」と(心の中で)言ったこともあります。

 私はなんちゃって絶対音感でしたが、絶対音感のために困ることは多々ありました。もちろんいいこともあります。いわゆる「耳コピ」にはあまり苦労しません。チューニングも得意です。聴いた曲のメロディは楽譜にしなくても弾けてしまいます(音の高さと鍵盤がすぐ対応するためです。ちなみに音感が衰えた最近は、相対化して弾きやすい調に変換してしまいます)。

 困ることはいろいろあります。
① 駅メロがドレミで聴こえてきます。つまり、日常生活の音がドレミに変換されて聴こえてしまいます。私はそこまでではありませんでしたが、鳥のさえずりや食器の鳴る音などが音名になってしまう人もいるそうです。2次的なこととして、歌を聴いた時にドレミにすぐ変換されるので、歌詞が頭に入ってこないこともありました。

② 耳コピが得意ということは、不利にもはたらきます。楽譜を読むより耳で聴いて憶える→楽譜を読むのが面倒・苦手になるからです。

③ 移調楽器の演奏が苦手です。たとえば、テナーサックスはB♭調の楽器なので、サックスの楽譜に記載されているドの音はピアノではB♭となります。「楽譜に書いてある音が『ド』なら楽器から出る音も『ド』でないといけないはず」と脳が混乱します。同じ理由で、電子ピアノでトランスポーズ(調を変える機能)を使うと、「この鍵盤からこの音がでるはずがない!」となってしまいます。

④ 絶対音感とは少しずれますが、訓練のためかちょっとした音程の違いが気になります。ピアノは平均律ですので、純正律の楽器とは音程がもともと異なります。そのおかげで二十歳ぐらいまでは、ピアノと他の楽器の合奏を聴くと頭痛や吐き気が起こることがありました。今でもバイオリンは調子っぱずれに聴こえますが、許容できるようになりました。「複数の楽器でどのようにハーモニーを作るか」など、きっちり訓練を受け、経験されている演奏家の方にはそういうことは起こらないようですので、私の絶対音感は中途半端だったのでしょう。音が混じるのも気になります。デパートで店ごとにBGMが異なる場合がありますが、すべてを聞こうとしてしまうので頭痛の種でした。

 実際にはいろんな音を聞き分ける能力の方が役に立つでしょうね。バンド練習でも、個々の音がわかった方が全体のバランスがわかりますし、アレンジもやりやすいと思います。聞き分ける力は意外なところ、医師としての仕事に役に立っていて、子どもの胸部聴診の時などにいろんな雑音を聞き分けることができます。

 今はもう記憶力を含め脳が衰えてきたので、音感もかなり落ちてきました。前ほど音程のずれは気にならないし、耳コピ間違えるし、おかげさまで第二の音楽人生を楽しんでいます。今は駅メロも、頭の中で変換して、その曲の調のドレミで(相対音階で)鳴らすことができます。音程のズレが気になるため歌うのが苦手だったのですが、今はカラオケ大好きですし、原キーじゃなくても大丈夫です。生活音が音符に変わることも少なくなりました。6歳あたりに訓練したのがよかったのかなあ。もし、もっと幼い時期にやっていたら、記憶が固定されて大変なことになっていたかもしれませんね。

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