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粉を運んだだけなのに|ショートショート

「この粉を…あの子に届けて欲しいんだ。」

運び屋として森に生まれた私には、このような依頼がひっきりなしに来る。当初は、どこに運んでも同じだろうと思っていた。
しかし彼らにはそれぞれ個性があり、それぞれの粉にメッセージがある。
届け先を間違えるわけにはいかない。

無事に届け終えても、また次の依頼が来る。
生まれてこの方、休む暇がない。
ここに生まれた宿命と思って、あきらめるしかないのだ。

それに、とてもやりがいのある仕事だ。
「ワタシも殿方から粉を頂けるようになるなんて、嬉しいわ。ありがとう。」
届け先の、ほころんだ表情があるから、私はこの仕事を続けていける。

時々、ふと考える。
私は誰かの恋を実らせてばっかりだということを。

誰かに想われたりすることが、私にもあるのだろうか。
そう思っていると、突然、名前を呼ばれた。


「春風さんですね。」
「は…はい。」


振り返った途端、急に拘束された。

「あなたを現行犯逮捕します。有害な粉を運んだ容疑で。」

(了:410字)


たらはかにさん(田原にかさん)の「 #毎週ショートショートnote 」に参加しています。今回のお題は、「 #恋花粉 」でした。

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X上で詠んでいる短歌が100首目となったので、記念にコラボしたショートショートです!

こちらの短歌ですが、「単語で短歌」を運営している野口み里さんに選評いただいてます!ありがとうございます。

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